
サウナビジネスは温浴業界に限らず、ファッションやビューティ企業の参入が後を絶たない。ファッション企業からは各社が得意とするデザイン力を生かしたアイテムが目白押しだ。サウナと美容は親和性が高く、ビューティ企業のコミュニケーション戦略にも注目したい。サウナ市場が盛り上がっている今、マーケットの可能性に迫る。(この記事は「WWDJAPAN」2023年9月18日号からの抜粋です)
ジンズ

(右)北垣内康文(きたがいと・やすのり)/ジンズ プロダクト開発G グループリーダー プロフィール
1979年12月5日大阪府堺市生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、広告制作会社に入社するもエスケープ。自作の眼鏡を鯖江の眼鏡メーカーに売り込むも断念。2005年にジンズに入社。Airframe、JINS SCREEN、JINS MAGNET、JINS Switchなど数々の製品デザインを担当。現在も新製品開発に従事
(左)叶雄吾(かのう・ゆうご)/ジンズ 商品マーケティング本部 商品戦略部MD課 プロフィール
1989年3月28日東京都杉並区生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン専攻卒業後、福岡のシューズメーカーにて新規ブランドの立ち上げと製品デザインを担当。2021年にジンズに入社。アパレル業界での経験を活かしながらアイウエアの製品企画に従事
PHOTO : KAZUSHI TOYOTA
「ジンズ(JINS)」が2月に発売した“ジンズサウナ”の存在感が高まっている。上半期に発売した約40の新商品のうち、30〜40代の男性客による売り上げは1位、全体の売り上げでも6位にランクインした。毎回、万人向けやコラボ商品が上位を占めるが、ニーズが特化している商品のランクインは珍しいという。2023年上半期の「日経MJヒット商品番付」にも選出されたほか、メディアによる報道も多く、継続的に話題を集めている。
メガネの市場ではサウナでも使える「お風呂用メガネ」がすでに存在しているが、ほとんどが1パターンのフレームに度数が固定された既製品で、入浴以外のシーンで使われることは少ない。「サウナ好きな人はサウナが日常の一部になっている。思い立ったらすぐ行けるように、日常使いもできるデザインやカスタマイズ可能なレンズ度数を採用した」(叶雄吾MD)と、これまでの商品とは一線を画す“サ(ウナ)陸両用”メガネを開発した。
“ジンズサウナ”の開発には、耐熱性や安全性を確保するために、通常よりも長い1年半の期間を費やした。フレームとレンズには、耐熱温度120度の素材を採用し、軽量タイプで長時間かけても快適なかけ心地を実現した。「若い人にもサウナを楽しんでもらいたく、ファッションと合わせやすいデザインを意識した」と、フレームは定番人気のボストンやスリムラウンドなど4型12種を用意。1番人気はウエリントンのブラックで、指名買いも多い。旗艦店の渋谷店でよく動いているという。
発売にあたり、コミュニケーションにも力を入れた。全国160カ所の温浴施設にポスターを掲示し、施設のスタッフなどにサンプリングを行った。また、公式サイトでは、「見てもととのうサウナ4選」と題した4つの動画を、発売日の2月6日(風呂の日)から3月7日(サウナの日)にかけて順次公開し、サウナユーザーの興味関心を喚起した。
“ジンズサウナ”の購買層は、男性が7割、女性が3割で、サウナ以外に活用しているユーザーが一定数いる。レンズのくもり止め加工がマスク併用の生活にも役立ち、介護現場で入浴介助に使う人もいる。
将来的には、ラインアップの拡充を検討する。北垣内康文グループリーダーは、「お風呂でメガネをかけることに抵抗を感じている人は少なくない。しかし、“ジンズサウナ”を使えば視界がクリアになり、段差やぬれた床など危険を解消できる。視覚的なサポートを通じてサウナ体験をより楽しむことができるように、サウナメガネを新常識にしていきたい」。
目でも“ととのう”特別ムービーで訴求

「ジンズ」公式サイト内の“ジンズサウナ”特設ページではオリジナルムービー「見てもととのうサウナ4選」を公開している。「タカラ湯」「飛雪の滝キャンプ場」「ホテルマウント富士」「天空SPA HILLS竜泉寺の湯」で撮影された“目でもととのえられる”内容だ。声優の⼤塚明夫によるナレーションで耳まで一緒に“ととのう”を提供する。
新オフィスにサウナ導入予定

ジンズホールディングスは、東京本社を千代田区富士見(飯田橋)から同区の神田錦町に移転し、5月29日に稼働した。新オフィスは「壊しながら、つくる」がコンセプト。オフィスの上階にサウナを導入する予定で、コミュニケーションの活性化や、心身の健康増進などを通じて、社員がよりクリエイティビティーを高められるように年内の完成を目指す。
MTG

(左)田口真佐樹(たぐち・まさき)/MTG プロフェッショナル エージェントセールス営業本部 イベント営業課 施設Gリーダー プロフィール
1974年長崎生まれ。料理人から営業へ。2007年MTG正規代理店入社。BtoB、 BtoC、戦略室など経験。2020年8月にMTGプロフェッショナル入社。フィットネス、温浴、ゴルフ市場を担当
(右)大竹靖子(おおたけ・やすこ)/MTG コア事業統括本部 ビューティブランド本部 マーケティング部 プロモーション課 プロフィール
1975年静岡県生まれ。帝京大学文学部心理学科卒業後、ラ・エスト入社、都内でのファッションコーディネーター勤務を経て、2000年結婚を機に愛知県名古屋市へ転居。2児出産後はブロガー、個人事業、オンラインショップ運営等を経て、2013年に株式会社MTGに入社。人事企画部にて中途採用・部門人事等を経験後、現在は「リファ」ブランドのプロモーション、戦略PR業務に従事
PHOTO : TAMEKI OSHIRO
MTGの美容ブランド「リファ」のアイテムを導入する温浴施設が増えている。「リファ」は、ホテルとのコラボを通じて人気のアイテムを体験できる“リファルーム”など、商品体験の場を増やす取り組みを推進している。シャワーヘッド“リファファインバブル S”の発売は、消費者が実際に試してみたいという需要と、温浴施設の導入希望が一致した。同社によると、全国250以上の温浴施設で700台以上のシャワーヘッドが導入され、ヘアドライヤー“リファビューテック ドライヤープロ”なども採用されている。田口真佐樹リーダーは、「商談を経ずに直接、百貨店やECで購入したアイテムを導入する温浴施設も多い。実際の導入件数はおそらく倍はあると見込んでいる」と話す。
温浴施設によっては、利用客の反応を見るために他社ブランドと一緒に設置されることもあるという。「『リファ』は利用客からの高評価の声に加え、施設側からは耐久性への信頼も高く、設置台数が順調に増えている」。最近では、男性エリアにも「リファ」商品の設置が増え、男性客からの購入も目立つ。
“リファファインバブル S”は温浴施設でも販売し、売れ筋だ。「商品を実際に使用した後に、リラックスできる空間が購入の後押しになっている」(大竹靖子氏)と分析する。疑似体験を通じて実感が生まれ、購入へとつながっている。温浴施設は新たなタッチポイントとして広がりを見せている。
同社のスキンケアブランド「オンアンドドゥー(ON&DO)」も同様に、温浴施設との施策で知名度を広げる。アメニティーやサンプルを設置するほか、サウナイベントを通じて商品をプロモーションする。熱波師に“リフレッシングミスト”をプレゼントしたことで評判が広がり、SNSなどで口コミが拡散された。
サウナ愛好家たちはSNSでつながりあい、“リアルな声”が集まりやすい。「この施設には『リファ』が置いてある」と広まり、試用を希望する顧客が温浴施設を訪れるケースもある。今後も、温浴施設における商品販売は可能性を秘めているという。「疑似体験できる需要との調和が取れているので、ますます成長すると予想する」。今冬にはサウナをテーマにした企画を検討する。