ファッション

「カルティエ」がパリの専門教育機関を一般開放 職人技術を未来に継承する場でサヴォアフェールに触れる

「カルティエ(CARTIER)」は、ヨーロッパ文化遺産の日(Journees du Patrimoine)にあたる9月16、17日(現地時間)、パリ中心地に構えるジュエリー専門職人の研修の場「カルティエ インスティチュート(Cartier Institute)」のオープンハウスを開催した。同施設は2002年に設立され、18世紀に私邸として建てられたパリ9区の現在の場所へと16年に移転。従業員である職人に対して継続的な教育を行い、専門能力の発展をサポートすることを掲げており、フランスで働く約340名の職人のうち、毎年150〜200人がトレーニングを受けている。同施設で提供されるトレーニングは、年間4500時間に上る。

オープンハウスのプレビューでは、各分野の職人から直接説明を聞けたほか、模型の制作体験が提供され、「カルティエ」のユニークな専門知識に触れることができた。3フロアからなる施設の最初のスペースでは、まずジュエリーの礎となるロストワックス鋳造によるワックスモデリングが行われる。そして、金属模型から型を取り、その型にワックスを注入し、さらにそこに石膏を入れ、最後に貴金属を石膏型に流し込むという作業工程を経ていく。ワックスは極端に柔らかいため、力を入れなくても自由に加工でき、金属では作りにくい流れるような曲線を作り出せる。装飾だけでなく、快適な着け心地を保証するのに重要なプロセスだという。

その近くの作業台では、宝石細工師が原石を美しいジュエリーへと昇華させる緻密な作業に勤しんでいた。「カルティエ」で宝石細工師として28年間も技術を磨き続けるベテランの職人は、「天然の内包物の位置や色の濃淡、へき開面(結晶面に平行して割れた面)が異なる一つひとつの原石の特徴を考慮してカットする必要があります。石と向き合い、命を吹き込む作業は、非常に大きな感情を喚起し、それがジュエリーと着用者に伝わると思っています」と話した。

それらの宝石は、石留職人により一つひとつ石座にセットされていく。宝石をセッティングする方法は複数あり、それぞれに使用される工具やノウハウも異なる。一つの技法を極めるのに、10年の時間が必要だという。なかには、宝石をセッティングする場所にドリルで一つずつ石座となる穴を開けて、彫金鏨(たがね)でダイヤモンドを留める爪を掘り起こす複雑な技術もある。「カルティエ」を象徴するパンテール(豹)のモチーフには、6種類のセッティングを取り入れることで、貴金属と全体の調和、宝石の輝きを最大限に引き出している。そして、セッティング作業の前後に欠かせないのが宝石研磨。わずかな違いで輝きや強度に変化が起こる研磨のステップは、約0.003mmの調整を手作業で行う繊細な世界だ。宝石の研磨法が開発されたのは600年以上前と非常に古く、「カルティエ」の宝石研磨師はガチョウの羽根を使って研磨する先祖伝来のさまざま技術を習得している。

2階には、宝石彫刻師らがデザイン画の作成から彫刻を行う作業場が設けられている。彼らはトルマリンやスギライトといった貴石に、切削研磨する工具やドリルを用いてインタリオ(沈み彫り)とカメオ(浮き彫り)、彫刻で花やパンテールを描き出す。フランス人間国宝の称号メートル・ダールを授与されたフィリップ・ニコラ(Philippe Nicolas)が10年に「カルティエ」に内包されるアトリエを設立し、その技術を弟子たちが継承している。芸術的な工芸品である宝石彫刻を教える学校は存在しないため、メゾンだけでなく国にとって、このアトリエは技術の保護と永続に関わる非常に貴重な場だ。

プレビューを通して、同施設は職人技術の伝承と未来の職人を養う場として機能していることが見て取れた。さらに、ジュエリー専門学校の学生を実習生・研修生として同施設に受け入れ、ジュエリー業界全体の発展と雇用促進にも寄与する。若手の育成を未来への投資と捉え、本年度は学生の採用数を2倍に増やしたうえ、今後も積極的にトレーニングの機会を設けるという。

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