ファッション

「バレンシアガ」がパリ本社でアーカイブ展 創業者が顧客のために制作した30着のクチュールを披露

バレンシアガ(BALENCIAGA)」は、ヨーロッパ文化遺産の日(Journees du Patrimoine)にあたる2023年9月16、17日(現地時間)、創業者クリストバル・バレンシアガ(Christobal Balenciaga)のアーカイブ展覧会「ザ・ウーマン・ビハインド・ザ・ドレス(The Women Behind The Dress)」を開催した。フランスでは毎年9月の第3週目にヨーロッパ文化遺産の日を設け、政府機関や文化施設、美術館などを解放し、多くは無料で来場者を受け入れる。「バレンシアガ」はこの文化発展・向上を目的としたイベントのために、普段は関係者のみが入れるパリのケリング(Kering)と同メゾンの本社であるセーブル通り40番地を一般開放し、創業者が制作した未発表作品を含む30着のオートクチュールと20点の形態学的なマネキンを展示。メゾンのクライアントであったロイヤルファミリーや著名人から親しい友人まで、それぞれの身体に合わせて作られたオーダーメードの作品を通じて、女性の身体に対する創業者の特別な配慮と衣服で自己表現する方法をたたえた。

展覧会で披露されたのは、クリストバルと個人的に親交のあった顧客のために40年代後半〜60年代中盤に制作されたドレス。その顧客は、モナコ公国の公妃でアメリカ人女優だったグレース・ケリー(Grace Kelly)や、1947年から創業者が引退する68年までメゾンのディレクターを務めたマドモワゼル・レネ(Madamoiselle Renee)から、ジョン・F・ケネディ(John F Kennedy)が米大統領を務めていた頃にホワイトハウスにバラ園を創設したアメリカ人造園家でアートコレクターのレイチェル・L・メロン(Rachal L Mellon)、創業者の出身国であるスペインの外交官の妻まで幅広い。

デコルテとショルダーラインを美しく見せるネックラインの独特なカットや、ビーズとスパンコールを用いた緻密な刺しゅう、ドレープで生み出す優美な装飾にも目を引かれたが、最も際立っていたのは“ファッション界の建築家”と呼ばれた創業者が生み出したシルエットの美しさだ。当時人気を博していたウエストをシェイプさせたAラインシルエットのほかに、58年の作品である“サック・ドレス”や60年代に発表された“ケープ・コート”をほうふつとさせる、ウエストラインを持たない独自の構造で作られた造形的なドレスが並ぶ。接ぎ線を最小限にとどめ、ベルベットやシルクタフタといった厚みのある素材の特性を生かして立体的に仕立てたり、裁断線を最小限に抑えることで前身頃から一枚続きで仕立てたように見える彫刻的なシルエットを描いたりと、計算され尽くした構造と優れた裁断技術が遺憾なく発揮されている。そんな服作りを通して、クリストバルはシルエットに変革をもたらし、女性に対する抑制された理想を軽やかに取り除いた。現在メゾンを率いるデムナ(Demna)=アーティスティック・ディレクターは、「彼が服を使って身体の上に創り出したものは、ちょっとした美容整形のようなものだった」とコメントを寄せた。

同展では、各作品の隣に、着想者の身体の構造を再現した衣服のプロトタイプを、チュールやパッドを使ってメゾンのクチュリエが表現した作品が並んだ。これらは、創業者が制作した作品をもとに実際の肩幅やウエスト、背筋の曲がり方までが再現されている。そこからは、一人ひとり異なるユニークな身体に合う一点もののドレスを作った、創業者の厳格なものづくりへの姿勢が垣間見える。

完璧を追い求めた創業者の理念と美学は、今なお受け継がれている。展示された作品の一つで、ネックラインにパールがあしらわれたベルベットのドレスは、グレース公妃が40歳の誕生日のためにオーダーした作品。もともとは66年に創業者のお気に入りでありハウスモデルを務めていたダニエル・スラヴィック(Danielle Slavick)が着用して公に披露されたものだ。そして今年7月に発表されたメゾン52回目のクチュールショーでは、デムナによって忠実に再現されたドレスを彼女が再び着用し、伝統と遺産のつながりを示す象徴的な作品としてファーストルックを飾った。2日間のみ無料で開放された同展で「バレンシアガ」は、創業者から継承される衣服を造形する熟練の技をたたえるとともに、それらを身にまとう女性に対する新たな視点と評価の方法を提案した。

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