「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」は2024年春夏パリ・ファッション・ウイーク初日の9月25日、「Dress as a painting, Painting as a dress(絵画としてのドレス、ドレスとしての絵画)」をテーマにした新作コレクションを披露した。同コレクションは、ブランドの代名詞とも言えるラッフルのドレスに色とりどりの絵の具でペイントを施した一点もので構成。その制作方法はユニークで、いくつかのピースをつないで作った大きなキャンバスのような四角形の白いラッフル生地の上に「花のブーケ」や「自画像」など一つひとつ異なる題材で絵を描き、それをバラバラに解体してドレスに仕立てている。
これまでも夢にあふれる唯一無二の作品を手掛けてきた小泉智貴デザイナーはアーティストに近いクリエイターという印象で、実際に「トモ コイズミ」のドレスはニューヨーク・メトロポリタン美術館など国内外の美術館に収蔵されている。しかし、同コレクションの背景には、あらためて「ただの服というだけではなく、アートとして扱えるものを作りたいという思いがあった」とし、次のように説明する。「アートは基本的に一生残すものとして見られるが、ファッションは消費される実用品として見られることが多いのが実情。ファッションだからといって、軽く見られたくない。そして、こういったものづくりがドレスやファッションの“地位向上”につながれば。ウエアラブルでクールな服を作ることもいいとは思うけれど、自分のようにメジャーではなくオルタナティブなスタイルを持ったデザイナーがいることを示していきたい。もちろん、これは自分の可能性を広げるためでもあるが、これからファッション界を志す自分より若い世代の表現の自由度を高めることにつながればいいなと考えている。ファッションとアートをクロスオーバーさせれば、より自由で面白いものが生まれると思う」。
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そんな思いから生まれた今回のコレクションの発表は、12月9日から東京・天王洲テラダアートコンプレックス内YUKIKO MIZUTANIギャラリーで開催する初の個展に先駆けたものだ。「NHKの番組『あさイチ』に出演したことをきっかけに、同ギャラリーの水谷有木子オーナーから連絡をもらい、作品制作のための場所を提供してもらえることになった」と話す小泉デザイナーは、奇しくもその直前に油絵の道具を購入していたという。「大学が教育学部の美術科だったので油絵や彫刻を学んだことはあったが、深めたことはなかった。でも油絵にはずっと憧れがあって、いつかはやってみたかった。手探りで服を作り始めてからは約20年、ニューヨークでファッションショーをやってからも4〜5年が経ち、自分の次のステップを考えた時、それはリテール(小売り)ではなくアートにあると感じた」。そうして、1年前にコンテンポラリーアートの制作をスタートさせた。その過程については「実際、今も試行錯誤を重ねているところ」と明かす。「でも、迷ったりトライしたりするのは成長するため。そういった成長過程を見せられるのはアーティストとしての強みだと思うし、そこにも美しいがある」。そのため、今回パリで披露したものが必ずしも完成形ではなく、見せ方も変わるかもしれないという。また、東京での個展ではキャンバスに描いた油絵も制作し、展示する予定だ。
同ブランドはこの2シーズン、22年9月に受賞した「ファッション プライズ オブ トーキョー(FASHION PRIZE OF TOKYO)」の支援のもと、パリでコレクションを披露。昨シーズンは「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」のサポートを受けて、ミラノ・ファッション・ウイークでもショーを開き、海外での発表に挑んできた。しかし、今後について尋ねると「来年はファッションをお休みして、アートに注力しようと考えている」と小泉デザイナー。そこには、「ファッションとアート、それぞれで得たものをもう一つの分野に生かしたい。長く続けていくためには、自分の居場所を2つ持つことが重要」という考えがあり、「再来年にまた新しいコレクションを披露できれば」と語った。