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「ディオール」vs「サンローラン」で開幕 「マメ」「CFCL」「アンリアレイジ」日本勢も好発進【2024年春夏パリコレ取材24時vol.1】

東京、ニューヨーク、ロンドン、ミラノに続き、2024年春夏のパリ・ファッション・ウイークがスタートしました。今シーズンも「WWDJAPAN」の取材チームは朝から晩まで体力の許す限り、街中を駆け巡ります!担当するのは、3年半ぶりに渡仏する編集統括兼サステナビリティ・ディレクターの向と、コロナ禍もずっと現地取材を続けている欧州通信員の藪野。てんやわんやなパリコレの“リアル”をお届けします!

10:00「ピーター ドゥ」

これまでニューヨーク・ファッション・ウイークに参加していた「ピーター ドゥ(PETER DO)」が満を持して、初めてパリでショーを行いました。今季はクリエイティブ・ディレクターに就任した「ヘルムート ラング(HELMUT LANG)」のデビューコレクションもNYで披露し大忙しのピーターですが、「ピーター ドゥ」は「自分のパーソナルな部分や生活を映し出し、常に進化を続けるものだ」と言います。そして、ブランドを立ち上げて5年以上が経ち、32歳になった彼は「より成熟した服を作りたかった」と。服自体に焦点を当てるためのミニマルなセッティングの中、ブランドらしいシャープなテーラリングを軸にオフィスウエア的なワードローブを再解釈したコレクションを見せました。

今季のポイントは、ウエストの高い位置で裏地の素材を切り替えたパワーショルダーのジャケット。クロップド丈で仕立てたジャケットやウエスト部分のみを切り替えたテーラードコートもあり、素材のコントラストを効かせています。シャツやニット、パンツにもグラフィカルな切り替えを生かし、白、黒、赤を中心としたカラーブロッキングルックを打ち出しました。また、ショーでは来月発売予定の「バナナ リパブリック(BANANA REPUBLIC)」とのコラボアイテムもお披露目。具体的にはルック8〜12と23〜27なのですが、「ピーター ドゥ」のエッセンスを感じさせながらも日常の着こなしに加えやすく、これまで手が出せなかった人にも支持されそうです。ぜひルック写真でチェックを!

12:00「CFCL」

選挙で言えば激戦区であるパリコレで新人ブランドが存在を認められるにはまずは3回連続で発表せよ、が定説。「CFCL」はまさにその3シーズン目をミニショー形式で発表し、来場者数の多さから認知度の高まりがうかがえました。会場のパレ・ド・トーキョーにはベルリン在住のアーティスト、三家俊彦さんによるアルミニウム製の草花のアートが飾られモダンアートな雰囲気です。

掲げたメッセージは「過酷な環境の中でも力強くも快適に暮らす未来」。それは例えば「乾いた大地に流れ落ちる滝をイメージした」というストライプ柄の無縫製ニットドレスとなって登場します。シグニチャーアイテムのドレスは、棒状のスパンコールを手作業でたくさん縫い付けたハイエンドなピースがデビュー。コンピューターによる無縫製ニットと職人による手作業というコントラストで新境地を開きます。

このショーに出てきたアイテムの8割が継続の型だそう。パリコレであっても全てを新しくはしない、それが「CFCL」が提案する新しさ。「アシックス(ASICS)」とのコラボスニーカーに続いて「フォーナインズ(999.9)」と協業したアイウエアもデビューするなどアイテムのポートフォーリオを確実に広げています。

アート関係者に支持者が多い「CFCL」ですが、来場者の中にはなんと写真家の高木由利子さんの姿も。仕事をされている「ディオール(DIOR)」のジャケット&バッグに「CFCL」のスカートというスタイリングがお似合いでした。

13:00「マメ クロゴウチ」

ランチを食べる時間もなく「ポワラーヌ(POILANE)」のアップルパイを頬張りながらやって来たのは、「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」。今回の会場は、本格的な日本食レストランや茶房、ショップ、ギャラリーが入る人気施設のオガタ パリ(OGATA PARIS)です。エントランスを入ると、まず緑茶と和菓子がふるまわれ、その先に進むと小さな展示スペース。そこで黒河内さん自らが来場者を出迎え、まずは今季のインスピレーションとなった初期伊万里の陶片や制作過程のヒントを見てから、座席につくという“おもてなし”が用意されていました。

坂本龍一さんによる陶器が割れる繊細な音を使った楽器が流れる中で披露されたのは、そんな初期伊万里の柄やモチーフをジャカード織やニットで表現した服。今季からプレ・コレクションをメーン・コレクションに集約したこともあってか、いつものショーよりシンプルなデザインやバッグも多いように感じます。

その中で特に黒河内さんがこだわったのは、紋様の⼊った型を押し当てて柄を浮かび上がらせる「陽刻」の技術。これを型押しで服に応用することを考え、「通常、化学繊維などにしか使えない技術だけど、職人さんに出会い、コットンやデニムに再現することができた」といいます。そして、ドレスにあしらわれた陶器のボタンは窯元や作家のサポートを得て、自ら作ったものだそう。日本の美意識を感じる美しい服と空間、そして優しい音で表現した静謐なムードのショーは、パリコレのバタバタや街の喧騒を忘れさせてくれるもので、癒されました〜。

14:30「ディオール」

今季の「ディオール(DIOR)」でまず注目なのは、会場内を覆うスクリーンに映し出されたイタリア人アーティストのエレナ・ベラントーニ(Elena Bellantoni)による映像作品です。鮮やかな色使いやコラージュの作風はポップなのですが、そこに使われている写真の体部分は過去の性差別的な広告であり、タイポグラフィで描かれるのは「Women’s struggle is gender struggle(女性の苦闘はジェンダーの苦闘)」や「Capitalism won’t take her where she really wants to go(資本主義は、彼女が本当に行きたいところには導いてくれない)」「My body is not a product. It’s not a bargaining chip(私の体は商品ではないし、交渉材料ではない)」など、女性に対するステレオタイプに異議を唱えるメッセージ。クリエイティブ・ディレクター就任以来、フェミニズムの表現を貫いているマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)ですが、会場演出を通してここまで明確にメッセージを発信するのは久しぶりですね。でも、それは今季のコレクションが、男性中心社会の中で体制に異議を唱えてきた反骨的な女性たちからイメージをふくらませたものだからかもしれません。

コレクションで最も目を引いたのは、ワンショルダーのデザイン。これは創業者が1948年に発表したアシンメトリーなネックラインが特徴の“アバンドン”ドレスを再解釈したもの。ドレスだけでなく、シャツやカーディガンをアレンジしたようなフィット感のあるアイテムが繰り返し登場しました。そのほか、ミモレ丈のフレアスカートやフリルや繊細なレース、花、タロットのモチーフなど「ディオール」らしいデザインに、オーバーサイズジャケットやウィングカラーの白シャツ、シングルライダース、ユーティリティーアウター、ほつれや焦げなどのハードな加工といったメンズワードローブを想起させる要素を掛け合わせ、いつもよりタフでハンサムなイメージを描いています。かつて彼女が語っていたのは、「女性には、周りからどう見られるかではなく、自分自身で定義してほしい」ということ。自分の在り方は自分で決める、現代の女性たちのためのコレクションと感じました。

15:30「ブルガリ」

いつもはミラノでアクセサリー・コレクションを発表している「ブルガリ(BVLGARI)」ですが、今シーズンは特別に”ローマの光”をテーマにした新作をパリで披露しました。今年75周年を迎えた”セルペンティ”のモチーフを取り入れたコレクションはニュアンスカラーや手の込んだ装飾がポイントです。いくつも展示している部屋があったのですが、次のショーが遠方だったため、駆け抜けるように会場を後にしました。

17:00「アンリアレイジ」

会場中央にはステージとそれを囲むように照明が設置されており、見るなり「あ、これ、光で色変わるシリーズだ」と察知するほど「アンリアレイジ(ANREALAGE)」のフォトクロミックシリーズはイメージが浸透してきました。とはいえ常に刺激を求めるパリコレ来場者としては、「紫外線が当たると色が変化する服」だけでは鮮度はない。今回の「アンリアレイジ」は、その技術を使って“空”の服をデザインするという発想を取り入れました。

最初のシーンではモデルは透明なオブジェを着て登場し、光が当たることで輪郭が与えられ「服」となります。続くシーンでは色の変化がもう少し繊細に。これはNTTが開発した「ハイパースペクトル色彩制御技術」を使っているそう。技術の説明は長大になるので控えますが、森永邦彦デザイナーが関心を持ったのは「人間の目が認識する色は絶対的ではなく、天候や物理・科学要素で変化する」ことだそう、言われてみれば自分の目の認識なんて、相当あやふやです。

リリースには他にもたくさんの、ハイテク・科学技術の説明が書かれており、まるでアイデアの実験場のよう。理系の技術がポエティックな服、パリコレの舞台を通じて可視化され、興味を持った人がそこを深掘りする。そんな役割を「アンリアレイジ」が担っています。だからこのコレクションに「日常で着られるか否か」だけを問うのはナンセンス。ショーを起点に、他のプロダクトへ広がったり、ビヨンセが採用したようにアーティストの衣装として活躍したりするのが「アンリアレイジ」というブランドの“生き方”でしょう。

20:00「サンローラン」

サンローラン(SAINT LAURENT)」が選んだ会場は、夜空に輝くエッフェル塔の前の公園。仮設テントの周囲にはいつものようにBLACKPINK(ブラックピンク)のROSE(ロゼ)を待つファンが集まりものすごい熱気です。驚くのはその興奮した空気がショー開始と同時に一転したこと。会場は「これぞ、パリモード」な心地よい緊張感に支配されました。

スーツはゼロ。コットンのタイトスカートなどカジュアルなアイテムばかりなのに、スモーキングジャケットとパンツのセットアップと同じくらいフェティッシュで、そしてスノッブ(ほめ言葉)です。「今シーズンは“シンプリシティ”が欲しかった」とアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vaccarello)が言うように、アイテムを文字に起こせば実際、「カーゴスカートとシャツ」などシンプルな言葉が並びます。

1960年代の「サンローラン」を象徴するサファリルックをベースにしたカジュアルアイテムがここまでモードに仕上がるのは、ひとえに端正なプロモーション故。そして、オールバックヘア、赤い唇、スモーキーな目元といったヘアメイクが非常に重要な役割を果たしています。

アメリア・イアハートといった女性の飛行家からもインスピレーションを得ており、オールインワンのボイラースーツや革製の小さなヘルメット、存在感のあるグローブなどは、ハイヒールに合わせます。来場していたケイト・モス、デミ・ムーアがいかにも似合いそうですし、実際ヘイリー・ビーバーはショーの後、目をハートにして感想を語っていました。

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