パリコレ序盤は日中の平均気温が20℃以上。雨も降ることなく、取材で走り回るにはちょうど良い気候に心から感謝です。会場周辺では露出度高いスタイルが大ブームで、お腹や足の大胆見せにも絶好の日和です。さあ、今日もなるべくたくさんのショーやプレゼンテーションをご報告します!
10:30「クレージュ」
余裕を持ってホテルを出たはずが渋滞にハマり、朝からヒヤヒヤする中、「クレージュ(COURREGES)」の会場に到着しました。パリの外れにある倉庫の中に作られたのは、乾いた荒野を思わせる四角いランウエイ。西部劇の口笛のようなメロディーが流れる中を、モデルたちはヒールで地表を砕きながら進んでいきます。ニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)がイメージしたのは、自由を求め、まだ見ぬ地を切り開いていく開拓者たちの姿。今季はテキサス州の砂漠へのロードトリップに着想したといいます。
コレクションのポイントの一つは、カレッジスタイルを再解釈したアシンメトリーなデザイン。その表現は、生地を折り畳んで斜めに流したポロやTシャツ、セーターのドレス(実は全てボディースーツ)に始まり、片方だけショルダーがめくれるように落ちたライダースやハリントンジャケット、シャツへと続きます。どれもボタンやストラップ、ファスナーでスタイルを変えられる優れもの。いつもよりゆるめのシルエットでイージーかつ着やすく、好印象です。
もう一つは、ハリのある生地で生み出すチューリップヘムと、それに呼応するオープンネックライン。まさに「クレージュ」といった雰囲気は、アーカイブから着想を得たもの。パンツにも、斜めにファスナーを加えて作るスリットで同様のラインを描くほか、トップスやドレスのおへそ周りやサイドに開いたスリットもファスナーで調整できるようになっています。
ブランドのDNAやミニマルな世界観を大切にしながらも、シーズンごとに異なるストーリーと現代の若者に向けた服を巧みに表現するニコラス。彼には、やはり才能を感じます。
11:30「デルヴォー」
今シーズンは、ベルギー人アーティストのカスパー・ボスマンズ(Kasper Bosmans)と一緒に制作したコレクション“ミューチュアリズム(共生)”を披露しました。ポップなカラーで彩られた紋章や神話上の生物のモチーフはキャッチーですが、その表現方法はレザーのマルケトリー(象がん)だったり、細やかな刺しゅうだったり。さすがは「デルヴォー」なクラフツマンシップが詰まっています。
12:00「ザ・ロウ」
時代のキーワード“クワイエット・ラグジュアリー”の代名詞「ザ・ロウ(THE ROW)」の会場はパリ1区に建つショールーム。重厚な門を抜けるとパリの喧騒が嘘のように静かで瀟洒な空間が広がります。
上質かつ機能的でアートフィーリングをまとう服やバッグは例えば、“シーツを巻いただけ”みたいなドレスや、“ルームシューズ風”の靴など、ラグジュアリーなホテルで過ごすうっとりとした時間を連想します。ごくシンプルなTシャツやスエット、ニットのガウン、全身を包むレインコート風アウターなど見慣れたアイテムが「ザ・ロウ」の手にかかると洗練されたラグジュアリーへと昇華します。
最近、展示会場などでおしゃれなバイヤーやファッションディレクターが大ぶりのバッグ“マルゴー”に仕事道具を入れて愛用している姿をよく見ます。売り上げ絶好調なバッグに加えて、洋服もフィービー・ファイロ時代の“オールド・セリーヌ”の顧客のハートをもがっつりつかみ、独特なポジションを築いていますね。帰りがけにはフレッシュなフルーツとチョコレートのうれしいサービスも。ここでもまた素材の味をそのまま楽しんでね、のメッセージを受け取ります。
13:30「マルニ」
イタリア・ミラノを飛び出し世界を旅するコレクションを行っている「マルニ(MARNI)」。ニューヨーク、東京の次はパリを選びました。その会場はな、な、なんと!故カール・ラガーフェルドが生前暮らしていた私邸だそうで、門をくぐる時の心境はもはやファッションの聖地巡礼。内外装は予想を裏切ることなく豪華でクラシックで、庭には生垣で作った迷路まであり、さながらミニ・ヴェルサイユ宮殿です。「マルニ」のクリエイティブ・ディレクター、フランチェスコ・リッソ(Francesco Risso)は10代の頃、この通りに住む恋人を訪ねたことがあり、世界一有名なファッションデザイナーを一目見ようと、2人して何時間も窓際にいたそうです。「この建物があの場所だったと知ったときは気絶しそうだった。カールは美の探求に生涯を捧げた人物だったから」とリッソ。ただし、カールへの敬意を抱きつつショー演出はあくまで現在の「マルニ」風であるところがポイントで、建物の前の石畳にはチョークでメッセージを手描きし、庭には大きなバルーンをあげて来場者を迎えました。
会場に集まったオシャレさんたちは一人として同じスタイリングの人がおらず、思い思いに「マルニ」の独特な世界観を取り入れています。このバラバラ感、言葉を変えれば多様性こそ今の「マルニ」の魅力です。ルックもまた同じで、ストライプ、チェック、フラワーといった柄、色がジェンダーレスで次から次へと押し寄せます。マリー・アントワネットを彷彿とさせるパニエ・ドレスや、何十個ものブリキ缶を組み立てメタリックな花のように型取りしてペイントした3Dドレスなど1点ものに近いであろうDIY風ルックもたくさんあります。この巡回ショーはこれで一旦終了し、各地でつかんだユースなコミュニティーを引っ提げて、次はミラノで何を見せてくれるのでしょうか。
15:00「ドリス ヴァン ノッテン」
改築中のため構造が剥き出しのビルの4階まで息も絶え絶え上がり会場へ。そんな会場選びは「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」のコレクション内容とリンクをしています。「ありふれたもの、伝統の概念について再考し、新たなエネルギーを吹き込む」メッセージは、サルトリアル・ドレスの定番シャツのシルエットを崩し、新しい形に作り替えたルックなどに反映されています。コットン・チノやギャバジン、洗いをかけたデニムといった日常着の素材がイブニングジャケットやエレガントなコートへ昇華。最も目を引いたのは、大胆なラグビー・ストライプの使い方です。スポーツウエアの要素は取り入れつつウェストを強調したり、パゴダショルダーを取り入れたりすることで、これもまた大人の女性の日常着へ。作り手が服作りを存分に楽しんでいることが伝わってきます。
17:00「アンダーカバー」
20年近く「アンダーカバー(UNDERCOVER)」を取材してきたベテランから見て、今回のショーは過去ベスト1、2を争うブラボーなコレクションでした。通底するダークファンタジーや、あくまでカジュアルなアイテムベースにパリで求められる“官能”を加味する組み立て方、エモーショナルな音楽使いなどは、パリコレで発表を開始して以来、休止を経て再開した後も一貫して見せてきたことです。でも今回は何かが違う。一層美しく、一層エモーショナルでした。
テーマは「ディープ・ミスト」。透ける布の奥には、服の構造が透けて見えます。それを高橋盾デザイナーは「デザインを消したかった」と表現し、リリースには「薄れて聞く記憶のように流れてゆく布、闇の中にうっすら見え隠れするシュールな世界」とあります。ドイツの画家ネオ・ラオホ(Neo Rauch)の作品、そして自身が描いた「目のない肖像画」の作品がその世界観を深めます。ショー後のバックステージで、なぜそこに至ったかとの問いには短く「身近な人が亡くなった、そのレクイエムかもしれない」と高橋デザイナー。パーソナルな思いがこのコレクションを強くしているようです。
でも、それだけじゃない。一層美しく見えた理由は、パターンの美しさにあると思います。シルクやハイテク素材など5種類の透ける素材の奥に透けて見えるのは、ジャケットやパンツといったテーラードの構造です。カジュアルがベースにある「アンダーカバー」ですから、テーラードにしてもどこかゆるさがあるところが魅力ではありますが、今回は全くゆるくない。構造自体の完成度が高いから、ぼんやりした世界が美しく見えるのでしょう。最後は、花と蝶を内包した透明のオブジェのようなドレスで、ダークの先の希望も示してくれました。ブラボーです。
18:30「アクネ ストゥディオズ」
「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」は、ブランドのキャンペーンモデルも務めたカイリー・ジェンナー(Kylie Jenner)をはじめ、エスパ(aespa)のジゼル(GISELLE)、渡辺直美、ちゃんみな、仲里依紗、ロザリア(Rosalia)などなど、今の時代を映し出すセレブが多数来場しました。特にカイリーの席の周りは、人の山!もはや本人が全く見えません。
コレクションのポイントは、ブランドのルーツであるデニムへの情熱やその加工方法、そして建設現場から着想を得たというインダストリアルなムード。白いペンキを塗った後にクラック加工で仕上げたデニムが象徴的です。デザインにも5ポケットジーンズの要素を取り入れ、ポケットやベルトループのディテールを装飾やレザーへの型押しでプラス。Tシャツを何枚も逆さにして吊り下げたようなローウエストスカートや、バッグがドッキングされたドレスなどDIY的なムードは健在ですが、ボロボロ&スケスケな印象が強かった近年のコレクションに比べるとグッと着こなしやすいアイテムが増えました。
20:00「バルマン」
本日最後は、「バルマン(BALMAIN)」です。10日前にショーピース50着が盗まれたというニュースが出たので、どうなるのかと思っていましたが、結果的には「バルマン」らしい手の込んだルックもあり、そんなことを感じさせない全54ルックからなるショーでした。米「WWD」によると、盗難されたルックの70%を作り直したそうです。先シーズンから引き続き創業者時代のクチュールデザインを参照したコレクションは、台頭する“クワイエット・ラグジュアリー”なんてどこ吹く風といった感じの、鮮やかな色合わせや大ぶりな柄と装飾のオンパレード。キーモチーフはバラの花で、メタルのボタンからパテントレザーや PVCで作った立体装飾、プリントまでが、パワーショルダーのテーラリングをはじめ、ビスチエやクリノリンの構造を取り入れたドレスやスカートを華やかに彩ります。
そして、フィナーレにもご注目。これまで短髪のイメージが強かったオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)が、夏のホリデー前にロングのドレッドヘアへとイメージチェンジしていました。自身のインスタにはすでに写真をアップしていましたが、公の場に登場するのは初めてだったので、その変様にビックリした観客も多かったのでは?