夕方からいくつかの若手ブランドが発表を行った初日を含めると、今日でパリコレは4日目。もう中盤に突入です。中盤からは、公式スケジュールのショーに加え、プレゼンテーションや展示会、オフスケジュールのショーも増えるので、予定を組むのも一苦労。渋滞がひどく、時間通りに動けないことがほとんどです。それでは、今日も分刻みのスケジュールの中から、ぜひ知っていただきたいイベントやショーをリポートします!
11:30「ラバンヌ」
「パコ ラバンヌ(PACO RABANNE)」改め「ラバンヌ(RABANNE)」は、トレンドキーワード“クワイエット・ラグジュアリー”の真逆を行く、ゴージャスでセクシーなスタイルを繰り出しました。「インスピレーションは、身体と肌を称えること」と、デザイナーのジュリアン・ドッセーナ(Julien Dossena)。ボディーコンシャスで官能的なコレクションは、メタルメッシュやチェーン、天然のフェザーなどの素材で装飾を兼ねて形作られており、歌姫たちがステージで着こなしそうな華やかさです。
「喜びとは何なのか、その意味をずっと考えてきた。喜びは雨のように降ってくるものではなく、得るためには努力や献身、多くの集中力が必要」とドッセーナ。そんな言葉もまた、スタイル抜群の女性たちが実はボディーメイキングの努力を惜しまない姿を連想させます。
客席にはデビューしたてのビューティ製品のギフトが用意され、その一つは肌をゴールドに装飾するスプレー。メイクアップでもウエア同様に、反“クワイエット”で攻めるようです。
12:30「ランバン」
新体制に向けて粛々と準備中の「ランバン(LANVIN)」はデザインチームによる新作を、1860年建設の館に構える本社で発表しました。メゾンの 133年の歴史を再確認することを目的としたプレゼンテーションは、イメージビジュアルとともに一点一点を丁寧に展示しています。創設者ジャンヌ・ランバン(Jeanne Lanvin)が活躍した戦間期の1920〜30年代に目を向け、20年代調のシルエットにアイコニックなオープンハートのカッティングや手刺しゅう、スネークチェーンによる装飾を取り入れています。
一方メンズはボックスシルエットのジャケットにフレアパンツ、シルクのタンクトップなど、きれいめな70年代調。とにもかくにも待たれるのがこの歴史を現代と融合し、バッグなどアクセサリー含めてディレクションできるディレクターの存在です。中国資本のオーナーたちの本気とセンスが問われています。
13:00「ロジェ ヴィヴィエ」
お次は「ランバン」と同じ通りで開催されていた「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」のプレゼンテーションへ。今季は古い邸宅の4フロアを使っていたのですが、もちろんエレベーターはなし。息を切らしながら4階まで駆け上がります。プレゼンや展示会のアポが多い日は、いろんなところで階段を上がったり下がったり。エレベーターがあったとしても極端に遅い&小さいことも多いので、ファッション・ウイークは本当に体力勝負です。
話をプレゼンに戻します。会場は、今季もよくここまで作り込んだね〜と感心するテーマパークのようなセット。階ごとにテーマが異なり、モネ(Monet)のジヴェルニーの庭から着想した橋がかかる池までが作られています。新作で特に目を引いたのは、水彩で表現したタイダイ風のシューズやバッグ、ラフィアを使ったサマーシューズ、そしてラッフル装飾で覆われたバッグ。今季のトレンドになりそうな格子状のデザインでアップデートされた定番モデル“アイラブヴィヴィエ”も気になります。
14:00「クロエ」
ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)=クリエイティブ・ディレクターによるラストコレクションは、セーヌ川沿いのオープンスペースを会場に、船上の観光客からも注目も集めながら開かれました。
就任以来ガブリエラは、一貫してサステナビリティ推進のメッセージを訴えてきました。最後のショーで観客に呼びかけたのは「個々のアクション」。それを象徴したのがフィナーレです。「クロエ」のミニドレスを着たブラジルの女性ダンサーの輪の中でガブリエラ自身が情熱的にサンバを踊りながら感謝の意を伝えました。その渦がモデルや観客を巻き込んでいく様はとてもエモーショナルで、今もSNSを通じて拡散されています。それはまさにガブリエラが求めた「個々のアクション」の連鎖そのもの。ただし、客席に目を向ければ冷めた表情もあり、サステナビリティの実践と売り上げが必ずしも連動しないジレンマや現実を象徴しているようでした。
肝心の服は、ガブリエラらしさがより出た好コレクションで「まさにこれからだったのでは」と思わずにいられません。ポイントは生命力の象徴である花のモチーフ。レザードレスに施すスカラップヘムや立体的なローズモチーフで表現しています。
サステナビリティ・シフトはものづくりや販売の仕組みの変革。必ずしも色や形といった服のデザインに反映させる必要はありません。後任デザイナーには、彼女が築いたサステナビリティの仕組みと社会に与えたインパクトを引き継ぎ生かしつつ、“売れる”バッグや服作りというミッションが待っています。
15:30「ジバンシィ」
「クロエ」の会場からも近かったので、クイックランチを挟みつつ、公園をお散歩しながら「ジバンシィ(GIVENCHY)」へ。グーグルマップを見ながら、もう着くと思っていたら、入り口がまさかの反対側ということが判明。若干焦りつつ、早歩きで入り口を目指しました。今回の会場は、建築家のガブリエル・カラトラバ(Gabriel Calatrava)が手掛けたオープン構造のテント。眩しいくらい真っ白な空間でのショーには、アンバサダーを務める菜々緒さんも来場していました。
これまで“アメリカのクール”と“パリのシック”をいかに融合させるかに取り組んできたマシュー・M・ウィリアムズ(Matthew M. Williams)でしたが、今季のクリエイションは大きく変化。ロゴデザインやハードな加工のデニムなどストリート色を排除し、シンプルかつ優美なエレガンスに焦点を当てました。ショーは先シーズンに続き、アトリエの技術を生かしたテーラリングからスタート。その後も、黒やグレーのスーツ地に加え、パステルカラーやエレクトリックブルーのダッチェスサテンで仕立てた広い肩のラインと、砂時計型シルエットが特徴のオペラコートやダブルブレストジャケットが、キーアイテムとしてたびたび登場します。そこに合わせるドレーピングが際立つドレスやトップスは、シフォンやタフタ、オーガンジーなどを用いて軽やかに。オープンバックのドレスもあり、トレンドであるシアー素材や肌見せを巧みに取り入れています。
そして今季のボトムスに、パンツは一切なし。前だけが長いタイトスカートを軸に、センシュアルなメッシュのソックスで覆ったパンプスなどを合わせています。シーズンごとのテーマを設けないマシューは、自身の周囲にいる女性たちのワードローブから着想を得たといいますが、そこにはスタイリストやファッションコンサルタントとして同ブランドに関わるカリーヌ・ロワトフェルド(Carine Roitfeld)の影響を感じます。
今シーズンを語る上で欠かせないのは、アイリスやバラをはじめとするフラワーモチーフ。最近メディテーションとしてガーデニングにハマっているというマシューは、花や庭園を愛した創業者ユベール・ド・ジバンシィ(Hubert de Givenchy)との共通点を見いだしたよう。プリントや刺しゅうから、ハンドペイント、ドレーピングで作る立体装飾まで、さまざまな技法で可憐なモチーフをドレスやスカートにあしらっています。
バッグは、新たなアイコンとして人気上昇中の“ヴォワイユー”のラインアップを拡大。今回のコレクションに呼応するシンプルでエレガントなトップハンドルバッグや、ストラップ付きのかっちりしたパーティークラッチをはじめ、ビッグトートやチェーンバッグ、小ぶりなスクエアデザインなどが登場しました。また、バッグのデザインから引用した細いベルトは、ドレスやスカートのアクセントにも取り入れられています。
結果として、とてもエレガントで美しいコレクションだったのですが、ハードウエアやアクセサリー以外にマシューらしさがあまり見えないという印象は否めず。今後の方向性に注目です。
17:30「リック・オウエンス」
「リック オウエンス(RICK OWENS)」のショーでは“頭上から何かが降ってくる”演出を覚悟して望みますが、まさかここまでとは!今回は開始と同時にピンクと黄色のスモークが盛大に焚かれ、頭上からは大量のバラの花びらが降り注いできました。日本の席は風下だったためスモークに襲われつつも、それは覚悟済み。「クロエ」でいただいたバンダナで口を押さえつつショーを堪能しました。
肩を極端に強調したライダースジャケットなど得意のアイテムに加えて、今回目立ったのは、リサイクル・ナイロンリュールとシルクオーガンザを重ねて作ったボリューム服。その意図についてデザイナーのリック・オウエンスは「どうしたらなるべく服を選らせるか、いかにシンプルにできるか、と考えた。これなら飛行機の中でも、床に放り出して愛犬のベッドにもできるだろう?」とユーモアを交えて語り、インスピレーション源にはアーティストのドナルド・ジャッドやジョン・チェンバレンなどの名前をあげています。
実際にこの服で飛行機で快適に過ごせるかと言えばノーですが、リックが「どうしたら服を選らせるか」というサステナビリティの大命題に向き合ったと知ると、コレクションの見方も変わってきます。赤い色使いも新鮮でした。
20:00「イザベル マラン」
「イザベル マラン(ISABEL MARANT)」の会場は、おなじみのパレ・ロワイヤル。ただ、いつもとは配置が異なり、庭園の長辺を使った長〜いランウエイが用意されています。モデルたちがまとうのは、スイムウエアや透け感を取り入れた軽やかなスタイル。そこにユーティリティームードのパーカやカーゴパンツ、レザーで仕立てたジャケットにマイクロショーツ、ミニ丈のプリントドレスといった「イザベル マラン」が得意とするアイテムを合わせています。今季特に目を引いたのは、アールヌーボーの装飾から着想を得たという有機的な模様があしらわれたランジェリーライクなドレスや、ボディーラインに沿う細身のロングドレス。いつもよりもゆっくりなウォーキングやブロンド・レッドヘッド(Blonde Redhead)の心地良い音楽も手伝って、ライブ会場にいるかようにエネルギッシュなショーとは異なる落ち着いた雰囲気や大人っぽさを感じるシーズンでした。
フィナーレには、21年に就任したキム・ベッカー(Kim Bekker)=アーティスティック・ディレクターが創業デザイナーのイザベルと共に登場。今季見られた変化は、彼女の担う役割が大きくなっていることを示しているのかもしれません。
21:00「クリスチャン ルブタン」
当初21時オンタイムと案内が来ていた「クリスチャン ルブタン(CHRISTIAN LOUBOUTIN)」のショーは、当日に21〜22時の間に開始しますと連絡がありました。その時点で、これは22時スタートになるなと思っていましたが、全然始まる気配なし。22時31分にようやくスタートしました。
会場は、歴史あるソルボンヌ大学の荘厳な円形ホール。ステージに置かれた6つのスクリーンに映し出されるアーティストのトビアス・グレムラー(Tobias Gremmler)によるバーチャルな映像と、スパイクのような義足を着けたヴィクトリア・モデスタ(Viktoria Modesta)をはじめとするダンサーのリアルなパフォーマンスを織り交ぜた、コンテンポラリーなショーでした。ディレクションと振り付けを手掛けたのは、パリ・オペラ座バレエ団や、レディー・ガガ(Lady Gaga)やビヨンセ(Beyonce)といった世界的アーティストとのコラボレーションで知られるシディ・ラルビ・シェルカウイ(Sidi Larbi Cherkaoui)。「赤」に始まり「情熱的な愛」「力強さ」「華やかさ」などブランドを象徴する要素が詰まったショーは見応えがあり、遅くまで待った甲斐がありました。ただ、ホテルに帰り着いたのは、深夜0時前。さすがに疲れていて、原稿も書かずにベッドに入りました。