外国人観光客が日本に戻りつつある。日本政府観光局(JNTO)が9月20日に発表した訪日外客統計によると、今年8月の訪日外国人客数は累計で215万6900人と、2019年比で85.6%にまで回復した。国・地域別に見ると、中国とタイ以外の主要送り出し国はすでに2019年とほぼ同等かそれ以上にまで回復している。ホテルの高騰や渋滞などのオーバーツーリズムがニュースとして取りあげられるほどの活況ぶりだ。
*どうなる「中国人の爆買い復活」? 3人の中国通が徹底検証【高口康太の中国連載】
あとはもともと旅行客最多であった中国さえ戻れば、ほぼ完全回復と言ってもいい。その中国だが、8月は19年比36.4%の36万4100人。次第に戻りつつあるとはいえ、まだ以前の4割弱にとどまっており、他国と比べれば動きは鈍い。中国オンライン旅行代理店最大手・携程集団によると、中国人の海外旅行ニーズの回復が鈍いのには大きく二つの理由があるという。第一に航空便がまだ回復していないこと。第2四半期(4~6月)時点で航空便の輸送能力はコロナ前の37%にとどまっているという。
第二の理由が中国国内旅行人気の高まりだ。20年から22年にかけて、いわゆるゼロコロナ対策を採っていた中国だが、期間の大半は国内移動についての規制は少なかった。国内旅行を楽しむ人が増え、彼らの口コミが広がるなか、国内の魅力的な観光地が“再発見”されたと指摘する。新疆ウイグル自治区や雲南省、そして遼寧省、吉林省、黒竜江省などの東北地域が、新たに人気が高まった旅行先だ。マイカー旅行などの新しい旅行スタイルも国内旅行人気につながっているようだ。
また、景気低迷に苦しむ中国政府が旅行需要を国内にとどめるため、海外旅行を減らそうと誘導しているとのうがった見方もあるようだ。今春、海外旅行規制撤廃に伴い、タイ旅行ブームが一気に広がったが、その後、「誘拐されて臓器を売られる」「銃撃事件が頻発している」といったネガティブなニュースが広がり、ブームに水を差した。筆者の友人のHさん(中国人、30代、外資系金融企業マネージャー)は、「異常なぐらいの報道量なので、なにか裏がある、海外に行かせたくないと政府は考えているのでは、との噂が広がった。中国人があんまり行かないのなら混雑しなくて快適かもと、私は逆張りで国慶節はタイに旅行しますが」と話していた。
処理水の影響は? 中国に精通するNOVARCAの濵野社長CEOはこう見る
濵野智成/NOVARCA社長CEO
(はまの・ともなり)1985年生まれ、千葉県出身。大学卒業後、デロイト・トーマツ・グループに入社。グループ最年少のシニアマネージャーとして東京支社長、事業開発本部長を歴任。その後ホットリンクに参画しCOOとしてグローバル事業や経営企画などを管掌。2015年にトレンドExpressを創業し、社長に就任。2022年に社名をNOVARCAに変更
日本への旅行はどうなるのか。上記に加え、福島原発処理水の海洋放出の影響という不確定要素もあり、団体旅行客のキャンセルが発生しているとの報道もある。今後の見通しについて、中国を中心とした越境ECビジネスプラットフォームを展開するNOVARCA(ノヴァルカ、旧トレンドExpress)の濵野智成社長CEO(最高経営責任者)に話を聞いた。
―処理水海洋放出がインバウンドにも影響するのか、不安が広がっています。
濵野智成社長CEO(以下、濵野):日本で報じられているほど、全中国人に怒りが広がっているという状況ではありません。旅行会社や航空会社に聞いたところ、旅行のキャンセルはごく少数にとどまっているようです。ただし、不安を感じている人がいるのは事実です。海外の情報にアクセスできるような、リテラシーの高い層に限っても不安を感じている人はそれなりにいる。ですからある程度の影響はあるでしょう。
―国慶節休暇への影響は?
濵野:もともと私たちは今年の国慶節には50万人、来年の春節(旧正月)に80万人の中国人客が訪日すると予測していました。この予測は下方修正する必要はあります。正確な予測は難しいですが、来年の春節が50万人にとどまるといった、回復の遅れという形で表面化するのではないでしょうか。ただ重要なのは、中国人旅行客という大きなくくりではなく、より細分化して見ていく必要がある。私はティア1からティア3にカテゴライズしています。
もっとも所得とリテラシーの高いティア1は処理水などの情報にもあまり左右されない人々です。彼らが目的とする旅行先は伊勢志摩や鳥取などのニッチな旅行地、あるいはニセコなどのリゾート地に1週間ほど長期滞在するような楽しみ方をします。買い物もデパートの外商から購入する富裕層です。その下のティア2はハイブリッドで、ニッチな体験を楽しみつつもドラッグストアでの購入もするといった人々になります。ティア1、ティア2はFIT(個人旅行)中心なので、すでに日本に戻ってきている人々です。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。