ボンジュール!パリ・ファッション・ウイーク(パリコレ)は、今日で折り返し地点。編集統括兼サステナビリティ・ディレクターの向と欧州通信員の藪野がお届けしているパリコレ日記も第4弾になりました。相変わらずラッキーならランチを食べる時間があるというスケジュールなので、朝食はマスト!フリーズドライのお味噌汁をたくさん持ち込み、毎日ほぼ変わらない洋食にアレンジを加えています。それでは、今日は茄子のお味噌汁を飲んで、取材に出かけます。
11:30「ロエベ」
「ロエベ(LOEWE)」のロケーションは、先シーズンに続き、パリ郊外にあるヴァンセンヌ城。敷地内に真っ白な箱のような会場を設けました。毎シーズン、ミニマルな空間にアート作品を飾っていますが、今季は6月に発表した2024年春夏メンズ同様、アーティストのリンダ・ベングリス(Lynda Benglis)によるゴールドに輝く彫刻を設置。ダイナミックに渦巻いたり、ねじ曲がったりする形状が印象的です。
そんな会場だけでなく、コレクションへのアプローチもまた、先のメンズに通じるもの。ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)は要素を削ぎ落とし、シルエットを強調することに焦点を当てています。メンズウエアの定番をベースにしながら、スーパーフェミニンなアイテムを差し込むラインアップの中でカギとなるのは、内側にコルセットを仕込んだ超ハイウエスト&ロングなパンツ。そこにコンパクトなシャツやクロップド丈のカラフルなチャンキーセーターを合わせて、新たなプロポーションバランスを探求しています。また、メンズのワードローブから借りてきたようなジャケットには、胸下にスリット。高い位置にあるポケットやスリットに手を突っ込みながら歩く姿は、違和感がありながらも、なぜかクセになる斬新さです。
そのほかにも、バッグが一体化したようなチェスターコートや編み地を極端に拡大したようなニットのロングケープ、巨大な針を通してドレープを寄せたショートパンツ、裾や袖口が噛みちぎられたようにボロボロのレザーTシャツ、スケスケのポロシャツドレスなど、巧妙なアレンジが光ります。ですが、それが“突飛”で終わらないのは、モノ作りのレベルの高さと上質な素材使いがあるからでしょう。
そして、「ロエベ」のショーの楽しみの一つは、ショー後に必ずジョナサンが会場に出てきて、ジャーナリストたちの囲み取材に応じてくれること。彼の独創的な視点や思考をきちんと理解する上ではとても貴重な時間です。彼が語った内容は、「記者が”深掘り”したいコレクション」として後日別途リポートをアップ予定です。お楽しみに!
13:00「イッセイ ミヤケ」
今シーズンは、体を使ったパフォーマンスをショーと絡めて見せる演出が散見されます。その時、その場だけに共有されるモダンアートはファッションショーと相性良いですし、パフォーマーの息遣いに触れるとリアルの強さを実感します。
「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」の会場は地域交流を目的とした複合施設。天井から大きな和紙で作ったプリーツを飾り、ショーの前にはパフォーマーたちが「鳥を呼ぶ笛」を吹きショーが穏やかに始まると、笛をギターに持ち変えてよりアグレッシブな動きでモデルの間を飛び跳ねました。
今季は「風や光など大自然の中の輪郭がないもの、それによる偶発的ではかない事象をつかもうとする発想」を服作りに取り入れたそうです。具体的には、コットンの強撚糸を筒状に編み上げることで着る人それぞれの体になじむシリーズや、縦糸に隙間を開ける特殊な織り方で軽さと分量感を両立したシリーズ、撮影技法により輪郭をぼかしたプリントのシリーズ、そして和紙と麻、ストレッチ糸を織り交ぜて軽やかな分量感を作ったシリーズなど、さまざまな素材や技法が取り入れられています。
足元は「ニューバランス(NEW BALANCE)」とのコラボスニーカーで「裸足に近い感覚」だとか。受け取ったのは「身体性」と「作用し合いつながる喜び」というメッセージ。いずれも目には見えない価値であり、とても日本的です。
15:00「ニナ リッチ」
ハリス・リード(Harris Reed)による2シーズン目の「ニナ リッチ(NINA RICCI)」は、リード流「ニナ リッチ」を着たインフルエンサーが多く駆けつけてパーティー会場のようなムードでした。つばの広い帽子、ありえないほど大きなリボンの装飾、70年代調の派手なパンツスーツといったアイキャッチなアイテムを思い思いに着こなすインフルエンサーは、ジェンダーも体形も多様です。
2シーズン目のコレクションのキーワードも基本はフロントローの景色と同じで、多様性あるモデルたちがカービーなドレスやカラフルなパンツスーツなどパーティーシーンに似合う服を着て登場しました。特に大きなリボン、たくさん使うリボンがリードのアイコンとなっています。
ロンドンでファッションの基礎を築いたリードにとって、今はパリコレのステージで自身のスタイルを印象づける段階にあり、ブレずにメッセージを届けることが重要。ただし、これ「だけ」ではリード本人の目が届くコミュニティー内のマーケットに留まりかねない。コミュニティーの輪を広げるためにも、次はアイテムの多様性が期待されます。
19:00 「ヨウジヤマモト」
とてもきれいなショーでした。「きれい」の理由を探ると、それはシルエットと繊細な肌の見せ方にあるようです。色はアクセントで使う白をのぞくと黒一色。最近は色を使うことも増えていましたが、今回は“ヨウジの黒”が主役です。
会場は歴史あるパリ市庁舎で、ルック写真で見ると黒の服の背景は真っ白なランウエイと黒い空間。ですが、客席からはそのさらに後ろにルネサンス様式の壮麗なシャンデリアや天井画が目に入ります。モダンな表現を追いかけながら、その根底にはクラシックがある、そんな服作りの考え方と連動しています。
どのルックも肩のラインは骨格に沿うように丸みがあり、ウエスト位置は高めにほっそりとしています。肩とバストの2点は、女性の体のラインをきれいに見せるためにとても重要なポイントであり、それはガブリエル・シャネル、クリストバル・バレンシアガ、ユベール・ド・ジバンシィといったオートクチュールのデザイナーたちが確立して以降変わらない、洋服作りの王道です。今回の“ヨウジの黒”にはそんなクチュールのエッセンスが見て取れ、さらにその完成度が高い故、それ以外のパーツで生地にどれだけねじれを入れても、裾をどんなに解いても、「きれいな服」に着地しているのでしょう。
また、レースや透ける素材を多用し、適度な肌見せを取り入れることも、黒一色の服が軽やかに着地しているもう一つの理由。トレンドの肌見せも、山本耀司の手にかかるとエレガントです。アクセントとして効いていたのがYの文字やハートを飾ったチェーンのベルト。“カワイイ”という言葉が一番遠いブランドなだけに、ハート使いの意外性に思わずニヤけます。