ゴールドウインは9月29日、スパイバーの人工タンパク質「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN)」糸を使った17アイテムを「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」や「ゴールドウイン」など主力4ブランドで販売を開始した。最新の遺伝子工学を駆使して新素材を設計し、原料に石油を使わない「ブリュード・プロテイン」は、次世代の本命サステナビリティ素材の一つで、世界から注目を集めてきた。これまでは数十着程度の限定販売にとどまってきたが、二人三脚で開発に取り組んできたゴールドウインが世界に先駆けて「量産」販売する。その震源地となっているのが、2021年3月にタイで稼働を開始した、世界初の人工構造タンパク質素材の量産工場だ。これまでメディア未踏だった同工場を、ゴールドウインの新井元・常務執行役員とスパイバーの菅原潤一・取締役共同創業者の2人を案内人に取材した。
世界初の量産へ、最大500トンを生産
タイ工場は、バンコク中心部から車で約2時間ほどの距離にあるラヨーン県にある。投資額は明らかにしていないものの、数十億円を投じ、2021年3月に竣工した。従業員数は45人、うち日本人は9人が常駐している。敷地面積は10万㎡で、工場の建物面積は2880㎡。敷地内には工場のほか、オフィスの建屋、排水処理設備もあるが、今後の増設を見据え、敷地にはかなり余裕がある。敷地内で保育園を運営する山形県鶴岡市の本社同様に、オフィス建屋には託児ルームも備える(現在は利用者がいないため未稼働)。
工場は3階建て、内部は大きさの異なる10数基のタンクが並ぶ。全工程が建屋中に張り巡らされた大きな管でつながっており、ほぼ全工程がオートメーション化されており、全工程のオペレーションは4〜5人が行う。遺伝子を組み替えた製品を扱っているため、内部の空気が外部にもれないよう、気圧が調整されている。そのこともあって、大半のスペースがとにかく蒸し暑い。体感で40度近くありそうだ。9月のタイはそれほど涼しくはないはずだが、外に出ると涼しく感じる。4チームで2シフト(4〜5人が1チームで2交代制)で24時間365日稼働でき、これまで鶴岡の大型ラボプラントでは月間数トンだった生産能力は最大で年間500トンに達する。
初の大型工場をタイに設置した理由を、同社の菅原取締役は「投資の優遇措置や生産に必要なセルロース糖の調達、日系の自動車産業を筆頭に多くのグローバル企業が進出しており、優れたインフラが構築されていること、バイオ分野で優れた人材を抱えていること」を挙げる。
コロナ禍で日本人スタッフが帰国を余儀なくされるなど当初の計画よりも若干の遅れは出たものの、21年3月の竣工以降、順調に稼働しており、数年内に生産能力を最大の年500トンに引き上げる考え。
内部を初公開!製造法は「ビール工場と一緒!?」
ゴールドウインの新井常務は、同社の渡辺貴生社長に随伴し、2014年夏に鶴岡工場を訪れた、おそらくアパレル関係者で最も早くスパイバーと直接コンタクトした人物の一人だが、「僕も長い間、繊維・アパレル業界でモノづくりしてきたが、こんな製法や考え方は見たことも聞いたこともなかった。それくらい衝撃的だった」と語る。タイの量産工場は14年当時のラボとはスケールこそ大きく異なるものの、基本的な仕組みは同じだ。「ブリュード・プロテイン」の製造のプロセスは以下の通り。
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