パリコレも終盤に入ってくると展示会とショーが同時開催されるため、移動が本当にハード!次の会場への移動手段は、車か、メトロか、バスか、徒歩か、はたまた全力疾走か、常にベストチョイスを迫られスリル満点です。無事にたどり着いて取材をしたショーや展示会の中から、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」「アクリス(AKRIS)」「ヴァレンティノ(VALENTINO)」「マーガレット・ハウエル(MARGARET HOWELL)」「カサブランカ(CASABLANCA)」「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」のリポートをお届けします。「WWDJAPAN」がカバーするブランドの幅は広いのが良いところ。読者の皆さんが普段接しないブランドの動向もぜひチェックしてみてください。
11:30 「バレンシアガ」
「バレンシアガ」のロケーションは、ナポレオン1世らが眠るアンヴァリッド廃兵院の敷地内に作られた特設会場。中に入ると、そこはクラシックな劇場のように床から椅子まで深い赤のベルベットで統一され、四方の壁には緞帳(どんちょう)を模した装飾が施されています。昨シーズンの装飾的な要素を取り払ったミニマルな空間からは随分趣が異なる印象です。
そして、コレクションもより洗練されたスタイルに重きを置いた前回から一転、デムナ(Demna)の破壊的なビジョンや彼らしさあふれるスタイルが戻ってきました。その内容は、台頭する“クワイエット・ラグジュリー”に迎合しないことを主張するようなラインアップ。ポイントは大きく分けて二つあり、一つはビンテージアイテムの再構築です。数着を解体してドッキングした袖が二対あるカーコートやブルゾンに始まり、デッドストックのレザーパネルを使ったモーターサイクルジャケットや左右でスタイルが異なるパンツ、レトロなテーブルクロスを使ったイブニングガウン、7着のウエディングドレスを裁断して再構成した純白のドレスまで、今季はアップサイクルのアプローチを多用。素になるビンテージは数に限りがあるため、商品化の際には同じパターンのみを取り入れたアイテムも販売されるようです。
もう一つのポイントは、肩パットを入れず平らで幅広に仕上げたショルダーライン。オーバーサイズのテーラードジャケットは前から見ると板のようで、2次元的な違和感を演出しています。小物も、靴そっくりのクラッチだったり、搭乗券や長距離列車のチケットが挟まれたパスポートを模したデザインの財布だったり、スニーカーはこれまで以上に巨大だったり。遊び心が散りばめられています。
今回のショーを見ていて何よりも面白かったのは、キャスティング。デムナが「パーソナルなショー」と話すだけあって、彼に関わりの深い人たちがモデルとして多数登場しました。その中には、なんとお母さんやアントワープ王立美術アカデミー時代の先生も。やはりデムナの考えることはユニークです。そして、ショー後のバックステージで「ファッションは楽しいものであるべきで、今シーズンは楽しかった。前回のショーは退屈だったからね」と語るデムナを見て、やはり彼は常識にとらわれず、時に挑発的とも捉えられるショーやクリエイションを手掛けるのが好きなんだなと実感しました。
14:00 「アクリス」
いくつかの展示会の後、大渋滞を潜り抜け「アクリス」へ。心臓のバクバクが止まらない自分とは対照的に、ゲストの佇まいはエレガントで会場には春の陽だまりのような空気が流れています。さすが、モナコ公国のシャルレーヌ王妃御用達のブランドです。
スイス発の「アクリス」は、ブランド生誕100周年を記念する大型エキシビションをチューリッヒで開催したばかり。そこでも見せたアートとの深い関係は今季もポイントです。ウィーン出身のアーティスト、上野リチ・リックス(日本人建築家と結婚し、ウィーンと京都で活躍)の作品から着想を得て、鮮やかなポピーレッドのニットドレス、ブルーやイエローのフルーツ柄のパンツスーツ、特徴である上質なレースのセットアップがそろいます。おいしいスイスチョコレートもいただき、会場を後にする頃には駆け込んだストレスがすっかり解消。そしてまた次へと走ります。
15:00 「ヴァレンティノ」
肌見せトレンドは今季も継続中。その決定版とも言えるのが「ヴァレンティノ」です。国立高等美術学校エコール・デ・ボザールを会場に、展示されている裸体の彫刻のごとく、身体にスポットを当てたアートのようなコレクションを見せました。
リリースには、「身体は自由の象徴であり、女性の身体は解放を象徴」「挑発ではなく、むしろ自然な状態として存在する裸」といった言葉が並びますが、それはまさにショーから受ける印象そのもの。パイナップルや花といったモチーフのパーツをつないで形づくるミニドレスは、脇を大胆に露出した真紅のワンピース、腰のあたりまで大胆にスリットを入れたスカートなど、オートクチュールの技を持つメゾンだからなし得るギリギリを攻めます。足元がハイヒールではなく、フラットだから完成しているバランスでもあります。
15:30 「マーガレット・ハウエル」
英国発の「マーガレット・ハウエル」は最近、ロンドンでのショーではなく、パリでの展示会と動画でコレクションを披露しています。シーズンごとに大きくは変わらない確固たるスタイルがあるブランドですが、ルックのビジュアルを見ると、なんだか今っぽいバランス。それは、「反復と進化」をキーワードに、シルエットを時代に合わせて変化させているから。制服を着崩したようなスクールボーイ&ガールなムードにキュン!となりました。
16:30 「カサブランカ」
「カサブランカ」が、パリ・メンズからウィメンズに移ってきました。今季のパリは本当に天気が良く、換気の良くない会場はサウナ状態で汗だく。このショーの会場もルーブル美術館の地下にある巨大なスペースだったのですが、暑くて扇子が欠かせません。モロッコにルーツを持ちパリで育ったデザイナーのシャラフ・タジェル(Charaf Tajer)は、これまでも世界のさまざまな場所からインスピレーションを得ていますが、今季目を向けたのはナイジェリアのラゴス。その豊かな文化とファッションシーンに敬意を表しました。印象的なのは、会場装飾にも用いた美しいグラデーションや、コントラストの効いたカラーブロッキングといった色使い。得意とするレトロなスポーツスタイルとテーラリングを軸に、活気ある若々しいスタイルを描いています。
19:30 「Y/プロジェクト」
本日ラストは、「ディーゼル(DIESEL)」のクリエイティブ・ディレクターでもあり、若者から熱い支持を得ているグレン・マーティンス(Glenn Martens)による「Y/プロジェクト」。今季もメタルを仕込んだ形状記憶素材やスナップボタンなどのパーツを駆使して日常着に“ひねり”を加え、着用者に着こなし方を考える余地を与えるようなアイテムを提案しました。例えば、中世の修道士がまとうローブのようなフード付きのダスターコートは縦にホック開閉によるスリットが入り、ロゴTシャツやシャツは胸元を掴んでねじったかのよう。スポーティーなハーフパンツは、サイドのスナップボタンを外すと中から別のパンツが表れます。そして、深いスリット入りのデニムスカートや細長い生地を並べて作ったヒラヒラと揺れるドレスは後ろだけが極端に短く、終盤のドレスやパンツはダイナミックにうねり渦巻いて、クシャクシャにした紙のようです。
インパクト満点でどんな構造になってるんだろうと目を凝らすルックがそろいますが、そこに加えたのは、なんと一見リアルなゴキブリと蛇のモチーフ。ショー後のバックステージでグレンに意図を尋ねると「皆がちゃんとショーに集中しているかを確認するため」と笑っていましたが、さすがに日常で身につけているのを見かけたら、思わず叫ぶ人が続出しそうですね・・・。