2024年春夏パリ・ファッション・ウイークは10月3日が最終日。今季初の雨で「シャネル(CHANEL)」の招待状の文字が滲み、判別不能ゆえ入場に手こずるというハプニングがあるも、夕方の若手デザイナーのショーまで駆け抜け、無事全日程を終えました。トレンドセッターである「ミュウミュウ(MIU MIU)」は、今季もスマッシュヒット!「ウジョー(UJOH)」「キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)」「エーグル(AIGLE)」「デュラン ランティンク(DURAN LANTINCK)」をお届けします。
10:30 「シャネル」
ヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)=クリエイティブ・スタジオ・ディレクターは、回を重ねるごとに偉大なるカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)の後任という重圧から解放され、「シャネル」の顧客がブランドに求める素直な愛らしさ、華やかさ、若々しさを手に入れているようです。
南フランスにあるモダニズム様式の邸宅ヴィラ・ノアイユの庭園から着想を得たという今シーズン。ぜひこの記事と合わせて同邸宅の写真を検索して見て欲しいのですが、南仏の太陽の光が注ぐ庭はキュビズムの影響を受けたチェッカー模様でモダンです。貴族であり妻は「シャネル」を愛用したと言われるマリーロール、シャルル ド ノアイユ夫妻はこの邸宅に若い芸術家を呼び寄せ、創作活動をサポートしたそうで、その先進的な姿勢が庭のデザインにも表れています。
今季の鮮やか使いや、アシンメトリーのバランス、パッチワーク、チェックやストライプの柄使いはまさに庭のデザインと呼応しており、服に遊び心や躍動感を与えています。「洗練と気取らなさ。コレクション全体に使われたツイード、スポーツウェアとレース。このコレクションでは、対極にあるもの同士をできるだけクールな方法で結びつけようとしました。庭とプールという ヴィラ ノアイユのその唯一無二の背景が、それに素晴らしくマッチしています」 とヴィルジニーはコメントしています。
リリースには「生きる喜びを感じる」という言葉が使われていましたが、ショーを見て感じたのはまさにそれ。息苦しい出来事が多い、今の世の中で必要なのはこういった人生を謳歌する前向きな明るさです。髪に大きなリボンを飾り、メガネで遊び、足元はフラットシューズで、ポケットに手を突っ込んで歩く自由なスタイリングもその雰囲気を助長しています。
11:30 「ウジョー」
パリコレの公式スケジュールに名を連ねる日本ブランドの数は11。その全てのショーを見て感じるのは、トレンドファッションを提案するのではなく、それぞれが独自の美学やモノ作りを突き詰めているということ。パリでのリアルショーは4回目となる「ウジョー」も、得意とするテーラリングのレイヤードスタイルを軸にしながら前進しています。
特に印象的だったのは、重くなりがちなスタイルに加えた軽やかさと柔らかさです。前者は、光沢のあるブライトナイロンで織ったワッフル地やポリエステルと和紙を交織したダブルサテンなどのシアー素材を用いたり、ベアトップやカットアウトなどの肌見せを取り入れたりすることで表現。後者は有機的な曲線から生み出されるもので、アメーバのような形状のパーツは組み合わせてベストを作ったり、コートやスカートの裾を丸みのあるカッティングで仕上げたりしています。
12:30 「キコ コスタディノフ」
初めて現場取材する「キコ コスタディノフ」の会場は、他のショーと比べると若者を含めオシャレな人が集まっている印象で、ファッション熱を感じます!セレブ合戦を繰り広げ、編集長やディレクタークラスが勢ぞろいするショーが多いパリコレの公式スケジュールでこういう会場は多くないので、貴重ですね。
ウィメンズラインを手掛ける双子のローラ&ディアナ・ファニング(Laura and Deanna Fanning)が今季見せたのは、ひねりが効いたパターンやカッティング、色使いで作り上げる独特なスタイルを探求しながらも、これまでよりもエレガントに仕上げたコレクション。“バイアスカットの女王”マドレーヌ・ヴィオネ(Madelaine Vionnet)から着想を得たというドレープを生かしたシルキーなドレスやトップスが象徴的ですが、ランダムな切り替えでカラーブロッキングを施したり、ファスナーをあしらったりすることで“らしさ”を盛り込んでいます。そこに合わせた細身のパンツも、複雑なパターンで布がうねりながらドレープを描くデザイン。そのほかにもカーディガンの上下と前後をひっくり返したようなプレイフルなボーダーニットや、ファスナー開閉でシルエットに変化をもたらすトレンチコートやブルゾンなど、スタイリングしがいのあるアイテムがそろいます。半年後に若者たちがどんなふうにリアルに落とし込むのかが楽しみになるショーでした。
14:00 「ミュウミュウ」
「ミュウミュウ」は今季も弾けました。ショーの直後に孫の誕生を控えていたというミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)ですが、年齢なんてもちろん関係なし。ミウッチャというデザイナーはファッションが本当に好きで、ブレーンであるスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァ(Lotta Volkova)が提案する突飛な価値観を素直に取り入れる好奇心があり、キャラクターのたったモデル選びのセンスに優れているのだと痛感したショーでした。
ショーにはいろいろなキャラクターが登場しましたが、核となっているのはサーファーとプレッピーです。ドローストリングのカラフルなサーフショーツに紺色のポロシャツやジャケット、足元はビーチサンダルかモカシン、手にはビンテージ風のレザーバッグ。バッグからはゴールドのハイヒールが飛び出すなどどこかに違和感を残しつつ新しいスタイルを築きます。
多くのブランドに影響を与えている、極端なローウエストと短いトップスというバランスは引き続き。ただし肌の露出は控え目で、お腹を見せずに服のシェイプでそのバランスを取り入れるケースが増えています。
オタクっぽいキャラクターたちの印象を決定づけたのが、ラストに登場したケイリー・スピーニー(Cailee Spaeny)です。26歳のケイリーですが、コートの胸元を掴み、ニコリともせず歩く姿はピュアな10代のそれ。トロイ・シヴァン(Troye Sivan)のような美少年もモデルとして登場。ウィメンズ、メンズの違いではなく、心に少女が住んでいるすべてのジェンダーと世代に向けたコレクションですね。ブラボー!
15:00 「エーグル」
今年170周年を迎えた「エーグル」の会場は、5区にある国立自然史博物館にある植物園の温室。生い茂る緑に囲まれた空間は、まさにゆったりした時間が流れる”都会のオアシス”といった感じで、自然と街をつなぐブランドにぴったりのロケーションです。現在フランス人デザイナートリオのエチュード・スタジオ(ETUDE STUDIO)が手掛けているコレクションは、シンプルかつ機能的でありながら、ややゆったりしたシルエットでモダンなイメージ。アウトドアやユーティリティーの要素をスタイルに取り入れる“ゴープコア”トレンドが広がり、ゲリラ豪雨など予期できない天候の日も増えている今、テック素材のコートやジャケット、カーゴパンツは街でも大活躍しそうです。
さらに、今回は会場となった博物館とのコラボも発表。博物館のアーカイブから採用した植物園と温室のグラフィックをプリントしたパッカブルのレインポンチョやブーツ、バケットハット、トートバッグなどを提案しています。
16:30 「デュラン ランティンク」
ユニークな才能と出会いました。オランダ人デザイナーによる「デュラン ランティンク」です。2019年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ(LVMH YOUNG FASHION DESIGNER PRIZE)」でセミファイナリストに選ばれ、23-24年秋冬シーズンには “23年春夏秋冬(ssaw2023)”コレクションと題して、自身のアーカイブや他ブランドのアイテムを裁断し新しいものに作り替えて発表しました。
と、いう前情報を得ていたのですが、実際のルックを見て目が点に。極端に短いトップスと極端に生地分量の少ないボトムスのオンパレードで、「ミュウミュウ」に端を発した流行りのプロポーションバランスへのアイロニーにしか見えません。ボリュームたっぷりのブルマーにデニムジャケット、ボディラインを極端に強調したことで体から浮かび上がったミニドレスなど、「笑ってください」と言わんばかりのデフォルメルックのオンパレードです。実際、会場には声をあげてゲラゲラ笑う人もいました。
唇や船、クジラやしっぽなど、あちこちからインスピレーションを得た空想的なコレクションだそうで、言われてみればライフジャケットがパーカに、ブイがビキニのトップになっています。ここまで過激でありながら「メッセージは特にありません」とデュラン。なかなか手強いデザイナーの登場です。ブレザーの裏地には「バレンシアガ(BALENCIAGA)」の残布を使用するなど、素材の95%はデッドストック。その他のテキスタイルはリサイクルをしているそうです。
カウンターカルチャーから新しい時代が生まれるのがファッションのセオリー。こういったショーでパリコレが締めくくられるのは大歓迎です。