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特集 2024年春夏パリ・ロンドン・ニューヨーク 第1回 / 全7回

パリコレはポリシーを貫き濃厚なコミュニティーを形成すブランドが勝利する

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パリコレはポリシーを貫き濃厚なコミュニティーを形成すブランドが勝利する

2024年春夏パリ・コレクションは新型コロナが完全に明け、中国勢が戻ったことで、期間中はパリの街が丸ごとイベント会場になったかのような活況を呈した。「活況」の最大の要因は、韓国と中国のセレブリティーの存在だ。彼らを一目見ようと、会場や滞在ホテルの前は大勢の人が集まり、「推し」が姿を見せようものなら、一斉にスマートフォンが掲げられ、歓声を超えた絶叫が上がる。集まる人がファッションに関心があるとは限らないが、そこからさまざまなコミュニティーへ拡散されていくことは間違いない。ファッションとエンターテインメントの協業がいかにパワーを持つかを実感する光景だ。(この記事は「WWDJAPAN」2023年10月16日号からの抜粋です)

SNSによりコミュニティーが細分化されている現代は、トレンドはそのコミュニティーの中から生まれる。ならばパリコレにもはやトレンド発信力がないかと言えば、それも違う。なぜならパリコレが新作発表の場であると同時に、コミュニティー形成の場、コミュニティーを通じたイメージや情報発信の場として進化しているからだ。結果、印象に残るのは強いデザインポリシーやクリエイションがあることを前提に、その上でセレブリティーとの関係を生かしてムーブメントを起こすことに長けているブランドのショーだ。


代表例が「サンローラン(SAINT LAURENT)」だ。夜のエッフェル塔を見上げる屋外の会場前には、常連であるブラックピンク(BLACKPINK)のロゼ(ROSE)をはじめとする今をときめくセレブリティーの姿を求めてファンが集まり騒然としたが、ひとたびショーが始まれば、大理石を飾ったランウエイには洗練を極めた服とモデルが登場し、空気が“パリモード”へと一変した。16年から同ブランドを率いるアンソニー・ ヴァカレロ(Anthony Vacarello)=クリエイティブ・ディレクターは元々、自身のブランドでも「サンローラン」に通じる黒を基調としたソリッドなスタイルを持っていたが、近年はそこにパリらしい官能やコケティッシュさが加わり、完成度と魅力が高まっている。今季はパイロットのアメリア・イアハート(Amelia Earhart)ら先駆的な女性に着想を得て、サファリやジャンプスーツといった実用的なアイテムをそろえた。フロントローにはムッシュ・サンローラン(Saint Laurent)のミューズでもあったベティ・カトルー(Betty Catroux)が変わらぬスタイルで華を添え、ランウエイと客席の世界観が呼応する。ヴァカレロはおそらく、ムッシュと同時代を生きたベティのような女性たちとの交流を通じて「サンローラン」の美意識を体得し成長してきたのではないか。往年のスターと現代のポップスターからなる「サンローラン」のコミュニティーは、ストライクゾーンは狭いものの、濃厚だ。

ショー会場半径50m以内の
「ミュウミュウ」ワールド

トレンドをけん引している「ミュウミュウ(MIU MIU)」もまた、独特のコミュニティーを形成している。極端に短いトップスと、極端に浅いボトムスで2020年代流の肌見せスタイルを確立した同ブランドの会場前には、ブルマー風ショーツや下着が透けたスカート姿のインフルエンサーが集結した。露出の限界を極めたスタイリングはそのまま地下鉄に乗ることははばかられるほど過激で、会場から半径50mのパパラッチに囲まれた“安全地帯”とデジタル上でだけ成立する、ある種の夢の世界だ。最前列に座った世界各国の女優・アーティスト陣はそこまでの露出でこそないものの、マイクロミニスカートなどのファッションを楽しんでいた。彼女たちが談笑する様子はまさに“「ミュウミュウ」ガールズ・コミュニティー”である。24年春夏の「ミュウミュウ」は露出度が下がったが、サーファーやプレッピーといったキーワードを取り入れたルックのプロポーションバランスは引き続き「短いトップスと浅いボトムス」のそれである。定番アイテムも“「ミュウミュウ」的なバランス”を取り入れると俄然今っぽくなることが、そこで証明されている。

ニューヨーク、東京と世界をめぐりパリへやってきた「マルニ(MARNI)」もまたコミュニティーを上手に取り入れているブランドだ。各地でエッジの利いたインフルエンサーたちとつながり、時に彼らにショー周りの仕事などを託すことで、「共に作り上げる」機運を作り上げている。パリの会場はなんと、カール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が生前暮らした私邸。瀟洒な館を舞台に、とは言えカールのカリスマ性に遠慮をすることもなく、「マルニ」らしいおもちゃのチューブのような客席を用意。その間を自由気ままなスタイリングの男女のモデルが歩き、カラフルな服はSNSを通じてパリから世界へ発信されていた。

「ステラ マッカートニー」の
サステナビリティ・コミュニティー

もう一つの例は、「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」がサステナビリティを通じて築き上げてきた独自のコミュニティーだ。自身のアーカイブや家族とのつながりなどがベースとなっている今季のコレクションは95%が環境に配慮された素材から作られたという。マルシェに作った会場では客席の対面に21の屋台を用意し、その一つ一つにサステナビリティ関連の素材や製品を並べた。海藻由来の繊維、再生ウールのサプライヤー、植物由来“レザー”の開発者など表に出ることが少ない裏方のアイデアや人物にフォーカスするアイデアは画期的で、屋台で若き起業家や研究者たちがイキイキと語る姿に来場者は引き込まれていた。

何を作るか、と同じくらい、それをどう伝えるかがブランドビジネスの成否をにぎる今のファッションビジネスにおいて、このようなブランドを通じて新しいコミュニティー形成の方法を学ぶ価値は高いだろう。彼らは、インフルエンサーを広告塔としてだけではなく、価値を共有する「仲間」として捉え、相性が良い人を最前列に招き、彼らを通じてブランド価値を増幅させている。デザイナーたちから度々「パーソナル」というキーワードが上がったのもそういった、自身のパーソナリティー、コミュニティー一人一人のパーソナリティーを大切にしているからではないだろうか。

「クロエ」など相次ぐデザイナー交代

アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)

サラ・バートン(Sarah Burton)

「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」 デザイナー:サラ・バートン

2010年に創業デザイナー亡き後、重責を引き継いだサラ・バートンが去る。端正なテーラードをベースに刺しゅうなどの手仕事を加えて、英国発ブランドをラグジュアリーへ成長させた功績は大きい。後任はショーン・マクギアー。

クロエ(CHLOE)

ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)

「クロエ(CHLOE)」 デザイナー:ガブリエラ・ハースト

「クロエ」と業界にサステナビリティの概念を強烈にインプットしたガブリエラ・ハーストは、サンバダンサーの輪の中で踊り、笑顔で退任のあいさつ。生命力の象徴である花のモチーフが情熱的な彼女らしい。後任は、シェミナ・カマリ。

アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)

ステファノ・ガリーチ(Stefano Gallici)

「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」 デザイナー:ステファノ・ガリーチ

26歳のステファノが会場に選んだのは線路の跡が残る細長く、真っ暗な倉庫。黒と白、ロングジレ、袖の長い白シャツ、流れるようなパンツ、透ける素材と対照的な硬質なレザーなどすべてメゾンのコードの上にある安心のデビュー。

カルヴェン(CARVEN)

ルイーズ・トロッター(Louise Trotter)

「カルヴェン(CARVEN)」 デザイナー:ルイーズ・トロッター

2018年に経営破綻し中国のICCFグループに買収されて以降、中国を中心にビジネスを続けてきたが、実力派デザイナーを迎えてパリコレに復帰。創業者の精神に敬意を表した実用的な服をそろえ、グローバルブランドとしての再生を図る。

PHOTO : ADRIEN DIRAND(LOUIS VUITTON FINALE), ©CFCL INC., ©︎CHANEL, ©︎KOJI HIRANO(ANREALAGE), COURTESY OF BALENCIAGA, COURTESY OF MIU MIU, COURTESY OF THE ROW, FILIPPO FIOR(HERMÈS), FRÉDÉRIQUE DUMOULIN-BONNET © 2023 ISSEY MIYAKE INC., GIOVANNI GIANNONI(LOUIS VUITTON RUNWAY), IMAXTREE(DRIES VAN NOTEN), MOLLY LOWE(LOEWE BACKSTAGE), MONICA FEUDI(PETER DO), OWENSCORP(RICK OWENS), SASKIA LAWAKS & SOFIA MALAMUTE(SAINT LAURENT CELEBRITY) AND DOMINIQUE MAITRE & GIOVANNI GIANNONI / WWD ©︎ FAIRCHILD PUBLISHING, LLC
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