PROFILE: 濱一郎THE H代表
福島第一原発の処理水問題に代表される日中関係の悪化は、日本のビューティ企業にとって大きな問題だ。報道では中国人による「Jビューティ」の不買運動が起こり、中にはアフターコロナで回復を見込んでいた中国市場の見通しを「横ばい」と下方修正する企業もちらほら。だが、そんな報道は本当なのか?そこで越境ECをはじめ日本ブランドの中国ビジネスに特化したアドバイザリー企業のトップと、これから日本市場に進出しようとする美容機器メーカーの最高経営責任者を直撃。処理水問題の影響から、日本人が体感しづらくなっている日本市場の魅力まで、中国人の本音を探った。前編は、アドバイザリー企業のトップに処理水問題の影響と、これからの中国市場に対する心構えを聞いた。
WWDJAPAN:福島原発の処理水問題に端を発した、日本の化粧品に対する逆風はどう捉えている?中国でのビジネスを確立してきた大手企業さえ、年内の中国国内での見通しを「横ばい」とする流れが相次いでいる。
濱一郎THE H代表(以下、濱):処理水問題に関して言えば、多くの中国人の頭にあるのは「水産物を食べてはいけない」だけ。処理水の排出が始まろうとしていた2カ月前は大きなニュースだったが、今なお日本、そして日本の製品にネガティブな印象を抱いている人は、そんなに多くない。昔から中国人には、「負けたくない」や「優位に立ちたい」という思いがある。その意味で中国政府は、処理水を理由に日本の海産物を禁輸して「優位に立った」。だが今、中国人がもっと気にしているのは、日本よりずっと「優位に立ちたい」と思っているアメリカの制裁を受けているファーウェイ(華為)が、初の中国製5Gチップを開発したこと。中米関係の悪化により、中国のスマホは現在米国企業の半導体が搭載できない。だからこれまで5Gの電波は中国国内にも飛んでいるのに、アイフォーン以外の端末はそれをキャッチできないという、中国人には屈辱的な状態が長らく続いていた。初の中国製5Gチップの開発で中国産の端末も5G対応になれば、屈辱的な状態は解消され、アメリカに対して「負けたくない」と思う中国人の国民感情は叶えられる。そうなれば、日本に「負けたくない」から禁輸している水産物に対する強硬な姿勢は薄れ、どこかで「安全」との見解を発表するのではないか?日本に対するネガティブな感情は、その程度の話。今年は、日中平和友好条約の調印から45周年。個人的には、年末あたりに中国政府が水産物の禁輸を解消、もしくはかなり緩和する“プレゼント”を日本政府に贈るのでは?と考えている。
WWD:ということは、中国市場における日本の製品の売れ行きや、日中の化粧品の橋渡しを担う自身のビジネスへの影響は少ない?
濱:日本製品の売れ行きが鈍っているとしても、一時的なものだ。日本の化粧品は、ラベルに本社の住所を入れている。そこに「東京」と書かれているから、今は買わない人がいるかもしれない。でも、それは長く続かない。私の仕事への影響も限定的だ。コロナ禍以降、中国に入国するためのビザが取りづらく、結果日本のクライアントの訪中が先延ばしになっている程度だ。感覚的には、コロナが終わって上昇機運が高まっていたのに、それが一時的に延長されてしまった感じ。そのくらいだと思う。
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