2024年春夏ミラノ・ファッション・ウィークが9月19〜25日に開催されました。今季のミラノは、サバト・デ・サルノ(Sabato De Sarno)による「グッチ(GUCCI)」や、ピーター・ホーキングス(Peter Hawkings)による「トム フォード(TOM FORD)」、シモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)による「バリー(BALLY)」など、新たなクリエイティブ・ディレクターによるデビューショーも目白押し。オフスケジュールのイベントやアフターパーティーも復活し、盛り上がった現地の様子を村上編集長と、ミラノコレ取材2シーズン目の木村記者が振り返ります。
「フェラーリ」
木村:4日目は「フェラーリ(FERRARI)」でスタートしました。「フェラーリ」のアパレルってどう受け止められているんだろう?と気になっていましたが、会場にはコレクションを着用した来場者が多くファンの心をしっかり掴んでいる印象を受けました。コレクションは、クワイエット・ラグジュアリーの流れを感じる柄や装飾を削ぎ落としたオールホワイトのコーディネートでスタートし、サーモンピンク、インディゴ、ネイビー、テラコッタ、レッドと全てワントーンコーデを貫きました。ミニ丈のワンピースとポインテッドトゥのミュールのコーディネートにはレザーのロンググローブを合わたり、シースルーのニットのセットアップにはレーサーのようなレンズが大きなサングラスを合わせたり、スポーティーな要素を随所に織り交ぜることでブランドらしい疾走感を感じました。
「エルマンノ シェルヴィーノ」
村上:続く「エルマンノ シェルヴィーノ(ERMANNO SCERVINO)」は、今回良い感じでしたね。正直トレンドを意識しすぎる傾向が強いので、「この洋服、『エルマンノ シェルヴィーノ』じゃなくてもいいよねぇ……」って思っちゃうシーズンも少なくありませんでしたが、今回はオーガンジーやチュール、レースを多用したり、ブラトップやミニ丈のパンツで若々しさを表現しつつ、スエードまで含む天然素材を主体にして、日差しが眩しいイタリアの夏を思わせるクラフツマンシップも冴えていたように思います。とはいえ、今回のコレクションが特に日本市場の顧客にフィットするか?と聞かれたら難しいスタイルもありますが、まずはカフタンドレスや、ショートパンツにジャケットのスタイルから提案してほしいな。率直に言って、我々が抱きがちな“年配客向け”のイメージはほとんどなかったように思いますが、木村さんにはどう映ったのでしょうか?
木村:ショート丈のパンツにレースのストラップワンピースを重ねたルックやざっくり編みニットカーディガンのセットアップなど、リラックスしながらも品のある、まさに大人のラグジュアリーを感じました。おっしゃる通り“年配客向け”の印象は受けませんでしたが、あのコレクションを着ることができるオケージョンはヨーロッパのバカンスのイメージ。日本のマーケットでどんな人に刺さるのかぜひ、今度卸先の店舗に聞いてみたいです。そして私は前回初めて「エルマンノ シェルヴィーノ」のショーを拝見し、着る人にとことん配慮された官能的なコレクションに非常に感動したんですが、今回のあのプラットホームサンダルはちょっと歩きづらそうで。心地よいロケーションと美しいコレクションだったからこそ、足元のぐらつきが気になってしまいました。
「フェラガモ」
村上:次の「フェラガモ(FERRAGAMO)」も、なかなか日本のマーケットで着られる人が想像しにくい印象でしたが、今シーズンは随分ウエアラブルになりましたね。限られた色使い、エフォートレスなアイテムなど、一大トレンドに台頭したクワイエット・ラグジュアリーなムードを携えていましたね。一方、ホルターネックのドレスは、首周りにレザーチョーカーを用いていたりと、マクシミリアン・デイヴィス(Maximilian Davis)らしいフェティッシュなムードは健在。世界観を崩すことなく、コマーシャルなコレクションが生み出せるようになってきたかな、と次回以降がますます楽しみになりました。木村さんは、同年代のマクシミリアンを応援している印象があるけれど、どうですか?
木村:とっても応援してます!前シーズンの「官能性」の解釈もそうでしたが、同世代として共感するところも多くて勝手ながら親近感が湧いています。彼のあのフェティッシュな世界観はどこから来ているのかにも大変興味がありますし、イタリアのラグジュアリー業界最年少で活躍する彼が考えている業界の未来や私が担当しているサステナビリティをどう考えているのかも含めて話してみたいです。今回は彼の強いクリエーションが天然素材を用いることでグッと幅が広がりました。1点、既存の「フェラガモ」ファンからはどう受け止められているのかビジネス面が気になっていましたが、ブランドのPR担当者の方からはしっかりと新規顧客の開拓につながっていると聞いたので安心しました。
「ドルチェ&ガッバーナ」
木村:「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」は、ナオミ・キャンベル(Naomi Campbell)のランウエイウォークに拍手喝采でしたね。今回もシフォンやレースのワンピース、ランジェリールックなど、ぶれない官能的なコレクションでした。ちなみに「ドルチェ&ガッバーナ」は過去には官能性から離れた時期もあったりしたんですか?
村上:あんまりないかな(笑)。かつてはいきなりZ世代を意識したフューチャリスティックなストリート路線に舵を切るなど、シーズン毎に激変していた時期もあったけれど、今はブラックがメーンで、レースやシフォンたくさん使って、スリークな撫で付け髪に赤リップ、ピンヒールが似合うスタイルに徹している気がします。結局、それがブランドらしさであり、「ドルチェ&ガッバーナ」のファンが求めるものなんでしょうね。今回のテーマは、「WOMAN」。ド直球です(笑)。でも、日本でモノ作りするブランドには、参考になりそうなスタイリングアイデアがいっぱいです。ブラトップにシフォンのブラウスなどの官能的なスタイルはもちろん、オーガンジーを使ったトレンチコートや、そんなアイテムとジャケットのコーディネート、普遍的なアイテムをドラマチックに見せるためのパフスリーブや長めのボウなど、参考になるアイテムやスタイル提案がぎっしり詰まっています。
「ジル サンダー」
木村:「ジル サンダー(JIL SANDER)」は、すごく存在感が強まっていますよね。「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」的なアートや工芸の文脈にファッションの可能性を押し広げている印象で、まだ見たことのない美に触れることができるコレクションでした。私はショーのチケットがでなかったので、是非会場演出について聞かせてください。
村上:天井から無数の細長い紙が垂れ下がった空間でコレクションを発表しました。ジャケットやジレなど、縦に長いシルエットの洋服が多かったからかな(笑)?もちろん他のブランドに比べればクワイエット・ラグジュアリーだけど、かつてのように削ぎ落とすミニマリズムではなく、強い意図を込めるようになってから快進撃を続けていますね。今回は、コントラストを効かせたシルエットの融合、メンズとウィメンズの融合、洋服とジュエリーの融合、手仕事と先端技術の融合などで、服を次の次元に連れて行こうとしているように思えました。詳しくは、レビューをご覧ください!
「バリー」
木村:「バリー(BALLY)」は、シモーネ・ベロッティ(Simone Bellotti)新ディレクターによるデビューショーでした。前ルイージ・ビラセノール(Rhuigi Villasenor)はわずか1年で去ってしまいました。パンキッシュなムードがとても強かった前シーズンから全く系統の異なるベロッティ新ディレクターのコレクションには、結局「バリー」のアイデンティティーってどこにあるんだろう?と疑問に思いました。
村上:まぁ 前任に好きなだけブランドを破壊されてしまった印象があるから、「『バリー』って⁉︎」と思っちゃうのはある意味仕方のないこと。むしろここから、ブランドを再構築するんだと思います。その意味でスイスブランドとして、「スイスの生真面目さと不真面目さ」にフォーカスして、精緻なパターンワークのレザージャケットと、ちょっとユーモラスなフラワープリントなどを組み合わせるアプローチには納得です。クリエイティブのトップ就任からファースト・コレクションまで間もなかったでしょうから酷な話かもあじょれないけれど、願わくばもう少しブランドのアーカイブは深掘りして欲しかったかな。もう少し質実剛健なカンジが表現できると、我々世代には「バリー」ってイメージしやすいんだけれど。ウエアラブルだと思うけれど、ラグジュアリーブランドとしての品格を備えるには、リボンストライプなどの遺産的なアーカイブ由来の発想をもっと積極的に取り入れるべきだと思います。
「ボッテガ・ヴェネタ」
木村:「ボッテガ・ヴェネタ」の、クラフツマンシップを駆使したコレクションの迫力はすごかったですね。コレクションについてはこちらから。要さんの今季のベストショーは「ボッテガ・ヴェネタ」ですか?
村上:そうですね。アートとクラフト、それにファッションが融合する新たなステージの扉を開けた印象があります。まだ言語化できない、新しい魅力を備えている。そんなムードさえ感じました。「冒険」をテーマにしたコレクションは、ギリシャ時代の神話から現代、イタリアのクラフトから南米や東南アジア、アフリカを思わせるエキゾチック、貝殻を拡大した色柄繋がる海辺からオフィスなど、何にも縛られずに万物がてんこ盛り。旅路で出合った刺激の中から、自分の感性や直感を信じて好きなものを取り込んでいくノマド(遊牧民)のように自由なムードと、圧倒されるほどのクリエイションというコントラストも印象的でした。
「ジョルジオ アルマーニ」
木村:そしてラストを飾ったのは、「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」です。今季のトレンドである軽やかな透け感のある素材を用いつつまばゆい光を味方に優美なコレクションに落とし込みました。詳細は、レビューをご覧ください。今季もミラノコレ取材お疲れ様でした!