ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

寄付が支える「スリフトストア」 リセール市場で再脚光【鈴木敏仁USリポート】

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。今回は米国のリセール市場を取り上げる。環境への意識の高まりによって、米国でもリセール市場は急成長中だ。米国の場合は伝統的に不用品を寄付する文化が浸透しており、リセール市場の発展で再び脚光を集めている。

中古ファッションEC(ネット通販)のスレッドアップが「リセールレポート」と呼ぶ業界統計分析を毎年定期的に発行している。今年公開されたレポートによると、昨年のグローバル市場は28%増の1770億ドルで、2027年にはおよそ2倍の3510億ドルに成長すると予測している。平均すると毎年20%弱の成長予測である。

米国内は、昨年は390億ドル、2027年には700億ドルと予測、年平均で16%増となる。

参考までにグローバル市場を円換算(1ドル150円)すると昨年は26兆円強、27年の予測は53兆円弱である。リセール市場は非常に大きいということが分かるだろう。

プロパー市場の成長率を上回っており、無視できなくなって取り入れる企業が増えていることはご存知のことと思う。「ザラ」「H&M」など大手が続々とリセールプラットフォームをスタートしている。

「リセールレポート」によるとEC売上高上位1000社中、リセールを導入しているのは、家電が最も多くて28.0%、玩具とホビーが20.8%だった。アパレル&アクセサリーは6.1%で、ファッション分野はまだ低めだが強い成長傾向を見せていると評価されている。

成長を支えているのはもちろんエコ意識の広がりで、これについてはスレッドアップやビューティリサイクルをテーマとしてここでも何回か書かせていただいている。

「スリフトストア」とは何か

成長著しいリセール分野だが、アメリカには「スリフトストア」と呼ばれるビジネスモデルが存在するのをご存知だろうか。日本語では中古ショップやリサイクルショップとなり、取り扱い分野は衣料、家庭品、家具、玩具、書籍等々幅広い。

実は大きな市場なのだが、このビジネスを支えているのが寄付である。一般的には欧米では寄付や慈善が宗教的習慣として根付いているからと説明されるが、現実的な理由が背景にある。アメリカは寄付を奨励するために、寄付に対して一定額を税控除としているので、捨てるならば寄付しようとする人が多いのである。不要なものを寄付として持ち込むとレシートが発行されて、税申告の時に適用できる。

ちなみにこれは個人に限定されず法人でも有効で、災害が起こると小売企業が積極的に被害者に物資を寄付したり、NPO慈善団体に積極的に金銭を寄付したりする背景となっている。

かくいう私も衣料を中心にして不要なものを定期的に探してスリフトストアに持ち込んでいる。中古ECのスレッドアップなどを使えば売れるのだが、仕事が忙しく時間的制約もあり面倒なので、税控除を選ぶというわけである。

NPOに寄付された不用品を買い取って販売

さてこのスリフトストアの大手が6月に上場した。社名はセイバーズ・バリュー・ビレッジ(SAVERS VALUE VILLAGE)。上場によって公開された資料によると昨年度の年商は14億4000万ドルで前年比19%増、最終利益高は前年とほぼ同じで8470万ドル、店舗数は317となっている。売上高は150円換算で2160億円である。

アメリカならば10億ドル、日本ならば1000億円が売上規模のマイルストーンである。スリフトストアだからといってあなどるなかれ、アメリカでは中古を扱うリアル業界にこんな企業が存在するのだ。

アメリカのスリフトストア業界では、グッドウィル・インダストリーズ(GOODWILL INDUSTRIES)やサルベーションアーミー(SALVATION ARMY、救世軍)の知名度が高いが、セイバーズとの相違はNPOか否かにある。上場したことから分かるようにセイバーズは営利団体だ。営利団体は寄付レシートを発行できずNPOに限られているため、セイバーズは各地のNPOが集めた寄付商品をまとめて買い取って、自社店舗で販売するというユニークな仕組みを取っている。

ちなみにグッドウィルはウィキメディアによると22年の売上高は74億ドル、店舗は17カ国に4245店舗と表記されている。私はこの業界について日頃意識しないので知識がなかったが、改めて調べてみると非常に大きな組織なのである。

実をいうと、私はセイバーズのことを上場するまで知らなかった。この機会に訪問してみたのだが、売り場の作り方は特に衣料に関してはオフプライスストアを彷彿とさせた。スリフトストアと聞くと薄暗い売り場をイメージしてしまうが、当たり前だがそんなことはせず、クリーンな雰囲気で売り場も整理整頓されて、普通のリテーラーと遜色ない。

寄付はドライブスルー方式を取っており、車を降りる必要もなく、手間がかからない。ユーザーの負荷を減らすことで寄付しやすい環境を作っているのである。

冒頭で記したとおりリセール市場は急成長しており、アメリカではスリフトストアという大きなリアル業態も一翼を担っているということもぜひ知っておいていただきたい。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

メンズ32ブランドの猛暑に負けない推しスタイル 2025年春夏メンズ・リアルトレンド

「WWDJAPAN」12月16日号は、2025年春夏シーズンのメンズ・リアルトレンドを特集します。近年は異常な暑さが続いており、今年の夏は観測史上最も暑い夏になりました。ファッション界への影響も大きく、春夏シーズンはいかに清涼感のあるスタイルを提案するかが大切になります。そこで、セレクト各社やアパレルメーカーの展示会取材、アンケートを通して全32ブランドの推しのスタイルを調査し、メンズのリアルな傾…

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

@icloud.com/@me.com/@mac.com 以外のアドレスでご登録ください。 ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。