ファッション

創業170周年の「エーグル」が取り組む、自然と再びつながる未来への挑戦

フランスのライフスタイルブランド「エーグル(AIGLE)」は今年、創業170周年を迎えた。もともとは農業に携わる人に向けたラバーブーツからスタートしたが、人々のライフスタイルの変化に合わせ、商品ラインアップを次第に拡大。現在は、シューズからゴアテックスジャケットなどのアウターをはじめとするウエア、バッグ、小物までを幅広く展開するグローバルブランドになり、世界220カ国で販売されるまでに発展した。そんな「エーグル」が描く未来とは?

都市と自然をつなぐブランドとしての挑戦

「エーグル」が目指すのは、サステナブルで革新的かつ高機能なフレンチファッションを通じて、人々を自然と再びつなげること。そのため、都市と自然の境界線をなくし、自由に行き交うようなスタイルを提案している。モノづくりにおいては、国際規格に基づいて認証された素材を使用するなどして、サステナビリティと耐久性の両立を推進。2023-24年秋冬コレクションでは、全体の74%を環境負荷の軽減や環境への配慮を意味する「エーグル・フォー・トゥモロー・コンセプト」に基づいた生産背景で生み出している。一方、20年にはクリエイター集団のエチュード(ETUDES)をアーティスティック・ディレクターに任命。22年にはブランドの歴史において初めてパリ・ファッション・ウイークに公式参加するなど、ファッション軸でも活発な動きを見せている。

さらに23年からは、英語で“土”を意味する「ソイル(SOIL)」とフランス語で“あなた”を意味する「トワ(TOI)」から生まれた造語「ソイルトワ(SOIL TOI)」を、日本独自の新たなコンセプトとして設定。ブランドのルーツである「農」をはじめ、森や里山から川、海まで、土を通してつながるコミュニティーを育み、豊かな自然と共にある暮らしをサポートしている。キーパーソンとなるのは、「ソイルトワ コパン」と呼ぶ自然との共生を実践するパートナーたち。その活動を支援するとともに、今後はワークショップや協働販売などの取り組みを行っていくという。また特設サイトでは、彼らのストーリーやライフスタイルを紹介。「エーグル」としても、農業やガーデニングをコンセプトにした売り場や新たな商品レンジ“エキスパート”の拡充に着手している。

「エーグル」の今に欠かせない
2つのキーポイント

グローバルブランドとなった「エーグル」の今を語る上で欠かせないキーポイントが2つある。一つは、1853年の創業時からアイコンであり続けるラバーブーツだ。もともとは、創業者であるアメリカ人実業家のヒラム・ハッチソン(Hiram Hutchinson)がグッドイヤー(GOODYEAR)から取得したラバーのバルカナイズ製法を製品に活用したことから生まれた。最大の特徴は、柔らかくしなやかで快適な履き心地。防水性と耐久性に優れた天然ゴムを主原料として使用するとともに、職人の技術とノウハウを生かしてフランスと中国でハンドメードすることにより、それを実現している。また、裁断後のゴム片などのリサイクル素材を用いたり、ライニングをリサイクルのポリエステルやオーガニックコットンに変更したりと、環境に配慮したモノづくりを強化。エレガントですっきりとしたロングシルエットから、よりカジュアルなミドル丈やチェルシーブーツ、クロッグデザインまで、好みやニーズに合わせて選べる幅広いスタイルをそろえる。

そしてもう一つは、2020年にアーティスティック・ディレクターを務めるエチュードの存在だ。エチュードは、オレリアン・アルベ(Aurelien Arbet)、ジェレミー・エグリ(Jeremie Egry)、ジョゼ・ラマリ(Jose Lamali)の3人が創業したクリエイター集団。パリを拠点に彼ら自身のファッションブランドを手掛けつつ、アートや写真、出版など多様なフィールドでも活躍している。「エーグル」では、現代的な視点と価値観を生かし、アウトドアだけでなく都市にも自然に溶け込むコレクションを提案。22年春夏に初のフルコレクションを発表し、ブランドの歴史における新たな章を開いた。

パリ国立自然史博物館の植物園で
2024年春夏コレクションを発表

パリ・ファッション・ウイーク期間中の10月3日には、国立自然史博物館植物園内の温室で2024年春夏コレクションのプレゼンテーションを開催した。「自然に触れるような没入体験を提供したかった」とオレリアン・アルベが明かすように、会場はまさに“都会のオアシス”。自然と都市をつなぐブランドにとってぴったりのロケーションだ。「ジャーニー(旅)」と題したコレクションは、明け方から夕暮れにかけた日の光の移り変わりから着想。世界中への冒険からアウトドア活動や都市生活まで、さまざまな1日の過ごし方に適したユーティリティースタイルを打ち出す。カラーパレットは、自然とのつながりを示すアースカラーや都会的な黒を基調に、空を旅するように動く太陽を想起させるオレンジなどを使用。同博物館のアーカイブから採用したという植物園と温室のグラフィックをプリントした、パッカブルのレインポンチョやブーツといったコラボアイテムも提案する。

今季はエチュードが手掛け始めて5シーズン目になるが、アルベは「『エーグル』は170年の歴史の中で街からアウトドアまでのシーンが融合するユニークな価値を持つブランド。フランスのサヴォアフェールを生かしたアイコニックな製品があることも強みだ」と説明。そして、「まずはアーカイブをじっくり見るところからスタートした。自分たちの役目は、フランス人にとって常に身近にあった老舗ブランドの“今”のあるべき姿を表現することだ」とジョゼ・ラマリとジェレミー・エグリが続ける。そこで重要になるのは、「実用性とフレンチエレガンスを感じるスタイルを併せ持つシルエット」とエグリ。シンプルかつ機能的なデザインに、ややゆとりのあるシルエットや短めのショーツ丈を取り入れ、現代的なイメージに仕上げている。

広がる自然を守るための取り組み
「エーグル・フォー・トゥモロー」

自然とのつながりが深い「エーグル」は2021年、フランスで「使命を果たす会社(Entreprise a Mission)」に認定された。これにより、環境への配慮をブランドの存在意義の一つとして、定款に「足跡以外の痕跡を残さずに、大いに経験し人生を謳歌するために」という企業理念を記した。加えて、「環境に配慮した製品の開発」や「循環型経済と環境保全への意識向上」など5つの目標を設定。フランスのファッション協定(FASHION PACT)や国連グローバル・コンパクト(GLOBAL COMPACT)への加盟をはじめ、グローバルとローカルの両面で環境保全に注力している。

日本では、アウトドア業界各社で構成される非営利団体コンサベーション・アライアンス・ジャパン(CONSERVATION ALLIANCE JAPAN、CAJ)に19年に加盟し、環境保護活動への資金提供をスタート。21年には環境省と「国立公園オフィシャルパートナーシップ」を結び、国立公園の環境保全や利用促進、認知拡大を支援している。さらに森林保全団体モア・トゥリーズ(MORE TREES)とは、20年から毎年チャリティコレクションを制作。売り上げの8%を寄付し、その活動をサポートしている。そのほか、棚田米を使ったビーガンアイスクリームメーカーのビートアイス(BEAT ICE)、服の回収・リサイクルを行うブリング(BRING)、廃棄予定の花を役立てるリン(RIN)とも取り組みを続けている。

EDIT & TEXT:JUN YABUNO
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