近年、ファッションの文脈で注目を集めている“クワイエット・ラグジュアリー(Quiet Luxury)”の影響が、婚約指輪の選び方にも表れ始めている。“クワイエット・ラグジュアリー”は、その名の通り、ミニマルで流行にとらわれないデザインでありながら、上質さや気品をさりげなく漂わせるスタイルを指す。婚約指輪でも、質の高いダイヤモンドを使用した、控えめながらも目に留まるデザインの人気が上昇しているという。
ナチュラル ダイヤモンド カウンシル(NATURAL DIAMOND COUNCIL、旧ダイヤモンド生産者協会)のクリスティーナ・バックリー・ケイル(Kristina Buckley Kayel)=マネージング・ディレクター兼最高マーケティング責任者(CMO)は、ダイヤモンドの品質を評価する「4C(カット、カラー、クラリティー、カラット)」の優先度が従来より上がっているほか、石のサイズよりも自分に似合うデザインや指へのフィット感を重視する傾向が高まっていると語る。また、ダイヤモンドのシェイプに関わらず“ソリティア(一粒石)”を求める顧客が増えていると述べた。
ニューヨークに拠点を置くジュエラーのザ クリア カット(THE CLEAR CUT)の創業者オリヴィア・ランダウ(Olivia Landau)によれば、アンティークやビンテージスタイルも人気を集めているという。このため、エメラルドカットやオーバルカット、クッションカット、アッシャーカットのダイヤモンドの需要が増加している。同氏は、「お客さまからは『けばけばしいものは嫌。普遍的なデザインで、価値が下がらないものが欲しい』という声が多い。婚約指輪は代々受け継がれるケースも多く、時に次の世代へ伝えるために購入するものだ」と話す。
ジュエリー会社のブリリアント・アース(BRILLIANT EARTH)によるとペアシェイプも好調で、台座の下に小さなダイヤモンドを複数あしらって密かに輝きを強める“ハロー”スタイルも人気が高まっているという。地金は、ソリティアで王道のイエローゴールドを選ぶ人が多い。
また、ケイル=マネージング・ディレクター兼CMOによれば、祖母や母などから受け継いだダイヤモンドと新しいものの2つをセットした「トワ・エ・モワ」と呼ばれるスタイルも引き続き人気だという。「ダイヤモンドは古くからある自然の産物で、その希少価値を理解することは、“クワイエット・ラグジュアリー”のムードを表現する上で非常に重要だ」とコメント。本質的には、“クワイエット・ラグジュアリー”のトレンドに当てはまるのは天然のダイヤモンドだが、昨今は品質が大幅に向上しているラボグロウンダイヤモンドの可能性も注目されている。
ジュエリーデザイナーのジャン・ドゥセ(Jean Dousset)は、「ラボグロウンダイヤモンドがより一般的になり、多くのブランドが採用するようになってきたことで可能性が広がった。複数の宝石を飾るのではなく、中央のダイヤモンドを重視するようになった顧客のニーズにもマッチする。天然のダイヤモンドは、予算によってはサイズを縮小するかクオリティーを妥協しなければならないが、ラボグロウンであれば希望のカラット数をかなえられる」と説明した。