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東京都主催ファッションイベントに予算6億円の価値はあったのか 4日間の取材で見えた現実

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東京都とファッション・アパレル関連の団体で構成するファッションフェスタ実行委員会は、東京の丸の内と銀座、渋谷を舞台にしたファッションイベント「東京 ファッション クロッシング(TOKYO FASHION CROSSING、以下TFC)」を11月3~6日に開催した。イベントの目的は、東京発のファッションを街全体で表現し、産業の活性化につなげること。そのために、東京都は2023年度予算から6億円を計上している。

同イベントの企画・プロデュースは、PRや広告、マーケティングを行うGOが担当。“この街 すべて 最前列”をテーマに掲げ、4日間で街頭や施設でのファッションショーのほか、服やファッションに関わるアートの展示、トークショー、フリーマーケットなど約140のブランドと著名人らによるさまざまなコンテンツを用意した。同イベントの現場や関係者への取材を通じて、初の大規模ファッションイベントについて考える。

目玉イベントのショー
その目的と疑問

「TFC」の主なコンテンツは3種類。メイン企画となるのは、街頭でのファッションショーだ。二つ目は、国内ブランドの新作やアート作品、伝統文化についての展示。三つ目は、ファッションに精通している著名人らによるトークショーである。これらは全て誰でも参加できるイベントとして、一部を除いて事前申し込みなしで見られる。

特にファッションショーは目玉イベントとして、「楽天ファッション・ウィーク東京(以下、東コレ)」を運営する日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)とも連携しながら、丸山敬太「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」デザイナーや山岸慎平「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」デザイナーをプロデューサーに据え、スタイリストの濱本愛弓や服部昌孝、演出のSUNデザイン研究所など、ファッション界の第一線で活躍するプロフェッショナルもそれぞれのショースタッフとして参画。“多様性”がテーマの丸の内仲通りを皮切りに、“自由”の渋谷パルコ、“伝統”の銀座松屋通り、“ビジネス”の東京国際フォーラムという4カ所でショーを行い、「TFC」アンバサダーである冨永愛やゆりやんレトリィバァ、kemio、テリー伊藤もモデルとして登場した。

全会場のショーを取材して感じたのは、誰のためのショーなのかが分かりづらかったこと。東京国際フォーラム以外の各会場には、ランウエイ脇にシート約60席を設け、主にイベント関係者やファッション業界関係者が並んだ。あえて一般観覧エリアからショーを眺めてみたが、後方だとスマホを掲げた観覧者の腕しかほとんど見えず、場所によっては目の前にモデルが一瞬現れるだけ。ショーの素晴らしさと、プロたちの仕事を体感するには難しい状況だった。それでも、特に丸の内と銀座は有名人見たさに足を止める通行人は多く、丸の内のショーには約200人が集まり、銀座はそれ以上の観覧者で騒然。ショーの最中は、BGMと交通整理のスタッフによる怒号が入り乱れた。

「TFC」の街中ランウエイショー企画は、ファッションショーに普段なじみがない人たちに、その臨場感や憧れを届ける目的があったはずである。であれば、BtoBのファッション・ウイークのようにショーを批評するイベントでないのだから、フロントローを一般客にも開放したり、ランウエイを広くして誰でも見やすくしたりする選択肢もあったかもしれない。関係者も「多様性を意識しすぎたせいか、参加ブランドのクリエイティビティーが薄まってしまい、ファッションが好きな層には物足りなく、興味が低い層には何を伝えたいのか分からないショーだった」と反省した。

“誰でも参加できる”のに
客足少なく寂しい展示会場

しかし最大の課題は、ショーに限らず、イベントの事前告知が浸透していなかったことだろう。3~5日の3連休中の街中は人通りが多かったため、ショー会場こそにぎわったものの、ほかのコンテンツの客入りにはムラがあった。3エリアで開催していたトークショーは、参加者200人の満員御礼の時間帯もあれば、関係者を含めて30人程度の回もあった。積極的に更新していた「TFC」公式インスタグラムのフォロワー数は、初日の丸の内のショー終了時は450で、最終日の東京国際フォーラムのショー終了時は980。ショーを生中継したインスタライブの視聴者数は30~140で、規模に対して事前告知が効果的だったとは言い難い。プロモーションの方法が多角化する中で、駅貼広告や重厚なモニュメントの設置、街頭でフライヤーを配布する人員の配置が正しかったのかは疑問が残る。

告知不足は、各展示会場に顕著に現れていた。銀座の時事通信ホールで開いてた合同展示会に3日14時30分ごろに訪れると、来場者は10人もおらず、参加ブランドは「銀座の中心地から少し離れているからか、人が来ない」と苦笑いしていた。また同展は“さまざまなファッションブランドとつながる展示&商談会”として、80近いブランドの参加を「TFC」公式サイトやSNSでアナウンスしていた。しかしふたを開けてみると、そのほとんどが東京都とJFWO主催のアワードを受賞したブランドのルック1体を展示するのみ。実際に商談を行っているのは15ブランドに満たないという状況だった。世界を舞台に活躍するブランドのコレクションがずらりと並ぶ貴重な展示だっただけに、正確な情報を的確に届けてほしかった。

多すぎたコンテンツ
連動性欠くスケジュール

集客に苦戦したのは、多すぎたコンテンツも原因の一つだろう。各エリアにイベントが隙間なく点在しており、参加したいトークショーが別会場で連続する場合は、物理的に見られないというスケジュールだった。街中でショーを見て、施設でのトークショーに参加し、展示や即売会を見る、という連動性がなく、知名度や影響力のある人物や団体に集客を頼らざるを得ないように見えた。

イベントの回遊性の低さは、物理的な問題に加え、広すぎたジャンルも一因である。京橋の東京スクエアガーデンで3~5日に開いた日本の伝統とファッションの展示や、東京丸の内「キッテ」で4~6日に開催した日本カルチャー×ファッションのポップアップストア、ウィズ原宿で3~6日に行ったファッション×現代アートの展示などは、それぞれ見応えがあった。しかし、ファッションというあいまいなカテゴリーの中で内容に一貫性はなく、来場を想定しているであろうターゲットもバラバラな印象で、連動性はほとんどなかった。関係者も「次回に向けてもっと精査が必要」と語っていた通り、音楽フェスのように想定来場者の趣味趣向を考慮したスケジュール組みは、来年予定しているという第2回に向けての重要課題だろう。

そして、会期は本当に4日間必要だったのだろうか。最終日の6日は平日の月曜日で、クロージングイベントとして開催した東京国際フォーラムでのショーと展示は、大方の予想通り集客に苦戦していた。そして、国立代々木競技場第二体育館でこの日のみ開催した“都民参加型フリマ”も、場内は閑散としていた。19時の終了を待たずに撤収準備を始める出展者もおり、インフルエンサー複数人を起用したPR効果も十分ではなかった。加えて3、4日に東京ミッドタウン日比谷で実施したウィメンズアウターの即売会もしかり、プラスチックのハンガーにセール品をかけて“とりあえず叩き売り”的な売り場の雰囲気を、少ない情報をキャッチしてわざわざ会場を訪れた来場者は喜ぶのか、再考してほしい。

巨額予算を投じた価値
成功するために何が必要か

巨額を投じたファッションの一大イベントの初陣は、課題が山積する結果だった。現状ではファッション産業の活性化はおろか、参加企業やブランドのメリットを探すのも難しく、このままでは有力ブランドや著名人を巻き込むハードルはさらに上がってしまうだろう。情報筋によると、東京都と繊維ファッション産学協議会が主催する、日本ブランドのパリ・ファッション・ウイーク参加をサポートするためのファッションコンペ「ファッション プライズ オブ トウキョウ(FASHION PRIZE OF TOKYO)」は、年間で約2500万円を支援しているという。「TFC」が、4日間でその支援額をはるかに上回る6億円を使うという責任は大きい。

しかし、日本にファッションを文化として成熟させ、産業を盛り上げていくために「TFC」を機能させる方法は必ずある。そのために過多なコンテンツをそぎ落とし、東京のファッション・ウイークとの連携を深めながら、小売店も巻き込んだエンドユーザーへの企画が必要だ。まずは内容云々よりも、ファッション業界人でさえ開催していたことを知らない人が多い現実を受け止めなければならない。

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