
今回の「DXアワード」では、①サステナビリティ&ESG ②幸福度/CX ③既存の技術アップデート/イノベーション ④産業全体のグッドウィルの後押し/バリューチェーン―という4つの指針を掲げた。ファッション&ビューティ産業の健全かつ持続可能な成長のためには、この4つが重要だと確信している。新しいテクノロジーやサービス、テック企業の存在が、新しいファッション&ビューティ産業の未来の姿を描き出すと信じている。(この記事は「WWDJAPAN」2023年11月20日号からの抜粋です)
サプライチェーンの効率化が
産業全体の健全な成長を後押し
ファッション産業は素材調達・生産から製品化、販売までのプロセスが長く、かつウィメンズ・メンズ、子どもといったカテゴリーが多い。さらに多種多様な製品があり、しかもシーズンやトレンドで激しく売れ筋が変わる。そのため商品企画や開発の管理が長年の課題だった。そこで重視されるようになったのが、それらを一元的に管理できるPLM(=Product Lifecycle Management、製品のライフサイクル管理)のサービスだ。SaaS型のサービスで複数の部署、あるいは地域にまたがって製品開発をフォローできるこのサービスは、この数年で世界中のファッション、スポーツ・アウトドア、消費財の分野に猛烈な勢いで広がっている。
この分野の2強が、フランス発のレクトラ(LECTRA)と米国発のセントリックソフトウエア(CENTRIC SOFTWARE)だ。セントリックはすでにアパレルやスポーツ・アウトドア、小売り分野で1万2500以上のブランドが採用しており、世界的にはPLMの導入がスタンダードになっていることを示している。
PLMが急速に広がる背景には、煩雑な商品開発のプロセスをスマートかつ合理的に再編し、データドリブンな商品開発につながること。また、ムリ・ムダを省き、かつ温室効果ガスの排出量も計算できるなど、製品開発のプラットフォームとしての完成度が高く、ニーズに合わせたアップデートも早い。セントリックソフトウエアのウェブサイトを見れば、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」や「デシグアル(DESIGUAL)」といった高級ブランドから低価格ブランドまで、さらには「アシックス(ASICS)」「ニーマン・マーカス(NEIMAN MARCUS)」などのスポーツブランドや有力なリテーラー、日用品大手まで、ありとあらゆる企業のロゴが掲出され、世界規模でかなり普及していることがわかるはずだ。むしろPLMを導入していない有力企業を探す方が難しいかもしれない。
ファッションとビューティ産業の多種多様なアイテムは非効率的なプロセスや、大量生産・大量廃棄など、産業の健全な発展を妨げてきた。PLMの注目すべき点は、製品開発を軸に長いサプライチェーンの効率化によって、産業全体の効率化を推し進められること。ムリ・ムダを省き、さらにデジタルの力を生かしてこれまで可視化の難しかった温室効果ガス排出の計算など、ファッション・ビューティ産業の抱える問題の解決に寄与することが期待されている。
イノベーション賞を受賞したレクトラはPLMに加え、その前後の企画や販売という工程に新しいサービスを加えているほか、2022年12月にはブロックチェーンで製品のトレーサビリティーを可能にするテキスタイルジェネシスを買収。ウィングをさらに広げていることが、評価につながった。
日本ではPLMの普及はまだこれからだが、大手企業だけでなく、小規模であっても機動力の高いスタートアップ企業も導入を始めている。日本のファッション&ビューティ産業全体の競争力を高めるという面からも、日本でも一気に普及が加速する可能性は高そうだ。
注目の企業
社名
セントリックソフトウエア
サービス
Centric PLM
本社は米国カリフォルニア州。アパレル、スポーツ・アウトドア、小売り業向けのPLM(製品ライフサイクル管理)ソフトウエアのトップとして、1万2500以上のブランドが採用。商品企画・開発から物流、品質管理、販売までの商品開発のライフサイクルを一元管理。温室効果ガス排出量の計算も