森ビルは20日、大型複合施設「麻布台ヒルズ」(港区)を24日の開業に先駆けて関係者に公開した。約8.1ヘクタールの広大な敷地に、オフィス、商業施設、住宅、文化施設、教育、医療などの都市機能が入り、開発規模は2003年開業の六本木ヒルズ(約11.6ヘクタール)に匹敵する。商業施設は高級店を充実させており、「エルメス」「ディオール」をはじめとしたラグジュアリーブランドや有力セレクトショップが入る。
商業施設は来年春の全面開業時には、店舗面積2万3000平方メートルに約150店舗が営業することになる。
24日時点で開業するのは、高さ日本一となる森JPタワーの足元の商業ゾーン「タワープラザ」(1万1500平方メートル、59店舗)など。ラグジュアリーブランドや高級レストランは新たに開通した桜麻通り沿いの商業ゾーン「ガーデンプラザ」(80店舗)に集積されるが、こちらは来年2月以降に順次開業する。
高価格帯の商品を手厚く
タワープラザにはファッション関連では「ユナイテッドアローズ ウィメンズストア」(ユナイテッドアローズ)、「キャバン」(トゥモローランド)、「メゾン エ ヴォヤージュ」(同)、「ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ」(アクセ)、「ジェンテ ディ マーレ」(豊田貿易)、「ザ・ストア バイシー」(アバハウス)、「セオリー」(ファースリテイリング)、「デンハム」(デンハムジャパン)、「ルルレモン」(ルルレモンアスレティカJP)、「ザ・コンランショップ東京」(コンランショップ・ジャパン)などが入る。
テナント各社が麻布台ヒルズに期待するのは、足元の肥沃な港区マーケットである。各種の調査によると、港区住民の平均所得は東京23区平均の2倍、全国平均の3倍の1200万円以上。上位の富裕層はさらに多くの金融資産を保有しており、近年の株高でいっそう裕福になった。港区は人口26万人にすぎないが、消費マーケットとして見た場合、飛び抜けて肥沃なのだ。実際、銀座や新宿の百貨店や高級ブランド店でも港区の顧客が多い。同じ森ビルが運営し、今年20周年を迎えた六本木ヒルズも港区の近隣住民がラグジュアリーブランドやセレクトショップを買い支え、22年度に過去最高売上高を達成した。
セレクトショップ「ル グランド クローゼット ドゥ パリゴ」を出店したアクセの高垣孝久社長は「港区には購買力があり、目利きのお客さまが多い。そのニーズに応えるために新業態での出店を決めた」と話す。「メゾン エ ヴォヤージュ」「キャバン」の2店舗を出したトゥモローランドの中塚達徳・店舗開発部長は「当社の都内の既存店にも港区にお住まいの上顧客が多い。そのお客さまの近くに拠点を設けるのが悲願だった」と説明する。TSIの婦人服「ルフィル」は麻布台ヒルズの店舗専用にカシミヤコート(20万円〜)のコレクションを企画した。
いずれの店舗も都内の既存店に比べて、高価格帯の商品を手厚くそろえ、高い客単価を見込む。新宿や渋谷などターミナルの商業施設のように、圧倒的なトラフィック(通行量)による集客力ではなく、来店客は少なくても上顧客との関係性を深めていく考えだ。麻布台ヒルズ内のレジデンスの住民やオフィスで働く人、近隣の港区の住民など、足元商圏の購買力への期待は高い。
六本木ヒルズと相乗効果を作れるか
来年2月以降に順次開業するガーデンプラザのラグジュアリーブランドも近隣住民に照準を合わせての出店だ。「エルメス」「ディオール「セリーヌ」「ブルガリ」「ボッテガ・ヴェネタ」といった顔ぶれがそろう。これらは桜麻通りに路面店として集まっているが、「エルメス」は芝生が広がる中央広場に独立した店舗として立地する。
麻布台ヒルズは、同じ森ビルが運営する六本木ヒルズとも近いため、カニバリゼーション(食い合い)を危惧する声もあるが、森ビルで商業リーシングを担当した栗原弘一・常務執行役員はその心配はないという。「むしろ相乗効果が出る。虎ノ門から六本木にかけては一つのマーケットであり、新しい国際ゾーンになる。東京ミッドタウン(運営・三井不動産)も含めたグレーター六本木・広域六本木が、ラグジュアリーのリテールゾーンとして、将来的には銀座という最強エリアに続く存在になっていきたいし、新しいお客さまを他のエリアからも集めて、新しい強いマーケットを作っていきたい」と話す。