2024年春夏パリ・ファッション・ウイークの期間中にショーを開催した100以上のブランドから、現地取材チームが深掘りしたいコレクションを取り上げる。今回は、シルエットに焦点を当て、違和感のある捻りで見慣れたアイテムを刷新した「ロエベ(LOEWE)」を徹底リポート!
アーティストの作品を飾ったミニマルな空間
今回のロケーションは、先シーズンに続き、パリ郊外にあるヴァンセンヌ城。中世の雰囲気漂う建築に囲まれた敷地とのコントラストが際立つ、真っ白な箱のような会場を設けた。中も空間自体は極めてミニマル。そこにジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)=クリエイティブ・ディレクターが選んだアーティストの作品を飾るというのが最近の定番になっている。今回飾られたのは、リンダ・ベングリス(Lynda Benglis)が手掛けた6点の大きなブロンズ彫刻。「象のネックレス(Elepahant Necklace)」と題された粘土作品のシリーズを巨大化し鋳造したもので、ダイナミックにうねった形状が特徴だ。6月の24年春夏メンズショーの会場にもベングリスによる別の作品が飾られたが、今回は共同開発によるジュエリーも発表するなどコレクション自体ともリンクしている。
メンズに通じる極端な縦長シルエット
アンダーソンは10年前にインタビューした際、すでに「シェアド・ワードローブ(Shared Wardrobe)」という言葉を使って男女が自由に服を共有するという考えを語っていたが、今季は特に先のメンズ・コレクションに通じるアイデアが目を引いた。上の写真のように実際に並べて見ると、共通点が分かりやすいだろう。
「今は特にデイウエアが好きで、いかに見慣れたものに違和感のある捻りを加えられるかに興味がある」とアンダーソンが明かすように、コレクションの中心となったのはメンズワードローブにあるような普遍的なアイテムの再解釈。要素を削ぎ落としてシルエットを強調することに焦点を当て、メンズでも多用した股上を引き伸ばしたような超ハイウエストパンツをキーアイテムに据えた。そこに合わせるのは、タックインするコンパクトなシャツやクロップド丈のチャンキーセーター。その組み合わせによって、下から見上げたかのように極端に上半身が短く下半身が長い、新たなプロポーションバランスを提案する。
また、クラシックなチェック地や滑らかなレザーで仕立てたメンズライクなテーラードジャケットも、胸のすぐ下にピーコートなどに見られるようなハンドウォーマー・ポケット(本来は手を暖めるために付けられた縦型のポケット)をプラス。腕を曲げて両手をポケットに突っ込む所作によって、斬新なバランス感を際立たせているのが印象的だ。そんなシルエットを何度も繰り返し見せることで、最初に感じた違和感は次第にクセになってくる。
さらに、メンズではトップスに見られた巨大なピン針を生地に通すデザインはドレープを寄せたショートパンツに取り入れ、前のボタンを留めてセーターのように着たカーディガンやタイトなポロシャツとスタイリング。アイテムの裾を同素材のバッグに差し込むアイデアは、スエードやスムースレザーのコートに用いた。
コレクションに奥行きをもたらす
多彩なアイデアとクラフツマンシップ
そして、メンズライクなウエアとのコントラストを描くフェミニンなデザインやウィットを感じるアプローチ、そして卓越した職人技が、コレクションに奥行きをもたらす。チェックシャツのパーツを中に合わせたフェイクレイヤードのVネックセーターには、片側に流れ落ちるラッフルが特徴の柔らかなミニスカートをコーディネート。ハイウエストのジーンズにはランジェリーのようなコルセットが内蔵されている。一方、ドレスのドレープやニットケープの編み地、メタルボタンは大胆に拡大されていたり、ドレスのように着たロングカーディガンは実はトップスとミニスカートのセットアップだったり。捻りが効いている。
また、ドレスの軽やかなフリンジデザインは、糸状につないだオーストリッチの羽根や極小のビーズで表現。前者は600時間、後者は1000時間をかけて作られたもので、クラフツマンシップに支えられたクリエイションを象徴する。さらにレザーのシンプルなTシャツやショートパンツはニードルパンチで裾や袖口が噛みちぎられたようなデザインに仕上げ、ブローチの集合体のようなトップスは3Dプリンティングで作ったベースにラインストーンをびっしりとあしらった。メンズから継続するアイデアを生かしながらも、ウィメンズ独自の視点を加えて異なる印象のコレクションに仕上げているのはさすがだ。
好調のアクセサリーは今季も期待大
売り上げ好調のアクセサリーには、実用的なアイテムが充実している。バッグの中心となるのは、23-24年秋冬シーズンにデビューした“スクイーズ”や“パズルトート”。調節可能なチェーンストラップとナパレザーの柔らかなボディーが特徴の“スクイーズ”は、ストラップをロープに変えたラージサイズや、ビーズ刺しゅうでバッグ自体を果物のモチーフに仕上げた煌びやかでプレイフルなモデルも登場した。メンズショーで披露した、小石のような大きなメタルボタンがアクセントの“ペブル”バケットバッグもジェンダーレスに提案する。
シューズは、アンダーソン自身も愛用するブラッシュドスエードを用いたアイテムを拡充。スリッポンやローファー、グルカサンダルを打ち出す。またスムースレザーでも、メンズ由来のデザインをアレンジしたサンダルをラインアップ。今季のトレンドに浮上したバレエシューズはラインストーンを飾った華やかなデザインが目を引く。
ジュエリーは、前述のベングリスとの共同開発による“身に着けられる彫刻”のようなアイテムを提案。ダイナミックにうねる展示作品の形状をモチーフにしたバングルをはじめ、ラインストーンがきらめくイヤリングやリングなどをそろえる。
“アプローチとして求めていたのは、新鮮さ”
ショー終了後、毎シーズンのように彼の思考に興味津々のジャーナリストたちの囲み取材を応えたアンダーソンは、「メンズ・コレクションからの継続を出発点に、シルエットをタイトにして、このようなプロポーションを生み出した。そして、ところどころにハイパーフェミニンな要素を差し込んでいる。突き詰めると、アプローチとして求めていたのは、新鮮さ。メンズで新たなリズムを見つけられた気がしたんだ。それは、引き締めたシルエットを楽しむという感覚。私はシルエットを考えることから逃げがちなところがあるけれど、今回はシルエットをさらに探求することができたし、自分にとって新しいプロセスだった」とコメント。極端なハイウエストについては「メンズでは、一種の新たな提案として、どこで一線を越えられるかということを考えた。そしてウィメンズでは、どうすればこのプロポーションをうまく生かすことができるかに向き合った。つまり、それは“シェアド・ワードローブ”というアイデアで、いかに男女共にふさわしいものにできるかということだった」と説明した。
また、協業したベングリスについては「“悪趣味”で遊んでいるところが好き」とし、「Smile」というキワどい彫刻をはじめ、グリッター素材やワックスを使ったオブジェなど、1970年代に彼女が制作した当時の常識を打ち破るような作品を例に挙げた。「リンダは反骨的なフェーズから知的なフェーズを経ていて、それを楽しんでいる。彼女は言葉を使う必要がなく、表現に用いるのはもっとフィジカル(物理的)なもの。そこに、とてもインスパイアされた」という。
2013年9月の就任から10年、アンダーソンは時間をかけて「ロエベ」の新たなアティチュードを確立してきた。「ブランドのアティチュードとはどんなものか?」と尋ねられた彼は、「オーセンティシティー(信頼性や確実性、信ぴょう性の意)」という表現を使い、「ブランドが創業した時から私が就任した時、そして今まで一夜にしては終わらない旅を続けてきた。私は10年間をかけて歩んできたような気持ちで、そこにはオーセンティシティーがあると思う。『クラフトプライズ』をはじめ、クラフトにまつわる全てのプロジェクトは私の個人的な強い関心から生まれたものであり、オーセンティックだ」と答えた。