U30の若者たちにフォーカスした連載「ユース イン フォーカス(Youth in focus)」10回目は、ロサンゼルス発のストリートウエアブランド「マッドハッピー(MADHAPPY)」にフォーカスする。
同ブランドは、ノア・ラフ(Noah Raf)とペイマン(Peiman Raf)兄弟、友人のメイソン・スペクター(Maison Spector)が2017年にスタートした。日本にはドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA)で10月に開いたポップアップストアをきっかけに初上陸。優しい色使いのスエットやフーディー、メッセージTシャツを核に、ファッションを通じてメンタルヘルスの大切さを伝えようとするパワフルなパーパスが、若者からの共感を集めている。価格帯はフーディー(2万9700円)、Tシャツ(1万2100円)、キャップ(7700円)など。19年にはLVMHモエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON)の投資ファンドであるLVMHラグジュアリー・ベンチャーズ(LVMH LUXURY VENTURES)が出資して話題になった。
来日した共同創業者の1人ノア・ラフに、ブランド立ち上げの背景やグローバルに広がるブランドのコミュニティーの作り方などを聞いた。
「人生は超楽しいときもあれば、最悪に辛いときもある」
PROFILE:ノア・ラフ/「マッドハッピー」共同創業者
イタリア・フィレンツェ生まれ。幼少期にアメリカに移住し、ロサンゼルスで育つ。高校卒業後の2017年に弟のペイマンと、友人のメイソン・スペクターの3人で「マッドハッピー」をスタートした PHOTO:YUTA KATO
WWD:「マッドハッピー」が始まった背景は?
ノア・ラフ(以下、ラフ):最初は弟のペイマンと、学生時代から仲のいいメイソンを含めた3人で、Tシャツにポジティブなメッセージをプリントして仲間内で楽しもうという、すごく緩いプロジェクトとしてスタートしたんだ。高校を卒業したばかりで、ビジネスの知識はなかったけど、僕たちの住むLAのダウンタウンは近所に工場がたくさんある環境がラッキーだったね。最初はオンラインでボディーを買って、近くの工場に「ねぇ、Tシャツの作り方教えてよ」って持ち込んだ。そこから、いろんなことを教えてもらいながら形になっていったんだ。「マッドハッピー」というブランド名は、メイソンが「マッド(=狂ったの意)」と「ハッピー」という相反する言葉を並べたら面白いんじゃないかと命名したんだよ。
WWD:メンタルヘルスに興味を持ったきっかけは?
ラフ:メイソンはうつ病を経験していて、僕たちにメンタルヘルスの大切さを教えてくれた最初の人物だ。人生は超楽しいときもあれば、最悪に辛いときもある。誰だってそういうアップダウンを経験したことがあるはずだよね。でもSNSではみんな、「最高の夏休み!」とか人生の一番いい面を見せるでしょ。それってリアルじゃない。僕たちは人生の面倒な部分も、複雑な生き物であることも受け入れて感謝したい。だから、メンタルヘルスに関する話をもっと気軽にできるコミュニティーを作りたくてTシャツを販売し始めたんだ。スタートしてみると、僕たちのコミュニティーに入りたいという若い人たちは想像以上に多くて、ブランドがここまで成長できたんだと思う。
WWD:ストリートウエアとメンタルヘルスという掛け合わせも意外性があって面白い。
ラフ:僕個人は最初からこのトピックには、オープンだった。元々好奇心旺盛な性格だからかもしれないけど、世界的に見ればまだタブー視されている部分はあるかもしれないね。でも僕たちがやりたいことは、真面目なカウンセリングやセラピーじゃない。もっとカジュアルにポジティブなムードを広げたいだけだ。何か驚くべきコンセプトを立ち上げたつもりもなくて、生きていれば普通に経験することにフォーカスを当てただけだよ。でも19年にLVMHが出資してくれたときには、すごく自信がついた。
広がる“ローカル・オプティミスト”の輪
WWD:具体的にどのようにコミュニティーを形成している?
ラフ:まず「マッドハッピー」の商品を着ること自体が、同じ価値観を持つ人同士とつながるきっかけになっている。それから年に2回「ローカル・オプティミスティック・マガジン(LOCAL OPTIMISTIC MEANING)」という雑誌を発行して、アートやデザイン、カルチャーを軸にしながらメンタルヘルスにまつわるトピックを発信している。僕たちはポップアップストアでの販売がメインだから、店がオープンするたびにイベントを毎回開催し、「ローカル・オプティミスティック・マガジン」に登場した人をゲストに招いてトークしてもらう。トピックはさまざまだけど、人生の生きづらさをオープンに語ってもらうという点は共通しているんだ。僕たちは、ブランドファンのことを“ローカル・オプティミスト”と呼んでいて、この前LAのストアでイベントを開催したときは20〜30代の“ローカル・オプティミスト”が60人ほど集まった。
WWD:「マッドハッピー」のポッドキャスト番組でも、さまざまなゲストが人生のアップダウンについて語っていて面白い。
ラフ:ありがとう。ポッドキャストも僕たちのメッセージを発信する手段の一つ。普段からポッドキャストが大好きだったペイマンのアイデアなんだ。あとは、非営利団体の「マッドハッピー基金」を設立して、ブランドの売上高の1%を基金に寄付している。この基金で集めた資金はメンタルヘルスにまつわる研究や、この分野で活動する団体に提供しているんだ。
WWD:実際に顧客からはどんな反応が?
ラフ:「こういう話を安心してできる場所がほしかった」とか「信頼できる場所ができた」といった声をもらえて、ブランドのコンセプトがすごく受け入れられている実感があるよ。ストリートウエアブランドだけど、女性の顧客比率が高いのも特徴だと思う。
WWD:今後のビジョンについて教えてほしい。
ラフ:11月に LAに初の旗艦店をオープンして、ほかにも店舗オープンの話はいくつか進めている。日本でもチャレンジしたいね。日本の若者たちにも好奇心とオープンマインドを貫く大切さを伝えていきたいし、 “ローカル・オプティミスト”の輪をどんどん広げたい。