ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

レジよ、さらば 広がる「フリクションレスストア」【鈴木敏仁USリポート】

アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。商品を選んで、レジで精算する。店舗でのそんな光景が過去のものになるかもしれない。アメリカでは事前にスマートフォンにアプリを入れれば、店内で決済をする必要がない店舗が増えている。

カメラやセンサーといったセンシングデバイスを駆使して、店内のお客と商品の動きを正確にモニターし、商品を持ったお客が店を出ると自動で決済する。こういったレジを不要とする技術を実装した店舗に対して、アメリカでは「フリクションレスストア」という名称を使う業界人が増えている。

フリクション(friction)とは摩擦や軋轢(あつれき)を意味する。レジを軋轢と捉えている点が本質を突いており、私はこの表現が気に入っている。

買い物は、実際に商品をあれこれ探して歩く段階と、それが終わって精算する段階の2つに分けることができる。お客にとって後者は面倒な存在だ。なければないにこしたことはない。できる限り早く終わらせたいから、空いているレジを探して歩き回る経験は誰しも持っているだろう。

レジをいかにスピードアップするかは終わることなき取り組み課題なのだ。そして究極はゼロとするという方向へと進化していくことは自明の理なのである。

スタジアムやテーマパークからレジが消えた

このフリクションレスストアで先駆けたのがご存知、アマゾンである。18年に小さな都市型コンビニエンストアからスタートし、これを進化させてすでに通常のスーパーマーケットサイズへと拡大している。前者は「アマゾン・ゴー」、後者は「アマゾン・フレッシュストア」だ。

この技術にジャスト・ウォークアウト(JWO)テクノロジーという名称を付けて他企業へのライセンス販売を開始し、最初に契約したのが空港内でコンビニや書店などを展開しているハドソングループである。

これを契機として複数の企業がアマゾンと契約してし始めた。最も目立つのが野球やバスケットボールといったスポーツ競技場内や大学キャンパス内のコンビニによる導入だ。私の知る限りスポーツ競技場は4カ所、大学は決済プロバイダーと契約して複数カ所オープンすると発表されている。

スポーツ競技場や大学内コンビニはアマゾンだけではなく、テック系スタートアップ企業のアイファイ(AiFi)やグラバンゴー(Graban Go)といったアマゾン以外の開発企業と組む企業が増えており、すでにアマゾンの独壇場ではなくなっている。つい最近はボンティエ コーポレーション(VONTIER CORPORATION)という企業がコンビニ企業と組んで「JUXTA」という名称で店舗をオープンしている。

またテーマパーク内での実験も始まっている。コカコーラがアマゾンと提携し、遊園地のシックスフラッグス内にJWO小型店舗をオープンした。売上高が目標数値を超えたら水平展開するとしている。ゆくゆくは園内の自動販売機をすべてJWO店舗へと切り替えることも視野に入れるという。

空港、スポーツ競技場、大学キャンパス、テーマパークに共通しているのは予測不能な混雑である。また行列の解消による売り上げ増と、万引き抑止の2つの効果を最も見込める場所である。フリクションレス技術の導入にはまだ多額の投資を要するが、現時点でもっともリターンが見込める立地条件を持つ店舗から実験が進み始めている。

このようにアメリカではフリクションレスストアはどんどん増えており、動きの少ない日本と比べるとかなり先んじている。

アメリカンイーグルの取り組み

商品の動きをセンシングデバイスで管理する技術はJWO型テクノロジーだけではない。ご存知のRFID(無線電子タグ)である。JWO型と同様に決済にも応用できるが人の動きはモニターできない。レジなどでワンクッションおいてお客に精算してもらう必要があるが、店員の作業負担の軽減効果が非常に大きいこともあり今後の普及は確実である。

アメリカではウォルマートやターゲットがすでに衣料PB全商品にタグを付けているが、NB(ナショナルブランド)メーカーも続々と対応し始めており、両社の店員は専用端末を商品上でなぞるように動かすだけで在庫確認ができるようになっている。

アマゾンはすでにこのRFID技術をJWOに取り込んでいる。NFLのシアトル・シーホークスの本拠地ルーメンフィールド内のスポーツアパレル店舗で導入された。お客が出口の改札でクレジットカードを差し込むと、手に持っている商品のRFIDタグをリーダーが読み取り、精算が終了して改札が開く手順である。レジのワンクッションを改札に置き換えていることになる。

ルーメンフィールドはアパレル以外の売店には既述のカメラやセンサーを使うJWOを導入しており、いわばアマゾンによるショールームの様相を呈している。

在庫管理目的で双方をミックスさせたのがアメリカンイーグル アウトフィッターズ(AEO)だ。カメラで商品の位置を把握し、RFIDで在庫数を把握する。例えば店頭にある最後のアイテムをお客が試着室に持っていったときに、欠品なのか、または1つ残っているのかを正確に認識できるので、その商品を求めているお客への売り逃しを防ぐことができる。

また、このお客をネット通販による注文を店頭でピックアップするパーソナルショッパーに置き換えれば、ネット通販の欠品も減らすことができることが分かるだろう。顧客サービスとECピックアップ効率の双方の向上が期待できるのである。

今のところレジレスには踏み込んでいないのだが、将来的には十分に可能性はあるだろう。

私の知る限り、JWO型とRFIDの双方を融合させる技術を導入するのはAEOがおそらく初めてである。

このようにセンシング技術を用いた決済や在庫管理技術は急速に進化していて、変化のスピードは非常に速い。5年後や10年後にはどうなっているのかを予測しながら投資していくことが求められて容易ではない。しかし放置すると追いつけなくなるので、小売企業にとっては慎重かつ大胆に取り組まなければならない分野と言えるだろう。

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