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連載 中国電脳コマース最新情報 第14回

「シン・買い物天国」海南島が迷走!? ポストコロナの「免税ビジネスの現在地」

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中国・海南島が新たな「買い物天国」として急浮上している……2021年ごろに大きな話題となったトピックだ。その後、中国では新型コロナウイルスの感染が拡大し中国国内旅行が落ち込んだため話題に上がることは少なくなったが、コロナ後の「新たな買い物天国」の現状をリポートする。

約29万㎡クラスの超ド級の世界最大「免税モール」も 海南島が「免税天国」になったワケ

中国最南部の省、海南省。その大部分を占める海南島はトンキン湾越しにベトナムと向かい合う位置にある。面積は3万3000平方kmほど。九州を一回り小ぶりにしたぐらいの大きさだ。かなりでかい。

中国政府は2010年、「海南島国際観光島」計画を打ち出し、一部の国・地域を対象としたビザの免除や免税政策を導入してきた。ちなみに日本・沖縄、韓国・済州島、台湾・澎湖諸島に続く世界で4番目に成立した離島免税制度だという。

とはいえ、当初は免税対象となる品目や限度額が厳しく制限されたため、たいした注目は集めなかった。「買い物天国」としての期待が一気に高まったのが2020年のこと。中国政府が発表した「海南自由貿易港建設プラン」によって、免税限度額が従来の一人当たり年3万元(約60万円)から10万元(約200万円)へと一気に拡大されたほか、携帯電話などの電子機器など免税対象商品のジャンルも拡大した。ユニークなのが免税EC(電子商取引)だ。海南島を訪問すると、その後180日以内は免税ネットショップが活用できる。旅行時に購入しなくとも、後から免税ショッピングも楽しめるようになるというわけだ。

新政策が適用されたのは下半期からだったが、2020年の免税販売額は前年からほぼ倍増の274億8000万元(約550億円)を記録した。2021年にはさらに80%増の494億7000万元(約9890億円)と高成長が続いた。

コロナ禍にもかかわらず、巨大な免税モールが次々とオープンし、新規建設計画の発表も続く。現在オープンしているのは11モールで、海口市に5モール、三亜市に4モール、万寧市と琼海市に1モールずつである。昨年12月にオープンしたばかりのモール「CDF海口国際免税城」は総面積28万9000㎡で、世界最大の免税店だという。

景気のいい話が続くが、「買い物天国」にはまだ先がある。実は2025年末までに「全島封関」が予定されている。これは海南島全体が免税区域となることを意味する。免税モールに限らず、島内のどこでも関税がかかっていない外国商品を購入できるようになる。今年10月には「ルイ・ヴィトン」が旗艦店をオープンしたが、現在は免税対象ではない。「全島封関」後をにらんでの布陣だと考えられている。つまり海南島は、ビザ免除の対象国拡大とあわせて、第二の香港を目指しているのだ。

海南島を襲う「3つの問題」

海南島免税は2023年、どのような状況にあるのか。前述の図1を見ると、今年1~10月の免税売上だけで昨年を上回っている。このまま推移すれば2021年に近い数字を残しそうな勢いに見える。しかし、海南島免税店への出店サポートなどを手がける、エーランドの山本挙代表によると、諸手をあげて喜べる状況ではないという。

第一に中国全体の景気悪化だ。免税売上は通年では大きく伸びているものの、今年6月、7月は前年同月比で20~30%減と大きく沈んだ。中国経済の動揺は海南島免税にも直結している。

「10月27日に『ルイ・ヴィトン』の旗艦店が三亜市にオープンしましたが、本来は国慶節前(9月29日〜10月6日)のオープンと言われていました。遅らせたのは景気をにらんでの判断だったのではないでしょうか。実際、開業当日の行列もさほどではなかったと聞いています。『ディオール』も旗艦店のオープンを遅らせているようです」(山本代表)という。

続いて、海南島免税が一部事業者の天下になっているという問題だ。「中国には認可を受けた免税事業者が5社ありますが、トップの中免集団が免税売上の80%を掌握するという独走状態です。海南島にある、11の免税モールのうち6カ所を中免集団が運営しています。せっかく海南島免税に出店しても、2位以下の事業者のモールではさっぱり売れないというのはよくある話。では中免集団に扱ってもらおうとしても、そのハードルはきわめて高く、また出店条件もかなり厳しい。どちらにせよ、悩ましい状況に置かれます」(山本代表)。

そして第三に、購入1回当たりの購買額が低下している点だ。「景気低迷で高額商品の売れ筋が鈍っていることもありますが、代理購入規制の影響が大きいとみています」(山本代表)。中国人旅行客がすさまじい量を購入するのは、なにも自分で使うためではない。親戚友人に頼まれての購入、さらには友人の友人、はたまた友人の友人の友人に頼まれて……と代理購入の範囲はとてつもなく拡大していき、気がつけばコンテナで荷物を送るようになり、立派な貿易商になっていましたというパターンすらあるらしい。企業として取引しているケースもあれば、旅行客が持ち帰った品を買い上げる業者もいる。インバウンド売上、免税売上は最終消費ではなく、中間流通にすらなっているわけだ。

「海南島」は代理購入制限が直撃し、激減の「韓国免税」の二の舞になるのか

代理購入業者をなぜ規制しなければいけないのか。業者との関係が深い韓国免税を見ると、その理由はよくわかる。「代理購入業者にとって大口の仕入れ先は韓国でした。韓国免税売上の9割近くが中国人によって占められていたとも言われています。コロナ禍においても韓国から中国に免税品が流れる傾向は変わりませんでした。2021年、2022年の免税販売では平均客単価が約3万ドル(約450万円)と、コロナ前の数十倍に跳ね上がっています。韓国の免税在庫が代理購入業者を通じて大量に中国に流れ込んでいたことを示しています」(山本代表)。

コロナ禍で往来が途絶えていたはずなのに、なぜこれほどまでに免税販売が増加したのか。そこに一種の裏技が使われていたと山本代表は指摘する。「韓国行きの航空便、船舶を予約した代理購入業者に対し、韓国免税事業者は郵送形式で免税商品を販売。商品到着後に業者はチケットをキャンセルし、韓国を訪問することなく免税品を入手、転売」というスキームだ。

大口の輸入代行業者は一回あたり数十万~数百万ドルを購入するお得意様だ。一般旅行客が消え、売上の大半を業者に頼るしかない韓国免税事業者は最大で50%もの値引きをしていたとみられる。値引き販売の横行がブランド価値を毀損しかねないと判断した「ルイ・ヴィトン」や「シャネル」など一部のハイブランドは2022年、韓国免税から撤退。韓国当局も規制に乗りだし、2022年後半から沈静化へと向かい、今年の韓国免税の不振につながっているという。

代理購入業者に売上を頼っている一方で、その存在がブランド価値の毀損や流通在庫の増加、国の立場からみれば税収の減少といった問題につながる。この点は中国も共通しており、海南島免税を発展させようとする一方で、いかに代理購入業者を規制するかが課題となる。中国公安部は今年7月、密輸犯罪に関する記者会見を開催したが、その際に「套購」について言及している。代理購入をルートとした、海南島から中国本土への密輸を意味している。直近2年で518件を摘発し、押収した物品の総額は20億元(約400億円)に達するという。

代理購入業者の取り締まりは困難だが、もし完全に排除ができたと仮定しよう。その場合も海南島には苦しい展開が予想される。

「旅行の一環として買い物を楽しむ。これを実現するには海南島のアクティビティはまだまだ貧弱です。日本、韓国、香港、シンガポールなど観光資源と買い物、双方の魅力を兼ね備えた国・地域と比べて、どのような優位を築けるのかは見えてきません」(山本代表)。中国人の巨大な免税需要。それをどう取り込むのかをめぐって韓国、香港をはじめとする世界の国と地域が争ってきたわけだが、海南島免税は送り出し国である中国自らがこの需要を奪いにきたという構図である。それは中国の利益、海南島の発展につながる一方で、代理購入といういびつな問題を抱え込むことにもつながる。2020年の海南自由貿易港建設プラン発表から3年が過ぎた今、改めてその難しさが浮き彫りになっている。

次の狙い目は「市中免税!?」、関係者が注目

景気低迷や代理購入など多くの問題を抱えていることは間違いないが、一方で中国人が巨大な消費需要を持っているという事実は変わらない。免税という切り口からこの需要をどう狙っていくのか、世界各国のブランド、中国の免税事業者にとって、そして中国人の消費力の国内還元を狙う中国政府にとっても重要なテーマであることに変わりはない。

「今、業界内でホットな話題となっているのが年内にも開始と噂されている市中免税の開放です。現在、一部で試験的に運用されていますが、過去180日以内に出国履歴がある中国人を対象に免税商品を販売できるという制度です。限度額は5000元(約10万円)までですが、腕時計や酒類などの特殊商品はこの限度額に含まれません。2024年は中国人の海外旅行が全面的に回復する年となるでしょう。中国全土に市中免税店を展開できれば、相当の規模のビジネスになる。私が接触した中国免税企業関係者は海南島免税以上に期待していました」(山本代表)

俗に中国スピードと言われるが、中国はともかくビジネスの展開が早い。なにかもてはやされたトピックがあっても、少し目を離していると状況は一転し、そして新たなトレンドが生まれている。巨大市場・中国に食い込むにはこのスピード感についていくしかないのだろう。

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