自分自身もそうですが、「あれ?コレって、何のためにやってるんだっけ?」と立ち止まるチャンスを生かすことができず、結局自分も他人も「?」な結果になったり、「私の思いが伝わらない……」と悲しい思いをしたりの機会は少なくありません。
私がそう感じるのは、秋に最初の、冬に次のピークが訪れる、学生によるクリエイションの審査会。最終審査には残ったけれど、残念ながら受賞を逃した学生から講評を求められるとき、「この作品で、何がしたかったんですか?」と聞くと大抵、出発点とゴールが大きく乖離していることに気づきます。先日とある学生は、漆黒のチュールをふんだんに使ったドレスを発表しました。チュールの一部は取り外しが可能で、取り去ると白い花が現れるという2ウエイドレスです。ただ残念ながら、着脱可能なチュールはごくごく一部。取り外しても、シルエットは大きく変わりません。比して現れる白い花はごくごく控えめで、チュールに負けています。結果2ウエイ感は表現しきれず、美しいドレスでしたが受賞を逃してしまいました。
デザイナーに話を聞くと、「当初はもっと、ドラマチックに変化する2ウエイを考えていた」といいます。けれど上質なチュールが手に入ったこと、上質で繊細だからこそどれだけ使っても思い通りのボリューム感にたどり着けず焦ったこと、そして、繊細だからこそ縫製も大変で一番努力したことなどが主たる要因となり、彼女は結局「チュールを使った、美しいドレス」づくりに目標を変えてしまった感があります。
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