サステナビリティ

使い捨て不織布製品を考える 「ヴェオセル™」が提唱する環境に配慮した製品選びとは

フェイスパックやウエットティシュ、生理用品やベビー用おしりふき、介護用品など、私たちが日常的に使用する使い捨ての不織布製品が何で作られているかを考えたことがあるだろうか。その多くはプラスチックである。こうしたプラスチック製品はその利便性から生活に深く浸透しているが、ごみの量は増えるし、廃棄方法によってはマイクロプラスチックとして海中を漂うこともある。そもそも現在の地球環境の状態を考えれば、使い捨て製品自体の使用量の削減が急務だが、衛生用品など必要不可欠な使い捨て製品もある。こうした状況を受け、法を整備する国も増えてきた。

規制が始まった欧州、
選択機会が増えた消費者

欧州連合(EU)は2019年、1回または短期間の利用後に廃棄されるプラスチックごみの総量を抑制するために、「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令(SUPD)」を制定し、21年7月から施行している。流通が禁止された製品は、皿、カトラリー(フォーク・ナイフ・スプーン・箸など)、ストロー、マドラー、コップ、風船用の棒、綿棒の軸、発泡ポリスチレン製の食料・飲料用容器、オキソ分解性プラスチック製の全製品。また、特定の使い捨てプラスチック製品(飲料カップ、生理用品、ウエットティシュ、フィルター付きたばこ製品など)に対するプラスチックの含有情報や正しい廃棄方法などに関するラベル表示を義務化した。また、製品メーカーには廃棄物の処理やクリーンアップ、消費者の環境意識向上に関するプロフラムを支援することが求められており、合成繊維を含まないセルロース由来の製品への置き換えを始めるメーカーも出てきている。

SUPDが施行され2年以上が経過した現在、どのような変化があるのか。レンチング(LENZING)のスティーブン・ツアイ(Steven Tsai)=アジア不織布担当・アジア地域シニアコマーシャルディレクターは「今まで不織布に使われている“隠れたプラスチック”が“見える化”され、消費者の購買行動に少なからず影響を及ぼしている。また、この規制により消費者自身が“好ましい選択”ができるようになったことは意味がある」と語る。他方“隠れたプラスチック”を使用していない製品も素材に関する情報を積極的に出してその存在感をアピールしているという。「例えば、原料が森林認証を取得した木質由来の繊維であることを示すPEFCやFSC、有害化学物質に関する分析をクリアした製品に与えられるエコテックス、生分解や堆肥化可能のことです 従って、生分解性や堆肥化可能を示すテュフやビーガンの認証ロゴを表示するようになった」と語る。

こうした状況で、環境配慮に取り組むブランドが採用するのがオーストリアの繊維大手レンチングの「ヴェオセル™(VEOCEL™ )」だ。2018年に誕生した新しいブランドだが、現在のパートナー企業は数十社以上。「用途はさまざまだが、共通点はそれぞれのパートナー企業が当社同様、環境問題に対して真摯に取り組んでいる点だ。『ヴェオセル™』のロゴを製品に付ける企業も増えてきた」とツアイディレクター。

「ヴェオセル™」が支持される理由についてツアイディレクターは「森林認証の取れた木材から作られたセルロース繊維で、クリーンで安全な方法で製造されている点、そして、使用された製品が生分解し、たい肥化可能である点が信頼の柱になっている」と分析する。加えて、「選ばれるためには環境メッセージだけでなく、繊維そのものが持つ優位性がなければならない」という。「例えば『ヴェオセル™ビスコース』繊維は、レーヨン繊維の持つ高い吸水性とソフトな風合いがあり、パーソナルケア製品に広く採用されている。『ヴェオセル™リヨセル』繊維は、なめらかな表面が特徴で肌にやさしく、直接肌に触れるビューティケア、ベビーケア製品の風合いを向上させる。こうしたメリットは、データによって裏付けされており、パートナー企業にも共有している」。データ取得のために世界有数の研究機関や大学と共同研究を進めているという。「例えば生分解性については、米サンディエゴにある世界最大規模にして最古の地球科学と海洋の研究組織であるスクリップス海洋研究所(Scripps Institution of Oceanography)と共同で『ヴェオセル™リヨセル』『ヴェオセル™ビスコース』、モダール、コットン、オーガニックコットン、ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリエステルなど複数の繊維の海洋環境下での生分解性を調査し、情報公開をしている。こうした活動も支持される理由だと考えている」。

しかし、木材由来のセルロース繊維製品はプラスチック製品に比べてプレミアムな素材とみなされ、爆発的な拡がりを期待するのは難しい。「不織布が使用されているコスメ用品や衛生用品は価格訴求型から、肌あたりの良さ、優れたふき取り性能、環境配慮型など多くの製品があり、私たちレンチングが全てを解決できるとは考えていない。けれど、あまたある素材から『ヴェオセル™』を選んでくれたパートナー企業と社会的責任のある製品を送り出し、サプライチェーンを含めて成長していることをうれしく思う」。

「ニュートロジーナ」や
「赤ちゃん本舗」が採用

「ヴェオセル™」を採用したブランドはどのようなストーリーで消費者に訴求しているのだろうか。消費財ブランド「ニュートロジーナ(NEUTROGENA)」は、アメリカ市場で「ヴェオセル™」繊維を使用したクレンジングシートを発売した。「使用後約35日で、家庭でのコンポスト化が可能であることをアピールしている。クレンジングシートはケアを手軽にできる製品だが、ごみとして廃棄されることから『環境に悪いのでは?』と疑問を持つ消費者も多いだろう。そのケア製品の行く先がごみ箱ではなく、生ごみ処理機・コンポストだとすれば、消費者の罪の意識が環境への貢献へと変わる。このようなクリーン・ビューティ製品は世界的に広がっている」。

「赤ちゃん本舗」は、「水99%Superシリーズ」のプレミアム製品として「ヴェオセル™」を用いた製品を企画した。「新生児の敏感な肌にもやさしい点に加えて、植物由来でサステナブルな植林法で管理された森林から得られた繊維であること、生分解性であることなどを訴求し、赤ちゃんと地球を大切に思う気持ちを商品に込めたものだ。『赤ちゃん本舗』の想い“未来へつながる子育て総合支援企業として、持続可能な社会の発展に貢献する”にかなう製品となった」とツアイディレクター。

今後の展望と
日本市場への期待

すでに「ヴェオセル™」ブランドを採用しているパートナー企業が従来の「ヴェオセル™」繊維から、カーボンニュートラルな「ヴェオセル™」繊維にアップグレードしているケースもあるという。「気候変動に直面している現在、CO2削減は企業にとって必ず達成しなければならない課題だ。既に韓国のサニタリーやシートパックなどで知られる『イェジミイン(YEJIMIN)』や台湾スキンケアブランド『ブリッジ24/7(BRIDGE 24/7)』はカーボンニュートラルな『ヴェオセル™』繊維を用いた製品を発売しており、今後はより多くのカーボンニュートラルな『ヴェオセル™』繊維を使用した製品が生まれる予定だ」。

レンチングも温室効果ガス排出削減目標を着実に達成できるようにCO2削減に取り組んでいる。「自社の努力はもちろんサプライヤーとの協働に加え、森林再生プロジェクトなどに積極的にかかわることで2021年、実質カーボンニュートラルを達成した」。

日本市場の展望についてツアイは、「『赤ちゃん本舗』の成功例のように、多くの社会的責任を果たすパートナー企業との取り組みを広げ、生活者が身体的にも精神的にも、そして社会的にも満たされた状態になるような、ウェルビーイングに向けた製品開発やサプライチェーンを通した啓発活動など、ウェルビーイングに向けた製品開発やサプライチェーンを通した啓発活動などを増やしたいと考えている。そのためには、『ヴェオセル™』の優位性を浸透させなければならない。その一環として12月6~8日、東京で開催されたエコ・プロ展に参加した。3年連続で参加しているがその理由は、「パートナー企業だけでなく、多くの消費者および未来の消費者となる子どもたちと直接対話することができるから。いわゆるZ世代やそれに続く子どもたちも数年すれば消費者やパートナーとなる。次の世代へとつながるよう、サステナブルな社会を育てていくことが大切で、それにはより多くの日本のサプライチェーンパートナーズとの協働が不可欠になる。パートナー企業や消費者を巻き込むさまざまなアクティビティーを計画する予定で、多くの人を巻き込みながらサステナブルでウェルビーイングな社会を作っていきたい」とツアイディレクターは語る。

※VEOCEL™およびヴェオセル™はLenzing AGの商標です。

TEXT : YUKO HIROTA
問い合わせ先
レンチングファイバーズ
mailto:office@lenzing.com