フェムテックをブームで終わらせずに、ビジネスとして成長・定着させるために必要なものは何かを考える本連載。日本国内にフェムテック市場を作り、定着させるために必要な企業のサポートや啓もう活動、プロダクトの輸出入をはじめ、フェムテックにまつわるさまざまな取り組みを行うフェルマータの近藤佳奈・最高執行責任者(COO)が、今後の市場の流れを掴むヒントを解説します。第2回は、女性の体の悩みにまつわる商品開発の可能性について考えます。
近藤佳奈(こんどう・かな)/フェルマータCOO
PROFILE:(こんどう・かな)神戸大学卒業。ピクシブで新規事業立ち上げ、企画営業、サービスディレクションを担当。2015年ディー・エヌ・エーに入社。動画配信サービス「SHOWROOM」チームに所属し、ディー・エヌ・エーグループからのスピンオフを経て約4年半在籍し、マネージャーとしてビジネスとプロダクト開発を担当。19年12月フェルマータに参画し、事業戦略、マーケティング、営業などを統括する
中長期的な見通しが肝心
初回ではフェムテックが日本で認知をされるようになったきっかけとして、吸水ショーツを取り上げました。吸水ショーツはアパレルメーカーにとっては、既存の生産ラインや技術を活用できることもあり、新規ビジネスとしても参入しやすい人気アイテムです。この時に大事にしたいのは、「そもそもなぜ吸水ショーツを作るのか」という原点です。特に今は吸水ショーツで始めた事業の継続を迷っている企業も多いのでは。数字だけを見て撤退を決めた企業もあるでしょう。
「なぜ」を追求するという観点では、スタイリングライフ・ホールディングス プラザスタイルカンパニーの社内プロジェクト「Nice to meet me!」は、素敵だなと思って拝見しています。同プロジェクトでは月経にまつわる声をもとに、第一弾としてプラザオリジナルパッケージのナプキン「The Week Sanitary Pad」を、第二弾としてオリジナルサニタリーショーツ「SaniBuddy」を開発し、全国のプラザ・ミニプラなどで発売しました。
開発チームの中ではナプキンの次は吸水ショーツという案もあったそう。しかし、プラザの顧客層は中高生が多いといいます。これはフェルマータの意見ですが、確かに中高生の月経事情は、金銭的な面も含めて、保護者の選択に依存するところが大きいと思います。大人のリテラシーが十分に上がっていない状態で中高生に最新の選択肢を提供したところで、手に取ってもらえない可能性が高い。結果的にプロジェクトでは、吸水ショーツではなく、ナプキンとともに使えるサニタリーショーツを販売することにしたそうです。
フェルマータが企業に伴走する際にも、この「なぜ」を問うステップをできるだけ踏むようにしています。フェムテックというトレンドから入ったとしても、その企業のメインターゲットは誰で、何を求めているのか、この参入によってどうなりたいのかを整理し直します。その結果として、フェムテックと呼ばれるような商品・サービスの開発を選ぶこともあるでしょうし、全く違う結果になることもあるのです。長期的な見通しを持って第一歩を踏み出すことで、事業計画も立てやすく、社内での決裁も取りやすくなります。
「経血をどう捨てるか?」以外にも目を向けてみて
消費者にとって、フェムテックだからその商品を手に取ろうと考えることは少なく、自分の課題を解決してくれそうな商品だから手に取る、という方がほとんどだと思います。ただし、いざ購入となると使い方が世に知れ渡っている既存商品とは心理的ハードルが異なるので、丁寧に接客してくれる詳しい販売員がいたり、信頼する友人やインフルエンサーの体験談を聞いたりなど、生の声が重要になってきます。
なので、フェムテックの専門店さえ作れば商品が爆発的に売れるという考えは持たない方がいいでしょう。かといって、量販店に置いておけば売れるというものでもありません。特に吸水ショーツをはじめとした現時点でルールが整っていないプロダクトは、一番伝えたい用途を伝えられないこともあるので、消費者とのコミュニケーションが行き詰まることも。民間企業や消費者が声を上げ続ければ動く山もきっとあると思いますが、ビジネスの観点ではやみくもに進めず、リスクを冷静に見つめ、「なぜ」を問い直すことも大切でしょう。
「本人もまだ言語化できていないモヤモヤを拾い上げていくことがスタート」
ちなみに月経というテーマに視野を広げてみると、まだ見ぬニーズが山のように眠っていると思っています。たとえば、私たちがすでに手に取れる月経の選択肢について考えてみると、ナプキンやタンポン、月経カップなど、「経血をどう捨てるか」のバリエーションがほとんどです。それ自体はすばらしいことなのですが、月経にまつわる悩みは本当にそれだけでしょうか?フェルマータでは消費者との対話を重ねて、さまざまな健康課題に対する潜在ニーズを解き明かそうとしています。結論ありきで聞くのではなく、本人自身もまだ言語化できていないようなモヤモヤを拾い上げていくことがスタートです。
例えば月経中のお風呂上がりにバスマットやタオルが汚れてしまうといったことや、月経痛対策が服薬しかないといったことまで、モヤモヤの粒度は大小さまざま、たくさんあるはずです。今動いている事業の行く先を考えている方、事業参入したいけど何をすればいいか分からない方、やりたい事業に自信を持てない方など、フェムテック市場にまつわる企業の悩みはさまざまだと思いますが、まずは「なぜ」といった自分たちの軸をしっかりと持った上で、ソリューションには最初から制限をかけず、固定観念をとっぱらい、生活者たちの言葉にならないモヤモヤに耳を傾けてみるのが良いのではないでしょうか。