皆さん「SKIMO(スキーモ)」ってご存知ですか?ほとんどの方が「何それ?」だと思います。正式名称はSKI MOUNTAINEERING(スキー マウンテニアリング)。日本語では「山岳スキー」などと訳します。このSKIMO、次回の冬季五輪である2026年ミラノ・コルティナ五輪で種目に採用されており、日本国内でも少しずつメディアなどで紹介されるようになってきました。個人的にSKIMOを体験する機会があったので、ご紹介します。(この記事は「WWDJAPAN」2023年12月4日号“スノースポーツ市場特集”の関連記事です)。
私がSKIMOを体験したのは湿原の尾瀬ヶ原で有名な群馬・片品村。尾瀬をベースに星野和昭さんが主宰しているKATASHINA SKIMO CAMPの、2日間のSKIMOツアーに参加しました。「そんなマニアックなツアー、参加者は非常に少ないのでは…?」と思った方もいるかもしれません。しかし、私が参加したとき(22年4月16、17日の2日間)の参加者は15人ほどと結構な盛況ぶり。はるばる関西から尾瀬に来ていた人もいて、正直私も驚きました。「えっ!そんなに集客力があるスポーツだったの!?」と。メンバーは男性がやや多め、20〜40代中心でした。
このSKIMO、元々はアルプスの山岳警備隊員のトレーニングだったそうですが、欧州では山を走るトレイルランナーの冬のトレーニングとしても定着していて、日本でもトレラン界隈のコミュニティーに深く刺さっているようです。実際、星野さんやコーチの方達もスカイランナー(トレランよりも高所を走るスカイランニングという競技の日本代表級の選手たち)で、参加者にも「UTMB(仏モンブランで行われているトレラン界の有名レース)走ってきました!」みたいな方が多かった。私をこのツアーに誘ってくれたPRの友人もトレイルランナーです。残念ながら私はトレイルランナーではないのですが、一介のスキー愛好者として、「いろんなジャンルのスキーを体験してみたい!」という思いでツアーに参加。星野さん主宰の尾瀬のコミュニティーだけでなく、長野・木島平(野沢温泉などの近く)にもSKIMOやクロスカントリースキー(クロカンもトレイルランナーに人気)のコミュニティーがあり、そちらも盛況なようです。
超軽量の板とブーツで斜面を登りやすく
さて、通常のスキーはリフトで山を登って滑り降りるものですが、レースとしてのSKIMOは雪山の斜面を板を履いたまま登り、斜度が急な箇所ではスキー板を脱いでザックにくくりつけてツボ足で登り、下りは板を履いて滑ってくる、そのトータルタイムを競うものです。「スキー板を履いたまま斜面を登れるのか?」という疑問が出そうですが、板の裏に毛足のある細長いシールを貼るとアラ不思議、毛足が雪面に噛んで登れるようになるんですよ。また、クロスカントリースキー同様に登る時はブーツのかかとを板に固定しないので、通常のゲレンデスキーの感覚よりも断然登りやすいです(滑る時はかかとも板に固定します)。
自分の足で山を登る以上、SKIMOの板は通常のスキーに比べかなり軽量化されていて細いです。ブーツは足首の可動域が大きな作り。今のゲレンデで主流のカービングスキーの板に慣れているスキーヤーは、超軽量のSKIMO板とブーツで滑ると、全く板のコントロールが効かなくて焦ると思います(私がそうでした)。エッジが雪面に食い込みやすいように作られている最新のスキー板や、前傾姿勢を保ちやすいハードブーツに助けられて、自分は普段スキーができているんだなと実感します(SKIMOに輪をかけてブーツが柔らかく固定力がないクロスカントリースキーで滑ってみると、普段使っているスキーギアの固定力はスゴい!という感謝の気持ちが非常に深まります)。
ツアーではSKIMO用の板やブーツなどをレンタルし、山に入っていきます。初日はギアに慣れるための練習、2日目は尾瀬のアヤメ平へ遠征という内容でした。断っておきますが、ガチのSKIMOレースをユーチューブなどで検索すると、「か、過酷……」「こんなの私には絶対できない」と思う方がほとんどだと思います。ただ、私が参加したツアーは“板を履いた山歩き”といったムードが濃く、夏山の登山が好きな方ならみんな好きになりそうでした。とは言え、私が参加した回は私以外がガチ系トレイルランナー中心だったので、登りはついていくのでぜえぜえでしたけど。
夏山ハイキング好きはハマりそう!
1日目は曇り時々小雨だったのですが、2日目は快晴!アヤメ平へと登る途中でドラゴンアイ(沼っぽいところが一部雪解けで瞳みたいになったもの)に寄り道したり、目的地についたらみんなでランチやコーヒーを楽しんだり。夏の尾瀬にハイキングに行ったことがある人は多いでしょうが、湿原が一面雪景色となった尾瀬もとても美しい。こんなふうに、夏とは違う景色を楽しめるのもSKIMOの魅力ですね。SKIMOのレースで海外にも遠征することの多い星野さんが、「SKIMOの本場のヨーロッパでは、本気の競技としてだけでなく、“ランドネ”(仏語でハイキングなどの意味)としてSKIMOを楽しむ人も多いですよ」と後日語ってくれました。レースとしてのSKIMOは正直ハードルがかなり高いですが、自然を濃密に楽しむための手段としてのSKIMOは、今後さらに注目を集めそうです。
山歩きとしてSKIMOを楽しむとなると、「それってバックカントリースキー/スノーボードとどう違うの?」「バックカントリーも自分の足で山を登って滑ってくるよね?」という疑問も出そうです。これは両方やってみての私の感想ですが、登りと滑りのどちらに主眼を置くかが違うのかなと思います。バックカントリースキーの板も軽量なものが最近は多いですが、基本的には滑りの楽しさに重点を置いています。一方でSKIMOは、軽量なギアで負担を軽くして、雪山を遠くまで歩きたい!というニーズに非常に合致しています。反面、滑りそのものを楽しみたいとなると、バックカントリーの板の方が楽しめると思います。また、山歩きを楽しむ手段だとは言っても、SKIMOも基本的な滑走技術は前提として必須であることはご注意ください。
さて、夏を引きずったような気温の高さについ先日までやきもきしていましたが、一気に寒くなって、各地のスキー場からは続々とオープンの報が届くようになりました。SNS上でも初滑り投稿をよく見かけます。今回の記事でご紹介したKATASHINA SKIMO CAMPも、公式サイトで今シーズンの予約をスタートしています。SKIMOだけでなく、ゲレンデや山でのスキーやスノーボードもとても楽しいですし、「よりハードルの低いアクティビティーがいい」という方には、今はスノーシューハイクのツアーなども各地で開催されています。この冬は、ぜひ何かしらのスノースポーツやアクティビティーを楽しんでみてはいかがでしょうか。「WWDJAPAN」12月4日号のスノースポーツ市場特集も、併せてぜひお読みください。