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京都の古道具屋「ものや」 27歳のふたりの「ガラクタも“アリ”に見せる」セレクト感覚

PROFILE: 右:櫻井仁紀(さくらい・とき)/左:吉田卓史(よしだ・たくじ)

右:櫻井仁紀(さくらい・とき)/左:吉田卓史(よしだ・たくじ)
PROFILE: 櫻井仁紀/1996年生まれ、岐阜県出身。京都工芸繊維大学でプロダクトデザインを専攻。在学中の2018年、デンマークに交換留学し家具デザインを学ぶ傍ら、古道具屋兼デザインスタジオ「ものや」をオープン。2022年に現在の京都市北山エリアの町屋を改装し移転した。 吉田卓史/1996年生まれ、奈良県出身。京都工芸繊維大学でプロダクトデザインを専攻。在学中の2018年、櫻井さんとともに、古道具屋兼デザインスタジオ「ものや」をオープン。2022年から飲食の道を志し、府内数店舗で勤務。現在は古道具ものやのショップ担当兼、京都にて間借りで飲食運営も行う。PHOTO:KEITA IZAKI

京都市北区に店を構える「ものや」は、櫻井仁紀さんと吉田拓史さんによる古道具屋兼デザインスタジオだ。二人は京都工芸繊維大学で出会った同級生で、大学在学中の2018年からともに店を続けている。

店頭には、インテリアから灰皿やテープカッター、時にはひと目で用途が分からないガラクタのような雑貨までが並ぶ。デザインも北欧のムードが漂うスタイリッシュなものから、昔懐かしのチャーミングなものまでさまざま。独自のフィルターを通したユニークなセレクトで、共感する人を増やしている。

今年5月の渋谷ヒカリエに続き、12月1〜3日の期間は、中目黒のみどり壮ギャラリーでポップアップを開催する。東京での出店が増えたことでECサイトも動くようになったが、いまだに6〜7割の商品は店頭で売れるという。来店客は、京都の中心街から離れたこの店を目掛けて足を運んでくるのだ。そんな「ものや」の審美眼はどのように磨かれてきたのだろうか。そのセレクト感覚と店の歩みに迫った。

■「ものや」&「物百」 合同ポップアップ「什器」
会期:12月1〜3日
場所:中目黒みどり荘 ギャラリー
住所:東京都中目黒青葉台3-11 3階
営業時間:12〜21時

「ものや」の仕入れの極意
「提案することで“ギリあり”になるか?」

「ものや」は、櫻井さんがプロダクトデザインを請け負う「スタジオものや」などでクライアントワークを、吉田さんがワインバーなどで勤務しながら、金〜日曜日の3日間のみ店を開けている。価格帯は雑貨が500円〜、オブジェのようなものは5000〜1万円、家具は2〜3万円ほどだ。

店に並ぶものは、ほとんど全国のリサイクルショップで買いつけたものだという。「リサイクルショップで探すと、『ナショナル』や『サンヨー』などの日本のメーカーのレトロな照明や、1990年代のイケア(IKEA)の家具など、掘り出しものが多く集まる。ほどよく野暮ったいものや笑ってしまうようなものに出合えるのも魅力」。

買いつけは予定を合わせて二人で行くのがこだわりだ。「お互いにガラクタのようなものに引かれがちなので、アリ・ナシのジャッジをするために、もう一人の目が必要。どちらかが要らないと言えば仕入れないが、基本は見せたら相手も“めっちゃいいやん”となる。二人で行くと、いいものを見つけた時に帰りの車の中で一緒に喜べるのが楽しい」。

オープンした当初は特に、ガラクタのようなものが大好きだった。しかし、最近は少しセレクトの傾向が変わったという。櫻井さんは、「わけ分からないものだけを並べるのは、意外と楽しくない」と語る。「ひと目見て“尖ってる”と分かるようなものやことが、逆にかっこいいと思えなくなった。デザインが好きで、勉強してきた経験から、照明や時計、カップソーサーも上手く見立てられるだろうと考えた。使えるものをそろえながら、その中に遊びを同居させる楽しみを考える方向にシフトした」。

仕入れの際には、「『ものや』が提案することで“ギリあり”になるか」というフィルターで手に取るものを選ぶ。「誰が見ても“良い”ものも好き。でも、その辺に落ちていたら誰も気づかないものを、自分たちで綺麗に見せて“これ面白いんじゃない?”と提案すれば、誰かが魅力を見出して気に入ってくれるかもしれない。究極、海で拾ったかっこいいものがあったら売ることもある」。

例えば、工場から出たプラスチックの廃材もそのままオブジェとして販売している。「プラスチックは今、評価が難しい素材で、コントロールされた工場素材のようなイメージでも語られるが、一方的に決めつけられているような気もする。これは機械で作り始めた工程で、予期せぬ形になった部分を溶かしたもの。新しい側面が見えたら素材の見え方も変わるかもしれない」

「ものや」のおすすめ5選

「ものや」の二人に、店頭にあったものの中から“おすすめ5選"を選出してもらった。
※商品はすでに売り切れている場合がある

「ものや」が生まれた背景
デザインのアイデアの種を集めるために古道具屋をオープン

櫻井さんは岐阜県出身、吉田さんは奈良県出身。ともに京都工芸繊維大学の建築デザイン学科でプロダクトデザインを学んだ。授業は刺激的で、仲間たちとバイト以外の時間のほとんどを製図室で過ごし、夢中で課題に取り組んできた。櫻井さんは当時、バイト代の大半を注ぎ込むほどの古着好き、吉田さんはお酒や料理に凝っていたという。

「大学で“プロダクトデザインとはこういうもの”と学んだ型は、ファッションでいうと要素を削ぎ落としたノームコアのようなものだった。その反動もあってか、機能を持たない無駄な要素があって、思い切り遊んだデザインも面白いと思うようになり、自分たちで好き勝手やってみたい気持ちが芽生えた。

例えば、1980年代にイタリアで結成したメンフィス(Memphis)も、同じようにユーモアの欠けたデザインへの反発として積み木をゴツゴツと積み重ねたようなオブジェを作っていた集団だった。彼らの作品を仲間内で共有して、憧れを募らせた」。

櫻井さんはデンマークに留学して家具デザインを学び、吉田さんは1年早く大学4年生になったが、企業への就職には前向きになれなかった。「いつかはデザイン事務所をやりたいと考えていたから、たくさんの物に触れて、アイデアの種を集める必要がある。それなら、物をたくさん見て売ればいいと、サードプレイスとして古道具屋を始めようと思った」。

京都は家賃が安くて若者も多く、同じく若くして古道具屋をやっている大学時代の先輩もいた。その環境が後押しして、大学近くの一乗寺エリアにあるビルの地下の小さな部屋に、「ものや」をオープンした。「分かりづらく、かなりアングラな感じで」営業していたが、オープンから間もなく来店客が頻繁に訪れるようになった。

「お客さんが4人も来ればいっぱいになってしまう小さな部屋で、『ものや』を目掛けて来てくれる人とじっくり向き合えなかった。それなら、もっと自分たちで文化を作っていけるまっさらな街で、一人一人と向き合えたほうがいいと感じて、この場所に移転した」。

自分たちで改装する前提で選んだのは、築100年を超えた一軒家。当初は二人で2階に住み、生活の拠点とした。改装にかかる費用を計算するより先に次々とアイデアが湧いて、ホームセンターに足を運んだ。その結果、「途中で全然お金がなくなった(笑)」という。

「ものや」が考える古道具屋の未来
「いつかは古着の文化と同じように」

近年、古道具屋を新しく始める人が増え、シーンが活気づいているのを感じるという。京都で月1回開催されている、古道具屋、古着屋が集まる「平安蚤の市」には、店を楽しそうに見て回る若者の姿もあり、大衆にも受け入れられ始めている。

「今、古着の文化が成熟していて、どこかの都市に行けば必ず古着屋が1店はある。古道具の文化も同じように変わっていくと思う。古着屋はもともと海外の文化だけど、“もの”は日本とヨーロッパ、どちらも発達してきて、どの国のどの都市に行ってもその地の“もの”がある。これから先、全国各地にもっと古道具屋が増えれば、巡るのがもっと楽しくなるはず」。

また、櫻井さんは現在、同じく京都で建築などに携わる同世代とデザインユニットSIBOを結成し、建物のブランディングから内装、ロゴデザインまでを担うデザインコレクティブにも参加している。そのユニットのパートナーも大学時代から親しい先輩だという。「根本的にはデザインしたいという気持ちが強い。今は集めてきたものがインスピレーション源となって、どのように自分のデザインに表出するかに興味がある。例えば、照明から吸収した要素が椅子のデザインに現れるかもしれない。自分でもいかに出合ってきたものたちから影響を受けているか分かっていないが、食べ物が体を作るように自分の血となっているはずだ」。

吉田さんは、府内の複数の飲食店で勤務している。お互いの強みを持つことを考え、選んだのは飲食の道だった。今後は「ものや」とクロスオーバーして飲食のサービスを展開することも視野に入れているという。「『ものや』の食器やカップソーサーと掛け合わせてできることもあるし、何より飲食店は、人が分け隔てなく集まる場でコミュニケーションが生まれやすい。もし出会ったお客さんがロゴをデザインしたいと考えていたら、僕たちがデザイナーを紹介することもできる。『ものや』が人の輪を生むハブとなるのが理想だ」。

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