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ファッションは多様を受け入れる「うつわ」がある【ファッション×障がい ファッション・フォームズ後編】

11月18日、つくばで行われた福祉機器展で、ファッションディレクターの山口壮大氏がプロデュースした映像作品「ファッション・フォームズ(Fashion Forms.)」が上映された。つくば市及び周辺に在住するそれぞれ異なる障がいを持つ当事者と、「ポト(POTTO)」「オダカ(ODAKHA)」ら5組のデザイナーが向き合い、当事者のための「1着の服」ができるまでの過程を記録した、約1時間の意欲的なドキュメンタリー作品だ。約5カ月がかりで服を完成させたこのドキュメンタリー作品と一連の服作りのプロジェクトは、文化庁などの助成やスポンサードありきで始まったものではなく、山口氏と、障がい者の子どもを持つ五十嵐純子さんが独力で立ち上げ、最終的に完成にまでこぎつけた、いわばインディペンデントなプロジェクトだ。車椅子のファッションジャーナリストの徳永啓太が、この映像作品の解説や山口ディレクターへのインタビュー、コラムを寄稿した(全2回)。

「僕らを知ってほしい」当事者からのメッセージから考える社会の構造

山口さんのインタビューで「感動作品にしない」というコメントから、思い出した言葉がある。身体障がいを持つオーストラリアのコメディアン故ステラ・ヤングが2012年に発言し話題になった「障がい者は感動ポルノではない」である。これは障がい者を取り巻く環境や社会に対して《「感動」という言葉で私たちを消費しないで。私たちは生きている。同じ権利を持っている》というメッセージだと私は解釈している。この発言の裏には障がい者を見ないようにする社会構造に対してのアンチテーゼであり、当事者が努力したり日常生活を送ることは大衆向けの「ポルノ」ではない。障がいを持つ人が生きているのは当然の「権利」だという強いメッセージであった。それは障がいへの理解を促しただけでなく、当事者の仕事や活動・表現を社会は評価する時代へと、これから変わっていくのだと思っていた。

あれから約10年が経った。現在、国連が掲げる「SDGs」には人や国の不平等をなくすという目標があり、日本では2018年頃からダイバーシティを区市町村レベルで目標を掲げるようになった。東京オリンピックパラリンピックの開催で身障者のあらゆる表現や活動を尊重する機会が活発になり「社会は障がい者への理解が広がっている」とも解釈していた。

だが、それは私の「驕り」だったかもしれない。

「Fashion Forms.」を見に行き、出演者の一人が発した「僕らのことを知ってほしい」という一言が引っかかった。この言葉の中には「僕らは"生きている"」という主張が含まれている。私はこう言った当事者からのメッセージを何年聞いてきただろう。少なくとも身近では、私が幼い頃から当事者団体はずっと同じ主張を繰り返してきた。「生きていることは当たり前の権利である」という意味も込めたステラ・ヤングのメッセージ以降、社会は良くなってきていると認識していたのは間違いだったのか。2023年でも、この主張が出るということは日本の社会で障がいを持つ人の参加が少なく、当事者への理解や環境が変わっていないということだ。いろんな地域や企業が社会課題などを目標にし、障がいを持っている人でも社会参加を促すといった言葉を掲げていても、実際はそれを必要としている当事者まで届いていない。これはドキュメンタリーへの批判ではなく、社会の構造が変わっていないことへの憤り・悔しさである。

当事者の生活に潤いを与えるファッションの「うつわ」

健常者と障がい者が区別がされてしまう社会ならば、その穴埋めをするのがファッションの力である。ファッションの価値基準は曖昧なものだから、あらゆる人 が楽しめて、自分をアピールでき、美の価値観を多様に受け入れてくれる「うつわ」になる。かっこいい、可愛いという感覚が、今までの常識を覆すことができるのもファッションのちからの一つだ。

それでも、身体に障がいがあると既製品が着づらかったり、合わなかったりするとファッションに対してネガティブになってしまう。私も身体に障がいを持つ者として過去に同じ経験をしているし、ネガティブな気持ちになるのはとても共感できる。毎日介助が必要な人からすると「生活するだけで周りに迷惑をかけている」と日常的に後ろめたい気分になるのだろうと察する。

けれど、お洒落をするときぐらいは身勝手にファッションを楽しむことも必要なのではないだろうか。車椅子に乗っていても「自分らしさ」は勝ち取れるし、それが車椅子ユーザー全体への印象も変えていく。ファッションで自分に自信を持つことが、自分の人生を豊かにし、周りからの見られ方も変わることを「Fashion Forms.」を見て再度認識した。インタビューの最後、山口さんの「ファッションのタネを撒く」というのは、一人でもお洒落をしている車椅子の人がいれば、障がいを持つ人へのイメージが変わり、それが広がると社会で障がいを持つ人が活動しやすくなるという意味でもあると受け取った。

個人的には、ファッションは生活に彩りをつけてくれるものなのだから、着づらいといった少々の弊害があっても、「こだわる」ということが重要だと思う。服を着る行為は毎日なので、着づらい、着せづらいなどが続けば諦めたくなる気持ちも理解できる。それでも既製品が合わなければ着れるようにお直しすればいいし、身体に合うものがなければ作ればいい。世間で流行っているものが合わなければ、わざわざ合わせる必要はなく、着やすくて、着せやすくて、気分が上がるもので外に出ればいい。ファッションはそれぞれの生活に寄り添い柔軟に受け入れてくれるものだ。「Fashion Forms.」は、特に障がいを持つ当事者やそのご家族に「ファッションは生活を豊かにする多様なアプローチがある」と、強く訴えかけてくる。そして、これは障害がない人にも通じるメッセージだと感じた。

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