現在の商品の価格帯は、1万円台から80万円台。「落としても壊れない時計」として1983年4月に発売したファーストモデルは、過酷なアウトドアの現場でも安心して使えるツールウオッチとして、警察官や消防士、兵士やレンジャーらアメリカで人気になった。90年代には、日本を含む世界中で若者を中心にカジュアルなファッションアイテムとしてもブレイク。その後、アナログ、フルメタル、樹脂&メタルのハイブリッドやカーボン素材、ダイバーズなど、使用シーンに合わせた“マスター オブ G”モデルも登場。今では老若男女を問わず、世界中に愛用者は多い。
そして、今年は「G-ショック」誕生40周年。83年の第1号モデル“DW-5000C”のデザインを継承するステンレススチール&樹脂ケースのオリジンモデルからフルメタル、その最高峰の“MR-G”まで、どれを選ぶか迷わずにいられない記念モデルが続々と登場している。
こうしたアニバーサリーモデルも注目だが、今年の「G-ショック」でぜひ注目してほしいのが、10月中旬に公式YouTubeで「ドリームプロジェクト第2弾」として発表した、イエローゴールド製のユニークピース“G-D001”。“次世代「G-ショック」”という位置付けで、世界でただ1本だけ作られた“夢の「G-ショック」”だ。そしてこの1本は11月9日、ニューヨークのマンハッタンで開催した「G-ショック」 40周年記念イベント「G-ショック ショック・ザ・ウェーブ2023」で実物を初公開。そしてちょうど1カ月後の12月9日、同じニューヨークで開催された名門オークションハウス「フィリップス(PHILLIPS)」の時計オークションにチャリティー出品され、何と予想落札価格の約3倍の40万50ドル、1ドル=146円で換算すると5800万円以上で落札されたのだ。
タフ・カジュアルからタフ・ラグジュアリーという新ジャンル
初代「G-ショック」の企画&設計者であり、全米、そして世界中からメディアや時計ディーラーが集まったニューヨークのイベントでこの時計をプレゼンテーションしたのは、「落としても壊れない時計」という製品企画書を書いて、初代モデルの設計を担当、以降現在まで「G-ショック」の商品企画を主導してきた“「G-ショック」の父”、現カシオ計算機 シニアフェローの伊部菊雄氏だ。ちなみに初代モデルの製品化プロジェクトの企画責任者を務めたのは、時計事業部のトップを長年務め、この4月にカシオ計算機の社長に就任した増田裕一氏だ。
「G-ショック」のフルゴールドモデルは、史上初ではなく、これが2作目。1作目は5年前の2018年に「ドリームプロジェクト第1弾」として発表した、オリジンモデル“DW-5000C”をフルゴールド化した“G-D5000-9JR”だ。翌年19年に世界35本限定、770万円(税込847万円)で発売して即完売している。そしてこのモデルは、1983年の第1号モデルに始まる「G-ショック」 35年間の集大成と位置付けられていた。40周年に発表した今回の“G-D001”も、同じ趣旨の贅沢な記念限定モデルだと思われるかもしれない。
だが伊部シニアフェローは現地で筆者に「この“G-D001”はこれまでの『G-ショック』とはまったく異なる異次元の製品、新世代『G-ショック』の第1号モデル。“001”という製品名には、その第1号モデルという意味を込めている」と語った。この視点からチェックすると今回の“G-D001”は伊部シニアフェローの言葉通り、これまで開発・発売した「G-ショック」とはすべてが異なる異次元の時計だ。スケルトンのアナログ表示文字盤、複雑な造り込みと丁寧で繊細な仕上げが際立つケースとブレスレット。何も知らずに初めて目にした時計愛好家なら、機械式クロノグラフのスケルトンモデルだと思うに違いない。だがこのモデルは実は、すべてが革新の塊だ。
まず現代建築を彷彿させるケースサイドが印象的なケースとブレスレットのデザインは、AI(人工知能)と人間のデザイナーが協力する「ジェネレーティブデザイン」という手法を初めて使って作られたもの。具体的には「G-ショック」が 40年間の間に蓄積した「衝撃を受けると、時計にどんな力がかかるか」というデータをコンピュータにまず入力。人間のデザイナーが考えたデザイン案に、AIがデータによる検討を加えて新たなデザイン案を作成。さらにこれを3Dプリンタで出力。これにデザイナーが自身の目と手で何度も修正を加えることで、最終的に「人にとって魅力的なデザイン」仕上げたものだという。
またケースやブレスレットの細部の繊細な仕上げは機械式のラグジュアリーウオッチと同様、すべて熟練した職人の手作業で磨きなどの仕上げを施した。
それなのにこのフルゴールドモデルは、従来の「G-ショック」と変わらぬタフネス、耐衝撃性や防水性を備えている。しかもこれまでのフルメタルモデルとは一線を画し、衝撃を吸収する緩衝材の使用を最小限に抑えながら耐衝撃性を確保。これまでは不可欠だったケースとベセルの間の緩衝材はゼロというから驚きだ。
さらにこのモデルに搭載されているアナログの時計モジュールにも、これまでとは違う異次元の新世代技術が盛り込まれている。一見すると機械式にしか見えない、時刻などの表示を行う複雑な歯車輪列。ここに使われている歯車の一部は、半導体製造で使われる超精密微細加工技術で作ったもの。またこの歯車輪列の土台となるムーブメントの地板には、高級機械式時計を彷彿させる美しい装飾を施し、歯車を取り付ける軸受にも高級機械式時計と同様に「穴石」の人工ルビーをはめ込んだ。
世界6局の標準電波に対応し、ワールドタイム&クロノグラフ&日付機能も備えた時計のLSI(時計機能を実現する電子チップ)も新開発。そして発電するソーラーセルも、従来のシリコン系のものではなく、人工衛星などに使われる高効率のガリウム系を採用。チップを超低消費電力で動かせるように改良することで、日付機構のすき間から差し込むわずかな光だけで動く超エコ仕様を実現している。
誕生から40周年。世界でたった1本製作されたこの新世代「G-ショック」“G-D001”で、カシオは「タフ・ウオッチ」から「タフ・ラグジュアリー・ウオッチ」という新ジャンルを創造した。この時計は、これまで作られたどんなフルゴールドウオッチよりもタフな時計として、時計史に新たな1ページを刻んだのである。
現時点でカシオ計算機は、“G-D001”に続く「タフ・ラグジュアリーな新世代『G-ショック』」をいつ製品化するか、現時点では未定としている。だが来年24年はカシオ計算機が時計作りを始めてちょうど50周年という大切なアニバーサリーイヤー。“G-D001”の完成度を考えると、製品版の登場が多いに期待される。