ファッション

「ディオール」、女性アーティストとのコラボにフォーカスした展覧会 高木由利子による作品も

パリ8区にある「ディオール(DIOR)」本店の展示スペース“ラ ギャラリー ディオール(La Galerie de Dior)”は、女性アーティストとのコラボレーションの歴史やアーカイブをひも解く展覧会を2024年5月13日まで開催している。母マドレーヌと妹カトリーヌから強い影響を受けていたムッシュことクリスチャン・ディオール(Christian Dior)が創設した「ディオール」。誕生以来、さまざまなシーンで活躍する女性とのつながりやコラボがメゾンの成長に影響をもたらしたことに光を当てた内容だ。

人間は周囲から影響を受けるものだと確信していたムッシュは、音楽家や作家、画家と親交を深めることを好んだ。また、17年からウィメンズウエアのアーティスティック・ディレクターとしてメゾンをリードするマリア・グラツィア・キウリ(Maria Grazia Chiuri)も数々のアーティストを起用し、デビューコレクションから現在にいたるまで、フェミニズムのメッセージを強化している。ギャラリーの入り口近くには、キウリによる「ディオール」コレクションで有名なスローガン「We Should All Be Feminists(私たちはみなフェミニストであるべき)」をあしらったTシャツの写真が飾られているが、これは女性フォトグラファーのブリジット・ニーデルマイル(Brigitte Niedermair)が撮影したものだ。

この他にも、アメリカ人アーティストのジュディ・シカゴ(Judy Chicago)やエヴァ・ジョスパン(Eva Jospin)、イギリス人アーティストのカテリナ・ジェブ(Katerina Jebb)、メキシコ人アーティストのElina Chauvet(エリナ・ショーヴェ)といった現代アーティストとの作品に加え、ムッシュがギャラリーのオーナーだった1930年代のレオノール・フィニ(Leonor Fini)の絵画や、60年代にクリエイティブ・ディレクターを務めていたマルク・ボアン(Marc Bohan)と長年親交のあったニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle)による67年の彫刻“ナナ(Nana)”など、ブランドにまつわる歴史的な作品も展示されている。

「レッド・シューズ(Red Shoes)」というインスタレーションを通して、暴力によって亡くなった多くの女性たちを世界中で追悼してきたショーヴェとは、5月にメキシコで発表した2024年プレ・スプリング・コレクションでコラボレーション。白いコットンモスリンのドレスやジャケットには、真っ赤な糸で文字などが刺しゅうされ、女性に対する暴力の根絶を訴えるメッセージを込めている。今回の展覧会では、メキシコの女性刺しゅう家グループと協力し、「Mi derecho es decidir(選ぶのは私の権利)」や「Ni soy de tu propiedad(私はあなたの所有物ではありません)」と書かれた「ディオール」のビンテージジャケットのトワルなどが展示されている。ショーヴェは「私の作品全てがフェミニスト。マリア・グラツィアとは、同じエネルギーやシンクロニシティーを感じながら、自由に作業することができた。展示ルームは圧巻の一言で、私の作品をこのように展示してくれて心からうれしく思っている」とコメントした。

18年からさまざまなプロジェクトで「ディオール」とコラボレーションしてきたジェブは、スキャンした画像を何十枚も組み合わせてつくったデジタルアートを複数のルームで披露。メゾンのアイコンである“バー”ジャケットにフィーチャーしたルームでは、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)やボアン、ジャンフランコ・フェレ(Gianfranco Ferre)、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)、ラフ・シモンズ(Raf Simons)、キウリら歴代のアーティスティック・ディレクターが再解釈してきたアーカイブや、ムッシュが愛用していた椅子と並んで展示されている。「私は47年の『ディオール』のクチュールドレスを、ナポレオンのコートやマリー・アントワネットのコルセットと区別しないようにしている。どちらもエレガンスと過去への賛美であり、人はそうした記憶や感情を呼び起こすようなプルースト的現象を再現しようとするが、それはとても儚いものでもある。作品はファッション写真ではなく、あえて少し風変わりな印象をもたせた」とジェブ。

20年春夏オートクチュールでタッグを組んだシカゴによるルームでは、彼女がデザインした刺しゅうのバナーが飾られている。また、アイコンバッグの“レディ ディオール(Lady Dior)”が世界のアーティストとコラボレーションするプロジェクト“ディオール レディ アート(DIOR LADY ART)”の一環として、アーティストのミカリーン・トーマス(Mickalene Thomas)やジョアナ・ヴァスコンセロス(Joana Vasconcelos)らがカスタマイズしたバッグも並ぶ。

これらに加えて、日本人写真家の高木由利子が撮影したビンテージの「ディオール」を身にまとったダンサーたちの等身大の写真も見どころだ。“ラ ギャラリー ディオール”のオリヴィエ・フラビアーノ(Olivier Flaviano)=マネージャーは、「ムッシュは、ドレスが実際にどう動くのかを想像することなしにデザインを成功させることはできないと語っていた。高木さんのこれらの写真は、それを如実に表現すると共に、ポエティックな魅力に満ちている」と評価した。

フラビアーノ=マネージャーは今回の展覧会について、1949年のムッシュがデザインチームのメンバーに囲まれ、メゾンを象徴する階段でポーズをとっている写真を指し、「ムッシュがいかに女性たちに囲まれていたかを物語っている。また、『ディオール』の仕事はチーム全員の努力で成り立っているという、マリア・グラツィアが大切にしている考え方も思い起こさせる」と語る。

同氏はまた、「このギャラリーは、展示物によってメゾンの歴史にどのような光を当てることができるかを見極める、ある種の実験室のような存在であることを目指している。今回の展覧会は、ファッションがモノとしてだけでなく、ファッションが発信するメッセージによって主体となりうるということを示すことが目的だ。女性アーティストの視点を通した『ディオール』の多様なビジョンは、さまざまなメッセージを伝えていくだろう」と説明した。

“ラ ギャラリー ディオール“は22年3月のオープン以来、ファッション史に残る数々のアーカイブにフォーカスした展覧会をローテーションで行い、およそ65万人が来場。今回初めて、「ディオール」と女性アーティストとのコラボレーションにフォーカスしている。

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