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東急不動産が進める「生物多様性」が軸の街づくり 都心で人と生き物、植物をつなぐ

渋谷を中心に都市開発を進める大手デベロッパーの東急不動産は“環境先進企業”を掲げ、「脱炭素社会」「循環型社会」「生物多様性」を重点課題としている。中でも、業界で先進的に取り組むのが生物多様性の保全だ。都心地域の植生を保持し、人と生き物、そして植物が共生する街づくりを進めている。持ち株会社である東急不動産ホールディングスでは2023年、国内不動産業として初めて自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures、以下TNFD)レポートを公開し、事業におけるネイチャーポジティブへの貢献を示した。なぜ街づくりにおいて「生物多様性」が必要なのか。TNFDレポートで評価された内容や事例をもとに、サステナビリティ推進部の松本恵・担当部長に取り組みの背景について聞く。

「東急プラザ表参道原宿」開業以降、
渋谷圏内の生物多様性の回復に貢献

TNFDレポートの分析では、同社が保有する39施設の緑地面積の増加により、2012年以降の東急グループが定める渋谷駅から半径約2.5kmのエリア「広域渋谷圏」における物件建設前後の生物多様性再生効果が上昇していることが分かった。これは同エリアの渋谷区商業地域の平均を上回る数値になる。その一例が同年に開業した東急プラザ表参道原宿だ。商業と自然の共存がコンセプトの大規模な屋上庭園「おもはらの森」は開業時に大きな話題となった。鳥や虫が好む樹木を配し、ケヤキやイロハモミジといった日本在来の植物を選び、野鳥が水を飲んで水浴びできるバードバスも設置。近所の小学校とは鳥の巣箱を作る出張授業を行うなど、次世代に向けて生物多様性の重要性を発信する。毎年鳥類と昆虫類のモニタリング調査を行い、生き物の生息・飛来状況の変化を把握し、緑化を進めるなど、生態系にポジティブインパクトを与えている。

サステナブルな設計で森林につながりを持つ
「フォレストゲート代官山」

23年に開業したフォレストゲート代官山は、「緑・環境サステナブル」などのライフスタイルを提案する商業・住宅・シェアオフィスなどの複合施設だ。同社の日本の森林を守る「緑をつなぐプロジェクト」が保全する対象である岡山県西粟倉村の木材を建材に利用した緑豊かな空間は生物多様性に配慮している。建築家の隈研吾が設計したMAIN棟は、小箱を積み上げたようなナチュラルな木目の外観デザインが特徴的だ。サステナブルな生活体験を提供するTENOHA棟の六角形の木造建物は、解体して組み直すことが可能な設計になっている。屋上には菜園があり、収穫物は入居店舗で利用するなど、館内で循環の実現を図っている。さらに食物廃棄物を利用したメタン発酵から生まれた電力の利用にも着手している。来館者がサステナブルなコンセプトを体感しながら、考えるきっかけを提供したいと考えている。

「自然資本そのものが、事業の根幹」

同社が環境ビジョンの基本理念を策定したのは1998年にさかのぼる。2021年には、持ち株会社である東急不動産ホールディングスが2030年に向けた長期ビジョン「GROUP VISION 2030」を発表し、現在、グループ全体で全社方針として「環境経営」を掲げて取り組みを推進している。「企業の持続的な成長のためには、個人を支える社会、その社会を支える地球環境、それぞれに対して価値を創造し続けることが重要。中でも、生活や経済活動を支える基盤の環境を守ることは最も大事で、ここに注力しなければ、個人や社会も存続できない」と松本部長は語る。

松本部長に「生物多様性」に取り組む重要性を聞くと、「当社は、北海道ニセコのスキー場や沖縄のリゾートホテルまで全国でリゾート事業を展開している。海や山といった豊かな自然資本そのものが、事業の根幹という意識。また、都市のまちづくりで緑化を取り入れることは、建物を利用する上で魅力や癒しにつながる。例えば、オフィスの緑化はワーカーのストレス軽減や生産性の向上にもよい影響となると考えている。サステナブルな視点での先進的な提案は、都市開発の魅力につながる」と話す。

TNFDレポートから見えた新たな課題は?
理想の街づくりとは?

同社グループのTNFDレポートは、自然資本への「依存」と「インパクト」を大きなテーマとしてまとめられている。企業の活動が、その土地や地域にどれほどの影響を与えるのか。また、建築資材などでの調達が自然にどれほど依存しているのか。自然資本への影響を把握することは、持続的な事業活動のために不可欠であるとの考えがある。

「脱炭素や気候変動が先行して環境の意識が高まった感があるが、これからは生物多様性の重要性が高まるだろう。難しさはあるが、まちづくりを通じて、自然をどう回復させるかを実現できるかが一層求められる。環境への取り組みは私たちの強みなので、いろんなステークホルダーと新しい取り組みを進めるきっかけにもなりえるのでは」と松本部長。今春には原宿の神宮前交差点に商業施設「東急プラザ原宿 ハラカド」、夏には「渋谷サクラステージ(SHIBUYA SAKURA STAGE)」の開業を控えている。「買い物もスマホで簡単にできる時代。魅力ある街には、その場所にどうしても行きたくなる動機が必要。これからも『住む』『過ごす』『働く』という街の機能の魅力を更に高めていく。その上で、持続可能な街作りには環境への取り組みが重要な基盤だと考えている」。

TEXT : RIE KAMOI
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