専門商社の三栄コーポレーションは「アワー アース プロジェクト」の下、世界各国のエシカル商品を集めたECサイトの運営のほか、基幹のOEM事業では環境配慮型素材の提案の幅を広げるなど、商社の立場からファッション業界のエシカル消費を推進する。同プロジェクト発足と同時に、ファッションジャーナリストの生駒芳子が代表理事・会長を務める一般社団法人日本エシカル推進協議会に加入。有識者や他企業と連携して、業界全体に働きかける。「アワー アース プロジェクト」の責任者である山田敦担当と生駒代表理事に、エシカル消費のあり方について聞いた。
エシカルは身近 みんなが根底に持つ感覚
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WWD:一般社団法人日本エシカル推進協議会の活動内容は?
生駒芳子・一般社団法人日本エシカル推進協議会代表理事・会長(以下、生駒):私たちはいち早く気候変動の危機を感じてきた有識者40人から構成された組織で、「危機のカナリア」として世の中に警鐘を鳴らしエシカルなライフスタイルの重要性を伝えることが大きな役割だ。私自身は専門であるファッションの分野におけるエシカルの重要性を感じ、2017年の設立当初から参加している。具体的には、エシカルを深く理解するためのセミナーや会員のみなさまに各分野の最先端情報をお届けする情報交換会などを主催している。
山田敦・三栄コーポレーション服飾雑貨事業部第一部企画開発担当マネージャー(以下、山田):僕は17年に初めて情報交換会に参加し、エシカルに本気で取り組む決心がついた。というのも、長らくOEMの仕事をして大量生産の現場を見てきたなかで地球環境への関心の低さに違和感を覚えていたからだ。当時はそれでも半信半疑な部分があったが、会で出会った人たちと交流するなかでエシカル消費が今後絶対に重要になると確信した。「アワー アース プロジェクト」立ち上げのタイミングで、専門家たちと横のつながりを持ち最新情報に触れる必要があると考え、法人会員として参画した。
WWD:2人にとってエシカルとは?
生駒:「エシカル」の傘は広く、動物福祉や人権、フェアトレードなど多岐にわたる。サステナビリティやSDGsとほぼイコールだが、エシカルはより具体的な行動指針を示していると思う。エシカルな選択を重ねれば、持続可能な世界に近づいていける。振り返ると80年代から、ファッションの世界でエシカルな活動をしているデザイナーはたくさんいた。例えばアニエス・ベー。彼女は自分がデザイナーになる目的の1つは、世の中の困っている人を助けるためという。そのほかにもキャサリン・ハムネットやダナ・キャラン。感度の高いデザイナーや企業は、2000年代より前から取り組んでいることだ。
山田:言葉の捉え方はいろいろあると思うが、僕自身が感じているのはすごく身近なコンセプトということ。子どもの頃から言われていたような、食べ物を残してはいけないとか、無駄なものは買わないとか。みんなの根底にある感覚なのではないかと思う。
結局何を買えばいいの?の一つの答えに
WWD:三栄コーポレーションが考えるエシカルのアウトプットの一つが、「アワー アース プロジェクト」だ。具体的にどんな基準でセレクトしている?
山田:一番大切にしているのは、ブランドが核に持つメッセージは何かということ。たとえばドイツ初の「ゴットバッグ(GOTBAG)」は、世界の海洋ごみが一番たまりやすい地域がインドネシアということから、インドネシアの海洋プラスチックごみを原料にバッグを製造している。それは根幹に、世界の海をきれいにしたいという思いがあるからだ。加えて、現地の雇用も生み出している。輸送手段もなるべく二酸化炭素を出さないように船や陸路を使用するなど、細部にわたるまでエシカルを徹底している部分に共感した。
生駒:私も一番印象に残っているのが「ゴットバッグ」。海洋プラスチックごみの問題から、フェアトレード、リサイクルなどさまざまな問題に多角的にアプローチしている。そしてクリエイティブでおしゃれ。エシカルにデザイン性は絶対に欠かせない。「アワー アース プロジェクト」の商品は、全てデザイン性が高く未来を感じる。エシカル消費を呼びかけるなかでも、「結局何を買えばいいの?」と迷う声もよく聞く。その意味でこのプロジェクトは、一つのアンサー。エシカル経営をしている企業と消費者をつなぎ良い循環を生んでいる。
OEMはエシカルなものづくりを
実現するカギ
WWD:同プロジェクトでは、OEM事業での環境配慮素材の提案も強めている。
山田:OEMはこれまで黒子の役割だったが、これからの時代はモノ作りの現場をエシカルに変えていくための要になると思っている。当社が正規販売代理店を務める「イーダイ(E.DYE)」もその一例だ。これは無水染色技術を活用した原着生地のブランドで、リサイクルペットボトル由来のチップを着色し糸にするため水を使わない。比較的小ロットで対応でき、QRコードから環境負荷軽減のデータも示せる。3月には「イーダイ」を使ったオリジナルブランド「ユーエフ(UF)」も立ち上げる。こうした素材をそろえているものの、実際に普及させていくためには難しさもある。例えばクライアント企業から、リサイクルポリエステルでもペットボトル由来の素材は他社と差別化できないので何か新しい切り口の素材はないかと聞かれることもある。いろいろな素材の選択肢が増えるのはいいことだが、果たしてちゃんとそれが根本的な問題の解決になっているのか、企業のエゴで終わっていないのか、疑問に思う場面もある。従来のOEM業界は、面白いものを出す勝負のような一面があったが、サステナビリティにおいては、それはまた違う競争のような気がする。
生駒:すごくファッションっぽい部分だ。脅かすわけではないが、気候危機の現状は私たちが思っている以上に深刻だ。温暖化の状況でよく例えられるのが、真夏にGジャンを着ているような状態だった地球が、今やダウンジャケットを着ていると。私たちの望む未来に進めるかどうかの瀬戸際まで来ている。その危機感が業界としてやっぱり薄い。人はどうしても楽しい方に、豊かな方に進んでいく。ただ今は、本当の豊さとは何か?というすごく哲学的な問いがなされなくてはいけないと思う。人間の心理が社会を作っていくならば、大事なのは心のエシカル。日本人の心根にはたくさんのエシカルな知恵がある。原点回帰する時が来ていると思う。そしてやはり大人、企業が動かないと社会は変わらない。私たちが2021年に中小企業向けに策定した「JEIエシカル基準」も参考にしてほしい。
山田:エシカル事業の担当者として身に沁みる言葉。企業人として周りの社員を、会社を本当に動かすぐらいの危機感と熱量を持って取り組みたいと改めて思った。「アワー アース プロジェクト」では、エシカルとデザイン性を両立する品ぞろえが強みだ。多くの人に気軽に手に取ってもらうことで、エシカルを考えるきっかけになると信じている。サステナブルやエシカルな体験に興味がある人にはぜひのぞいてもらいたい。
わくわくするエシカル消費に出合える
オンラインショップ
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「アワー アース プロジェクト」は2019年に始動。“より地球にやさしい”をコンセプトに、「サステナブル」「エシカル」のキーワードに合致する製品やサービスを提供する。オンラインショップ「アワー アース プロジェクト サステナブルターミナル」では、海洋廃棄プラスチックをリサイクルしたドイツ発のバッグブランド「ゴットバッグ」や、車のエアバッグをアップサイクルしたドイツ発のバッグブランド「エアパック(AIRPAQ)」など、世界のエシカルブランドやオリジナルブランドを含めた全9ブランドを扱う。屋号の「サステナブルターミナル」は、さまざまな商品が行き交う"ターミナルストア"を意味し、空港や大きな電車の駅で新しいものを見つけるようなわくわくするエシカル消費を楽しんでほしいという思いを込めた。
三栄コーポレーション
03-3847-3521