ラグジュアリーセレクトショップ「リステア(RESTIR)」元社長の高下浩明氏がファッションビジネスで再始動している。2021年8月に246inc.を設立し、2年の準備期間を経て、デジタル百貨店「246セレクト(246select.com)」をソフトオープンしたもの。リステアで培った“セレクト力”やハイブランドとのネットワーク、高感度や富裕層などの顧客ニーズをつかむ力などを活かして、ブランドの公式サイトとユーザーとをダイレクトで結ぶ、在庫を持ったないセレクト&キュレーション型メディア事業を行っていく。高下246inc.CEOにその狙いと勝算を聞いた。
――リステアをトゥモローランドに2015年に売却し、2019年に社長を辞した。充電期間を経て、デジタル百貨店「246セレクト」を立ち上げようと考えた理由は?
高下浩明246inc.CEO(以下、高下):「246セレクト」は、自分たちが良いと思って選んだ商品やブランドをキュレーションして紹介する、デジタル版セレクトショップ、デジタル版百貨店だ。ただし、ECではなく、在庫も持たない。ブランドビジネスには、リアルでもデジタルでも高いクリエイティビティが必要だが、オフィシャルサイト以外にイメージを維持できる場所がないと悩むブランドが多い。しかも、ECの売上げ拡大は急務だが、他社サイトへの出店は販売手数料も高額で、在庫移動などの業務も発生する。そこでブランド側の課題を解決するために、最適な露出機会を提供し、ユーザーとブランドの直営ECをダイレクトに結ぶキュレーションメディア、かつ、プラットフォームを目指すものだ。
また、32年間売る側の立場だったが、2019年に前職を辞任してお客さまの側になって多くのことに気付いた。コロナ禍や鎌倉を拠点にした生活をする中で、買い物はネット中心になったが、便利な反面、情報が膨大すぎて、何がイケてるいるのか、何が本当に良いのかを探そうとしても見つけにくく不便を感じた。これは同じような悩みを持つ方がかなりいらっしゃると感じた。また、前職からの流れで、知り合いの経営者クラスや著名人、VIP層などから、奥さんや彼女へのギフトや新築祝いなどについて相談を多く受けていた。本当にセンスが良くて信頼できるものをセレクトし、キュレーションし提案してくれるサイトや店があったらという切実な声もあり、全てが心地よいコンフォートショッピングの場を作りたいと考えた。
デジタルを駆使、新業態は「セレクトショップ」と「百貨店」、そして「メディア」を横断
実は次のステップに進む中で、小売りコンサルタントのダグ・スティーブンスが10年前に書き、5年前に翻訳本が出た「小売再生―リアル店舗はメディアになる」を何度も読み、何かファッション業界に役に立つ新しいことができないかと考えた。前職でもブランドのプロモーションイベントにリステアのお客さまを招いたり、パーソナルスタイリングを行ったり、コンシェルジュ的な仕事も担っていた。リアルがデジタルに変わっただけで、やろうとしていることは前職のセレクトショップビジネスと変わっていない。それを少し時代に合わせて、デジタルやAIを活用して、寄り良い購買体験やサービスを実現しようとしている。
――「246セレクト」や“デジタル百貨店”というネーミングの由来は?
高下:ラグジュアリーブランドなどが多く店を構える表参道や青山を通る、日本を代表する国道246号線から名付けた。その界隈に店を作るとしたらどんなものを作ろうか、あるいは、そのまま一つの商業施設やモールのようにも見える街なので、それをデジタルで表現したらどうなるかなどを考えた。
インバウンドなどで少し活気が戻りつつあるものの、百貨店は斜陽と言われたりもしている。けれどもかつては、新しいものや本物、信頼感のあるものなどを豊富に取り扱い素晴らしい魅力を持っていた。今回は前職時代から培ったセレクト力、キュレーション力を生かして、自分たちが良いと信じたものを紹介していく。
キュレーションした商品画像を介してユーザーとブランド公式サイトをつなぐ媒介・プラットフォームに
――サイトの構成や取扱商品については?
高下:まさに百貨店のようなフロアガイドを設け、1階を中心にショーウインドーを配し、カテゴリーごとにフロアを分けて展開している。とくに店の顔であるショーウインドーには力を入れている。30分~1時間にひとつ、新商品が自動でアップされて見るたびに発見があったり、GIFや動画などを使って感覚的な心地よい刺激も与えるようなデザインを心掛けている。気になる商品をタップすると、商品の詳細ページに飛び、ブランドの公式ECの商品ページにダイレクトに遷移できるボタンを配している。また、その商品ページの下部には、類似商品や推奨商品などをAIのアルゴリズムでレコメンドできるような仕組みにしている
自分たちがセレクトしたブランドのアイテムに加えて、PRプロモーション枠を設けて、出稿してもらったブランドには、商品画像をクリックすると直営サイトに遷移するとともに、上層階にワンブランドを専用に扱うフロアを開設する。仮想の世界なので、実質的に∞(無限大)でフロアや商材を増やしていくことができるのもデジタル百貨店の特徴だ。
取り扱うブランドはラグジュアリーブランドから、ストリートブランド、コスメやジュエリー、ガジェットやインテリア、車やアート、さらには旅まで幅広い。プライスも数百円から数千万円までハイ&ローをミックスしている。現在は約80ブランドだが、共感していただけるブランドとの取り組みをどんどん強めながら、カテゴリーやサービス・体験などにまで広げていきたい。とくにギフトは強化したいし、ホテルやトラベル、スーパーカーからエコカーまで新しい車なども訴求していきたい。
多忙な経営者やその秘書、VIP層にも好適、ギフトコンシェルジュサービスでタイパとセンスを向上
――サービスのカギの一つであるコンシェルジュサービスとはどのようなものなのか?
高下:一つは、ユーザーが友達や家族を登録できるギフトボックスサービスを用意している。いいね、を押したものを保存しておくだけでなく、想定プライスや、モード、ナチュラル、セクシー、コンサバなどファッションのテイストを入力しておくと、誕生日や記念日が近いことをリマインドしてもらえたり、クリスマス向けのギフトプランを提案してもらえたりするものだ。
経営者層やその秘書、著名人、ファッションに興味がある方々などの利用を想定しているが、忙しくて時間がないけれども、相手を喜ばせて自分の評価にもつながるセンスのいいものを贈りたいという気持ちに応えるものになるし、頼まれて困っている秘書の方々の力強い味方になれる。もちろんファッションの提案や相談承りなどもできる。AIなども活用しながら、究極のスタイリング&コンシェルジュサービスとして役割を果たしたい。
――マネタイズの方法が気になるが、出店料・出稿料なのか、アフィリエイトなのか?
高下:現在はプロモーションの出稿料をいただいている。すでに、いくつかの有力グローバルブランドが可能性を感じてプロモーション枠を活用してくれている。また、現在は商品中心だが、キュレーションマガジンとして読み物などを増やしていくこともできる。こうなるとリテールメディア化が進むことになる。ただし、広告という概念はなくて、紹介しているものすべてを心地よいものにしたいので、扱うもののフィルターについてはこれからも大切にしたいし、そこはセレクトショップの知見も生きてくる。あとは、コンシェルジュサービスは現在は無料だが、将来的にはSpotifyのようなサブスク型のサービスとして進化させていきたい。
――百貨店の外商やホテルのコンシェルジュのように、良いユーザー層が集まれば、ブランド同士の相乗効果も生まれそうだ。
高下:今まで知らなかったブランドや商品とのマッチングが生まれることを期待している。実は創業に当たり、若くデザイナーやクリエイター、アーティストから集客方法やビジネス展開などの相談を受けることも多く、彼らの渾身の商品や作品を良い客層の人々に紹介し、彼らが世に羽ばたく支援をしていきたいということも、このプラットフォームを作る原動力の一つになっている。厳選されたブランドやその公式ECサイトにダイレクトにつながるサイトを作って、ブランドの活性化を図ることをビジョンに、新しい才能ある人々を世界に出す役割をミッションとして、成長させていきたい。
――どんなチームがこの「246セレクト」を支えているのか?
高下:2021年に僕とエンジニアだけでスタートした。今までになかった新しい挑戦にワクワクしてくれている20~30代を中心に、優秀な方々と一緒に、よりクリエイティブでかっこいいことを世界に向けて発信していこうとしている。今はまだベータ版の状態。1962年生まれで年が明けたら62歳になるし、スピードを上げ、本番であるアプリのオープンや、開発やサービスの拡充をしていきたい。どんどん進化させていくので、まずはユーザー登録をして、一度使ってみてほしい。