アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。チェーンストアの破綻後、その屋号などの知的財産が買収され、デジタル上で存続する事例が増えている。深読みすれば、新しい小売りの本質が見えてくる。
今年、生活雑貨店「ベッド・バス&ビヨンド」が経営破綻し、店舗が消滅したことは日本の皆さんもご存知だろう。優良企業とみなされていた企業でもあり、さすがの私も一気に消えてなくなったのには驚いたものである。
では既にネット上では復活しているということはご存知だろうか。知的財産を買収したオーバーストック・コムが自らのサイト名をベッド・バス&ビヨンドに変更した。デジタルの世界では今も存続しているのである。
ECとはフィジカルに目に見えるものではなく、本質はデータである。つまりそれそのものが知的財産である。ECが普及し規模が大きくなったので、ブランドやのれんといった従来の知的財産にECが加わった。
そのため破綻した企業のフィジカル部分はすべて切り離して、ECだけ知的財産として買収し、これを有効活用する手法を取る企業が急速に増えている。
例えばベッド・バス&ビヨンドと競合していた同業のリネンズン・シングス(Linens 'n Things)は2008年に破綻して全店舗閉鎖に追い込まれたのだが、知的財産運用会社がECを買収し、現在もネット上では存続している。こういう生き残り方は、昔はなかったことだ。
ちなみに知的財産としてのECには、ウェブサイトやドメインだけではなく、顧客データや取引先データなど多くの情報が含まれている。破綻すると競売にかけられてこういった付帯データも安く入手することができるので、ここにビジネスチャンスを見いだす企業が増えているのである。
店舗が復活することも
ベッド・バス&ビヨンドは傘下に子供用品チェーンのバイバイベイビーを展開していたが、これも破綻時に競売にかけられて、ドリーム・オン・ミー(Dream on Me)というD2Cメーカーが知的財産を1550万ドルで買収している。そしてこれとは別個に11店舗のリース契約を競売で購入し、再オープンを発表したのが11月半ばのことである。
この企業はもともとリアル店舗に興味があったようだが、知的財産とリアル店舗を分離しており、知的財産だけ買ってECに絞ることも可能だった。
興味深いのは同じベビー用品のベビーザらスもリアル店舗が復活している点である。ニュージャージー州の大型モール、アメリカンドリームに7月後半にオープンしている。
トイザらス破綻後にトイザらスとベビーザらスの知的財産を買収したのがTruKids社で、トイザらス店舗をオープンさせたがパンデミックと重なってしまい失敗し、これを買収し再トライしているのがWHPグローバルである。トイザらスはメイシーズ店内にインストアショップも展開しているが、これもWHPグローバルが運営している。
同社はエクスプレス、ボノボス、アンクラインなど多くのブランドを所有していて、ライセンス生産、ネット販売、リアル店舗などブランドごとの最適な販売チャネルを見いだしてマネッジすることをビジネスモデルとしている。総店舗数は31カ国に1400店舗、売上高は70億ドルを超えており、本質は小売企業ではないのだが、隠れた大手チェーンストアといったところだ。
存在感を強めるABG
アメリカで越境ECのシーインが資本提携したスパークグループは、オーセンティック・ブランズ・グループ(ABG)とモール運営最大手のサイモン・プロパティ・グループによる合弁企業だ。ABGはWHPと同じく知的財産の運用をビジネスモデルとしている企業である。スパークグループはノーティカ、フォーエバー21、ラッキーブランズ、ブルックスブラザーズなどを運営しており、シーインはフォーエバー21と組んだことはご存知の通りだ。
一方このシーインはイギリスのアパレルブランド、ミスガイディッド(Missguided)を11月に買収したが、手に入れたのはこれもECを中心とした知的財産のみである。運営していたフレイザーズグループは、ミスガイディッドのオペレーションスタッフはすべて自社に吸収すると発表している。
そしてシーインはミスガイディッド創業者と合弁企業を設立し、シーインがオンデマンド型製造プラットフォームで商品を作り、ミスガイディッドのサイトで商品を売るとしている。
シーインもECという知的財産を有効活用することで欧米でのプレゼンスを高めようとしているのである。
ちなみにABGもWHPグローバル同様に知名度の低い企業だが、50以上のブランドを運営しており、売上高は21年の時点で200億ドルを超えている。150円で換算すると3兆円規模で、上場のうわさの絶えない隠れた大企業だ。
最大手の家電量販チェーンで2008年に破綻し全店舗を閉鎖したサーキットシティも、リネンズンシングスと同様に実を言うとネット上で存続している。
破綻しても知的財産は消えてなくならず、ネット上で販売が継続され、ブランドによってはリアルが復活する。こういった事例は今後も出てくることだろう。ECが生んだ新たなビジネスである。