正月の風物詩、箱根駅伝が2024年1月2〜3日に開催される。同大会は2日に渡り全国放送される世界的にも珍しいレースなだけに、宣伝効果も絶大で、スポーツメーカー各社が送り出す新作シューズの“シェア争い”の舞台でもある。ここでは、「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」「アシックス(ASICS)」「ミズノ(MIZUNO)」「プーマ(PUMA)」「ニューバランス(NEW BALANCE)」の全6社の前回大会の着用者数と、今大会で着用が期待されるシューズを紹介する。
「ナイキ」
前回着用者:130人(1位)
注目モデル:“アルファフライ 3”
1 / 1
前回トップは「ナイキ(NIKE)」で、210人中130人(61.9%)が着用した。21年は201人、22年は154人とシェアは徐々に落ちているものの、昨年総合優勝の駒澤大学は全選手が「ナイキ」を着用し、上位3大学の選手のうち9割が「ナイキ」だった。実力のある選手からの支持はいまだに高いといえる。
同社の注目シューズは“アルファフライ 3(ALPHAFLY 3)”。厚底シューズの先駆け“ヴェイパーフライ(VAPORFLY)”から派生したシリーズで、前回大会では2区区間賞の吉居大和選手(中央大)、6区区間賞の伊藤蒼唯選手(駒澤大)、9区区間賞の岸本大紀選手(青山学院大)らが、この前身モデルを着用した。同シリーズは、推進力を生み出すカーボンプレートをミッドソールに内蔵し、前足部の“エア ズーム ユニット”で反発力を最大化させる仕組み。今回はアッパーの改良などでシリーズ最軽量を実現したほか、前足部とかかとが一体化したソールを初めて採用し、中足部やかかとでの接地にも対応する。より扱いやすく進化した「ナイキ」の厚底は、今回も箱根を席巻するのか。
「アディダス」
前回着用者:38人(2位)
注目モデル:“アディゼロ アディオス プロ 3”
1 / 1
前回2位の「アディダス(ADIDAS)」は38人が着用した。4区で区間新記録を出したイェゴン・ヴィンセント選手(東京国際大)、7区区間賞の葛西潤選手(創価大)、8区区間賞の宗像直輝選手(法政大)らが履いた。
注目シューズは、上記3選手も着用した“アディゼロ アディオス プロ 3(ADIZERO ADIOS PRO 3)”。同モデル最大の特徴は、ミッドソールに内蔵したカーボンの形状だ。プレート状に成形するメーカーが多い中、同モデルでは5本骨状のカーボンバーを採用。パーツごとに硬さも調整することで、自然な足の動きを損なわず、推進力をもたらす。また、カーボンバーを挟み込むミッドソール素材は、硬度を見直してクッション性と弾力性、安定性が向上した。アッパーには“アディゼロ”シリーズ最軽量のメッシュ素材を使用し、27cmで片足215グラムの軽さだ。
「アシックス」
前回着用者:32人(3位)
注目モデル:“メタスピード スカイ プラス”
1 / 1
「アシックス(ASICS)」は、かつて箱根の定番だった。しかし「ナイキ」をはじめとする厚底シューズの波に飲まれて、2021年は着用者ゼロという屈辱を味わった。これを受けて当時の廣田康人社長(現会長)は“トップ奪還”を掲げ、自身直轄の開発プロジェクトを始動。エリートランナー向けの“メタスピード”シリーズを生み出した。
同シリーズはランナーの走法に合わせたシューズ設計が特徴で、スピードと共に歩幅が広がる“ストライド走法”と、歩数を増やしてタイムを短縮する“ピッチ走法”に対応。国内外でランナーの自己ベスト更新に貢献しており、箱根では21年のゼロから22年の24人、23年の32人と着実にシェアを広げている。中でも期待がかかるのは、前回10区区間賞の西沢侑真選手(順天堂大)が履いた“メタスピード スカイ プラス(METASPEED SKY +)”。歩幅を広げ、少ない歩数でゴールする“ストライド”走法に合わせたシューズで、ミッドソール上部に平らなカーボンプレートを置き、その下に同社で最も反発性に優れる“エフエフ ブラスト ターボ”を配置。接地時に足裏全体のプレートが“エフエフ ブラスト ターボ”を圧縮し、その復元により大きなエネルギーリターンをもたらす仕組みだ。今年は駅伝に合わせて紅白の限定カラーを用意した。
「プーマ」
前回着用者:7人(4位)
注目モデル:“ファスト-アール ニトロ エリート 2”
1 / 1
「プーマ(PUMA)」は前回、東京国際大の丹所健選手ら7人が着用し、22年の着用者1人から大きく躍進した。同社は21年にランニングカテゴリーへの投資を強化し、窒素を注入した独自の高反発素材“ニトロ フォーム”を開発。翌年には駅伝向けの限定色の企画を始動した。
今年は駅伝に向けて4モデルの限定色を用意した。中でも注目は “ファストアール ニトロエリート 2(FAST-R NITRO ELITE 2)”。同モデルは、昨年発売した“ファストアール ニトロエリート”の進化版で、前作に比べて反発力が46%向上し、20%の軽量化を実現。さらに、カーボン製プレートがつま先まで突き出た独自構造により、自然と歩幅が広がるという。その結果、3時間ジャストのマラソンランナーは平均2分30秒、2時間30分のランナーで平均1分24秒のタイム短縮が可能とのことだ。「プーマ」は同モデルを中心に、15人のシェアを目指す。なおシューズ開発には、青山学院大初優勝と、学生駅伝初の三冠を経験した安藤悠哉氏が携わっている。
「ミズノ」
前回着用者:1人(5位)
注目モデル:“ウエーブ リベリオン プロ 2”
1 / 1
「ミズノ(MIZUNO)」といえば創価大の嶋津雄大選手だった。嶋津選手は2020年、「ナイキ」の厚底がレースを席巻する中、「ミズノ」の真っ白なプロトタイプを着用して10区区間賞を獲得。23年まで同モデルを履き続けた。
嶋津選手が卒業した今、同社はほかの選手にもアピールするため12月に“攻め”のシューズを発表した。“ウエーブ リベリオン プロ 2(WAVE REBELLION PRO 2)”だ。同モデルは“トップスピードを長く保つ”ことを追求し、陸上短距離用スパイクに着想したソール形状を採用。かかとをえぐり、中足部に厚みを持たせた形状が、前足部や中足部での接地を促し、かかとの落ち込みを最小限に抑える。ミッドソール内部には波形に成形したカーボンファイバー製のプレートを組み込み、衝撃吸収や反発力、安定感をもたらす。嶋津選手に次ぐ「ミズノ」着用者は現れるのか。
「ニューバランス」
前回着用者:1人(同率5位)
注目モデル:“フューエルセル スーパーコンプ エリート V4”
1 / 1
前回着用者1人だった「ニューバランス(NEW BALANCE)」は、スピード重視の新作“フューエルセル スーパーコンプ エリート V4(FUELCELL SUPER COMP ELITE V4)”に期待がかかる。ミッドソールには高反発素材“フューエルセル”をベースにした新配合を採用し、反発性と弾性が向上した。またミッドソールに組み込むカーボン製のプレートも、より強い弾性を持つ形状に変化させ、ミッドソールとの相乗効果で大きなエネルギーリターンを生む。アッパーはフィット感を重視して、縫い目を最小限に抑えた。