2023年は、コロナ禍こそ落ち着きを見せたものの、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は膠着状態が続き、イスラエル・パレスチナ情勢が悪化の一途をたどるなど、地政学上の不透明感は増すばかりだった。また、世界第1位の経済大国である米国の景気減速や、一大消費市場である中国の回復が予想よりも芳しくないことから、ファッション業界でも業績が悪化する企業が続出。一方で、生成AIや環境負荷の低い新素材の開発といった革新的なテクノロジーにより、これまでにない未来をよりリアルに描けるようになった年でもある。世界をリードする市場を抱える中国と米国の「WWD」エディターに、業界の現在地と24年の展望を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2023年12月25日号&2024年1月1日合併号からの抜粋です)
不確実性と回復の狭間にある中国のファッション市場
ロックダウンや渡航規制が解かれた2023年、中国市場は活気を取り戻した。「シャネル(CHANEL)」「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」など、数多くのラグジュアリーブランドが再び中国での存在感を高めるべく、ショーなどのイベントを開催。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)のベルナール・アルノー(Bernard Arnault)会長兼最高経営責任者(CEO)をはじめ、さまざまなラグジュアリー企業のトップは、上海や北京だけでなく成都などの店舗も視察に訪れている。
消費の回復は予想より遅れている上、消費者物価指数を見ると中国はここ2カ月ほどデフレ状態にあるものの、ラグジュアリーブランドが23年に2ケタ成長を遂げることができたのは、中国市場の再開が寄与していることは言うまでもない。
23年の振り返り:「中国の復活・越境EC・ESG」
グローバル市場での需要減や景気減速にもかかわらず、中国の繊維・アパレル業界は国内市場で力強く回復。1月から9月までの売上高はオフラインが前年同期比10.6%増、オンラインは同9.6%増と明るい兆しを見せた。中国ブランドも国際的なファッション・ウイークへの参加やM&Aの強化など、グローバル展開に力を入れている。例えば、「フィラ(FILA)」「アークテリクス(ARC'TERYX)」「デサント(DESCENTE)」を擁する中国の大手スポーツウエアグループ、アンタ(ANTA、安踏体育用品有限公司)は、最高級の素材を手掛けるイタリアの繊維会社フレッテ(FRETTE)を買収した。現在、中国による海外の繊維・アパレル産業への投資累計額はおよそ110億ドル(約1兆5620億円)で、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、エジプトなどの国に集中している。
グローバルなECプラットフォームの台頭は、中国の繊維業界や独立系アパレルブランドの輸出を後押しした。中でもアマゾン(AMAZON)とシーイン(SHEIN)は、業界の発展に大きな役割を果たしている。また、大手EC企業ピンデュオデュオ(PINDUODUO、拼多多)の国際事業であるティーム(TEMU)は、中国の低価格な商品にフォーカスして急成長を遂げた。一方で、越境ECは、新しいブランドに対する好奇心が強い若年層が多い中国市場に進出したいグローバルブランドにもビジネスチャンスを提供している。
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