三越伊勢丹は現在、リアルとメタバースを活用して、ファッションを通じて社会課題と未来の暮らしを考えるプロジェクト「フューチャーファッション エキスポ(以下、FFE)」を主催している。FFEは「雨の止まない世界」と「空中で暮らす世界」「月を行き来する世界」「菌類に覆われた世界」そして「仮想空間で生きる世界」という、「決して荒唐無稽ではない、もしかしたら起こるかもしれない世界」(仲田朝彦・三越伊勢丹 営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部レヴ ワールズ マネージャー)のシナリオを作成。全国の⼩中学⽣に向けたワークショップなどを踏まえて5つのうち3つの世界のファッションを募り、同社のメタバースアプリ「レヴ ワールズ(REV WORLDS)」上でイベントを開催したり、三越劇場でファッションショーを開いたりして、次世代の斬新なアイデアを仮想と現実空間で具現化し、彼らの創造性を刺激する。今週号の「WWDJAPAN」は、この5つの世界をファッション業界と異業種の対談や座談会を通して考えた(本特集記事を参照)。なぜ三越伊勢丹は、リアルとメタ空間が交錯する138日にも及ぶイベントに取り組むのか?5つの世界は、本当に「もしかしたら起こるかもしれない」のか?そして対談や座談会から見えてきたファッションの可能性とは?まずはFFEへの思いと、5つの世界について、三越伊勢丹の仲田マネージャーと、5本の未来シナリオを策定した宮川麻衣子・未来予報代表取締役に話を聞いた。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月8日号からの抜粋です)
プロフィール
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「もしかしたら」の世界から見えるファッションの役割
三越伊勢丹の仲田マネージャーはFFEの狙いについて、1990年のバブル崩壊までさかのぼる。当時のアパレル業界の市場規模は、14兆7000億円。仲田マネージャーはバブルのリアルタイム世代よりもはるかに若いが、「あのころ、お客さまは魅力を感じたファッションを購入していたので、洋服に強い思い入れを持ち、丁寧に使い、劣化したら修理しながら使っていたように思う。大事に使える物に価値を感じての消費だったと思う」という。当時、洋服の平均単価は6800円程度だった。
仲田マネージャーが三越伊勢丹に入社したのは、リーマンショックが起こった2008年。以降景気は落ち込み、消費者はシビアになって、アウトレットで手頃な洋服を選ぶ消費行動が定着した。そして「価格を優先した洋服は思い入れを持ちにくく、丁寧に使わないから劣化が早まり、安いので修理せず破棄する。そして再び安い洋服を購入するという、短サイクルが出来上がった」と仲田マネージャー。洋服の平均単価は現在約2700円まで下落し、アパレル業界の市場規模も10兆1000億円まで落ち込んだ。 加えて慢性的な供給過多が続き、洋服には購入されても売れ残っても廃棄問題がつきまとう。
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