PROFILE: 又吉直樹/お笑い芸人・作家
ピースの又吉直樹が、ファッションブランド「水流舎(つるしゃ)」を立ち上げた。第1弾は、街着としても着用できるパジャマを、2月に東京と大阪で開催するポップアップストアで限定販売する。ユニセックスで2サイズ(M、L)を用意し、価格はセットアップで3万3000円。同ブランドのタグは、又吉とかねてより親交の深い書道家の田中象雨が手掛けた。メディアにもたびたび登場するほどファッション好きの又吉は、なぜブランドを立ち上げたのか。その経緯や目的を聞いた。
“寝る”ことが地名になっている町で生まれ育った
WWDJAPAN(以下、WWD):ブランドをローンチしたきっかけは?
又吉直樹(以下、又吉):7〜8年前にふと、パジャマを作りたいと思い立って、たくさんパジャマを買って試すようになったんです。1年ほど前に周囲の人に話したら、「面白いんじゃないか」という反応があり、自分自身が“一番着たいパジャマ”を作り始めました。パジャマを作るならそれを発表する母体が必要になり、ブランドを立ち上げることになりました。
WWD:パジャマを作ろうと思ったのはなぜ?
又吉:出身地が関わっているんです。僕が生まれた寝屋川市の由来については諸説あるんですけど、昔、京都から大阪まで偉い人たちが移動する時に必ず寝泊まりした宿があったとか。あるいは、山で狩りをしていた人たちが降りてきて寝た場所だとか。自分が知っている2つの説は、どちらも“寝る”にまつわる話なんですよね。現在、寝屋川市は“大阪のベッドタウン”と呼ばれていて、地名の由来と現代の役割がリンクしていることにも気づき、自分が“寝る”ことが地名になっている町に生まれ育ったんだと意識し始めた時に、パジャマを作ってみたいと思いました。
WWD:「水流舎」のネーミングの意味は?
又吉:音を含め、川と睡眠は親和性が高いイメージがあったんです。寝屋川を着想源として始まったプロジェクトなので、水にまつわる名前にしたいとも考えていました。以前、どこかの弁当屋に“水流”というネームプレートを付けた店員がいて、読み方を尋ねたら“つる”だと。「かっこいい名前やな......」と思った記憶が残っていて、そこから取りました。
WWD:パジャマを“街着”としても着られるようにデザインした理由は?
又吉:“寝る”という文字が入っている町で生まれ育ったとはいえ、寝るだけじゃなく、学校やバイトなど、いろいろな活動もしていたわけですよね。そこで、“街着”としても使えるようにしたら面白いと思ったんです。
WWD:“街着”として着用する際のおすすめコーディネートは?
又吉:パジャマのトップスはゆったりとしたシルエットなので、黒のワイドパンツとスニーカーがよく合うと思います。かさばらない素材なので、上からアウターを羽織ってもハマりますね。パンツの方も、シンプルにTシャツとか、何でも合わせられると思います。
WWD:デザインの着想源と、こだわったポイントは?
又吉:寝屋川市の“川”や、「水流舎」の“水”から連想した水神の竜を、胸元に刺しゅうで入れました。あとは、特に生地にこだわりましたね。自分がこれまでに着てきたパジャマの中で一番気に入っている素材に近いものをいくつか試作し、家に持ち帰って睡眠時に実際に着用してみて、着心地がいいものを選びました。
小説を1行ずつ書いていくような感覚でデザインした
WWD:文章を書くときと、服をデザインするときの共通点は?
又吉:文章を書くときは、「よし、これを書こう」と書き始めて、1行書いたら、1行目が2行目のヒントになって、2行書いたら、1行目と2行目が3行目のヒントになって、というように数秒前や数分前の自分に刺激を受けて書き進めていくようなところがあるんです。パジャマを作っている時も、自分が生まれ育った町のことを考えたり、改めて「川ってなんや」とか、「水ってなんや」とか、睡眠についても思考を巡らせたりして。このパジャマを着て寝た人が、「今日ちゃんと寝られたな」という喜びを味わえたらいいなと思い、「じゃあ竜に守ってもらうか」とか。いろいろな考えに対して、「ということはこうやな」という風に一つずつ進めていったので、それが小説を1行ずつ書いていく感覚とすごく似ていましたね。
WWD:ブランドの今後は?
又吉:実際に商品を見て、面白がってもらえたらいいなと考え、まずはポップアップストアでの販売というかたちにしました。でも、たとえば子供の頃に、図書館の移動バスとかあったじゃないですか。ああいうのも、すごく楽しくていいかもしれないですね。
ブランドを発展させたいというよりは、自分が作りたいものを作って、完成した喜びを味わう、という温度感を大切にしつつ、一つずつじっくりと作っていきたいですね。
WWD:第2弾の予定は?
又吉:まだ何も決まっていないですが、スカジャンやベトジャンは昔から興味があって、作ってみたいですね。あるいは、本自体をファッションとして捉え直して、詩集なども作ってみたいです。ファッション性の高い本、みたいなものがあるのかは分からないんですけど、そういう仕掛けや視点があれば、書けなかったものが書けるのかもしれませんよね。
見たことのないシルエットや変な刺しゅうのある服に惹かれる
WWD:自身のコーディネートの決め方は?
又吉:その日の予定に合わせて決めます。今日は、「水流舎」のパジャマと私服を何度も着替える予定だったので、着替えやすい服装にしました。
美術館に行く時は、展示の内容にもよりますが、だいたい地味な格好にしますね。美術館ではもちろん展示を見るんですけど、人の流れとかも目に入るじゃないですか。たとえば水墨画を見に来た時に、全身ピンクのおじさんとかがいたら気になっちゃいますよね。だから、そういうことにならんように、とかは考えます。
逆に、街でお店を回る時は色が多めのコーディネートにしてみたり、先輩と会う時にはシャツとジャケットと革靴を選んだりしますね。
WWD:大事にしているファッションアイテムは?
又吉:今日着ている、自由が丘の古着屋「エロティック(EROTIC)」がオリジナルで作っているシャツです。「シリンギルド(SHIRIN GUILD)」のシャツが元になっているんですけど、素材がよりカジュアルで、形は似ているのに着た感じはまた全然違うんですよね。ゆったりとしたシルエットが気に入っていて、もう10年くらい着ています。今日は太めのコーデュロイのパンツに合わせているんですけど、さらにゆったりとしたシルエットのパンツにもよく合います。
基本的に、見たことのないシルエットや変な刺しゅうのある服に惹かれます。「エロティック」のオーナーの杉本陽介さんとは30代前半の頃から親交があるんですけど、僕がお店に行くたびにめっちゃ変な服を倉庫から持って来てくれるんですよね。
注目しているブランドや1カ月の洋服代などを一問一答
販売について
■ポップアップストア「まだ、起きてたで」
日程:2月17日(土)
時間:12:00 開場、15:30 終了
場所:LIVE HOUSE VINTAGE
住所:大阪府寝屋川市東大利町5-10
入場料:無料
■ポップアップストア「まだ、起きてたよ」
日程:2月25日(日)
時間:12:00 開場、16:00 終了
場所:ADRIFT
住所:東京都世田谷区北沢3-9-23
入場料:無料