ホテルやラグジュアリー・ブランドのブティックで、「いい香りがする」と思ったことがある人は多いはずだ。気づかないケースもあるが、ほぼ全てのラグジュアリー・ブランドのブティックや高級ホテル、レストランでは、“香り”が空間演出の一つとして取り入れられているそうだ。イベントなどでも使われることがあるというから、“香り”はあらゆる“場所”に欠かせないものなのかもしれない。
本能や記憶に深く結びつく“香り”
嗅覚は五感の中でも、最も記憶に深く結びついていると言われる。香りを嗅いで何かを思い出したり、感情が動かされたりすることを“プルースト効果”と呼ぶそうだ。マルセル・プルースト(Marcel Proust)の小説「失われた時を求めて」の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸して食べたときに、幼少期の思い出が蘇ったという話からだという。動物に比べると人間の嗅覚は鋭くはないが、潜在的なものは存在する。本能や記憶に直接的に働きかける“香り”は、ブランディングに必須というわけだ。
1000社以上の香りをブランディング
日本でも、阪神梅田本店(以下、阪神梅田)や小田急百貨店新宿店(以下、小田急新宿)がフロアや館をイメージしたオリジナルの香りで空間演出を行っている。それを手掛けたのが、イタリア発フレグランスメーカーのセントカンパニーだ。同社は、香りのブランディングに特化した企業で「ディオール(DIOR)」「プラダ(PRADA)」「グッチ(GUCCI)」「カルティエ(CARTIER)」「ロレックス(ROLEX)」などの店舗をはじめ、「アルマーニ ホテル(ARMANI HOTEL)」「マンダリン オリエンタル(MANDARIN ORIENTAL)」「ザ・リッツ カールトン(THE RITZ CARLTON)」といった高級ホテルなど1000以上のブランドや企業へオリジナルの香りを提供。同社には、香りの魔術師と呼ばれるシレノ・チェロニやルカ・マフェイなど4人のマスターパフューマーが在籍しており、ブランドのアイデンティティーやストーリー、顧客などを分析し、唯一無二の“香りのロゴ”をつくり出している。世界中から厳選されたオーガニック100%の天然香料を使用している。
“感覚”と“場所”を結びつける“香り”の効果
阪急梅田と小田急新宿は「心地よい空間でショッピングを楽しんでほしい」という思いから“香り”による演出をスタート。阪神梅田では2021年に、店舗の象徴であるテラスの空間演出にオリジナルの香りを採用したところ問い合わせが殺到したという。22年末、セントカンパニーのオリジナルブランドの企画開発をする日本法人のfbdによるディフューザーブランドである「セント オブ ザ ワン(SCENT OF THE ONE以下、THE ONE)」から通称“テラスの香り”として商品化。同ブランドのディフューザーと共に販売している。“テラスの香り”は品切れになることもあるほどの人気商品だという。小田急新宿では22年に「THE ONE」から同店をイメージするオリジナルの香り“トーキョー”で空間演出をスタートしたところ、好評で23年に商品化した。“香り”は目に見えないが、“心地よさ”や“親しみ”といった感覚に直結し、“ある場所”を結びつける効果的なブランディングになり得るようだ。