東京都東村山市に建築家の隈研吾(以下、隈氏)がデザイン監修し、築52年のたばこ屋をリノベーションしたカフェ、和國商店がオープンした。仕掛け人となったのは、東村山市を拠点に外装工事や板金のオブジェの制作を行うウチノ板金の内野友和代表。同店では、世界最高峰クラスだという日本の板金の技術を発信する拠点を目指し、店内にも板金を用いたプロダクトを取り入れる。
今回、キーワードとなったのは、“循環型建築”。外壁は、広島県・速谷神社の屋根の銅板を再利用して1枚ずつ職人が手作りした、700枚にも及ぶ立体的な五角形ユニットで構成する。神社の屋根を外壁に利用した事例は、世界初だという。淡い水色から深い藍色など、それぞれのピースが持つ色の個性によって濃淡が生まれているが、これは酸素や二酸化炭素、水分が作用することによって銅が変色したことによるものだ。隈氏は、「色がそろっていないけど大丈夫か?と聞かれたが、僕は逆に“やった!”という感じだった。いろんな色があったほうがかっこいい」と振り返った。
店外には、買ったコーヒーを飲みながら、のんびりと過ごせるベンチを設置した。このベンチは隈氏が新国立競技場の設計を手掛けた縁もあって、旧国立競技場の椅子を再利用している。レトロなムードが漂う旧国立競技場のブルーの椅子に銅板を取りつけて加工し、歴史や技術力、つながりを集積した4脚を制作した。
店内には、ウチノ板金が手掛けたオブジェを飾る。“板金折り鶴”は、1枚の板金から折り紙を作るシリーズで、近年はドイツやフランス、代官山蔦屋書店などのワークショップで、その作り方を教えている。渡部尚東村山市長はこの“板金折り鶴”について、「海外に出向く際にお土産に持っていくと、すごく驚かれ、喜ばれる。この素晴らしい日本の技術を世界に伝えて欲しい」と太鼓判を押す。
“板金アニマルヘッド”は、フランスのペーパークラフトアーティストによるデザインをもとに、ウチノ板金が銅と真鍮で作ったシリーズ。これまでに牛や馬、サメ、猫などを制作しており、日本国内だけでなくヨーロッパからも問い合わせを受けるという。店頭には、新作の柴犬を展示した。
「先人が築いた時間を無駄にするのは、
さみしくてかっこ悪い」
ウチノ板金の内野代表は、自身が生まれ育った同市を拠点にする板金職人で、生粋の東村山市民だ。
同店がのれんを掲げる青葉商店街は、昭和50年代には約80もの店が軒を連ねたが、近年はシャッター街へと姿を変えていた。そこで、内野代表はこの街に恩返しができないかと、旧たばこ屋の建物を購入。その1週間後にたまたま知人を通じて隈氏と知り合った。内野代表の描くビジョンを聞いて隈氏は、二つ返事で協力することを決めた。“世界の隈研吾が東村山の小さな商店のリニューアルを監修する”。これには渡部市長も「のけ反るくらいびっくりした」という。「同じ頃、別の知人から神社に使われている銅板の廃材が出るという話を聞いて、これを活かした循環型建築を作ろうと閃いた」。
隈氏は今回のプロジェクトを「とても楽しかった。話したいことが山ほどある」と振り返る。「色むらのある銅板を立体的に盛り上げて、小さなたばこ屋さんが生まれ変わった。面白い再生の事例だ。日本の板金はどんなところにも対応でき、防水で、見た目も美しい。まさに宝だと思っている。そんな板金が建築だけでなく、プロダクトにも変わるというウチノ板金の発信も面白い」。渡部市長も同店を「モダンと懐かしさが共存する、素晴らしい建物」と称えた。
また、隈氏は「昔はゼロから大きな開発を立ち上げる方法が主流だったが、今はそういう時代じゃない」として、循環型建築を語った。「“今あるものをどう使って再生させるか”と考えるのが重要だ。あるものを活かせないと、それまで築き上げてきた時間が無駄になってしまう。それは寂しいし、僕にはすごくかっこ悪いと感じる。昔のものを大事に使えば、先人が築き上げてきた長い時間を味方につけることができ、懐かしさも漂うものができる。それが地域再生や現代の経済にも流用できる新しいやり方だ」。
■和國商店
住所:東京都東村山市青葉町2-5-6
アクセス:西武鉄道 東村山駅東口からグリーンバス「青葉商店街中央」下車/JR武蔵野線 新秋津駅からグリーンバス「青葉商店街中央」下車