「リック・オウエンス(RICK OWENS)」は、2024-25年秋冬メンズ・コレクションを現地時間1月18日に発表した。同ブランドのショー会場はパレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)が定番で、大量のスモークを焚いたり、巨大な火の玉を吊るしたりと、派手な演出が毎シーズン話題を集めていた。しかし今シーズンの舞台に選んだのは、パリの自宅だった。これまでよりも規模を縮小し、親密な空間で新作を披露したリック・オウエンス=デザイナーの狙いは何だったのか。
ミニマルな空間と異形のラバーブーツ
ショーノートには、自宅での開催について「私たちが生きている野蛮な時代を考慮した敬意ある行動」と綴った。不安定な世情だからこそ、派手な演出で瞬間的な話題を集めるよりも、ゲストとの親密な関係性を築いて記憶に残るショーを選んだのだろうか。会場となった自宅周辺には、いつものショー会場のように「リック・オウエンス」を崇める個性的なスタイルの若者たちの姿はほとんどなかった。階段を上ると無機質な空間が広がり、自らが手掛けた家具やアート作品が点在する。ショー仕様のレイアウトに変更したとはいえ、まるで生活感のないドライな空間には、アート作品の意匠が鮮明に浮き上がる。それはショーが始まっても同じだった。
ファーストルックは、同ブランドのショーではおなじみのタイロン・ディラン(Tyrone Dylan)が登場する。リブニットのボディースーツを折り返して筋骨隆々の上半身をあらわにし、足もとはバルーンのようにパンパンに膨らんだ“インフレータブル・ラバー・プルオン・ストレッチ・ブーツ”で、ゲストの感性を挑発するようなプロポーションを完成させる。いつものショーよりもゲストとモデルが至近距離のため、ラバーがこすれる音がさらに臨場感を高めた。大半のルックで着用したこのブーツは、ロンドンのデザイナーであり、これまで協業を重ねてきたStraytukayとの共作だ。「コレクションのプロポーションはグロテスクで非人間的である」とオウエンス=デザイナーが語る通り、以降も建築物のように実験的なフォームが連続する。
首元をすっぽりと覆うパッファージャケットは、大小さまざまなパネルや極端に長いリブで構成し、花のつぼみのような構造の先端から頭を覗かせる。鎧の肩当てのような形状だったり、胸元のみ極端に膨らんだりと、まるで混沌とした世界から身を守るようなプロテクティブなフォームである。一見すると奇妙に映るスタイルではあるものの、ラバーのブーツはロボットのようにも見え、シルクとアルバカのフェルトをシアリングしたマントは、スーパーヒーローの姿を想起させる。リサイクルしたカシミヤやアルパカ、メリノウールで作ったボディースーツは宇宙服のようでもあるし、フューチャリスティックなムードにピュアな遊び心も感じさせた。
素材では、タイヤをリサイクルしたジャケットやパンツに加え、ワックスと箔を何層も重ねた日本製デニムや、兵庫・姫路でなめして神奈川・厚木で縫製したバイカージャケットなど、日本のクラフツマンシップを生かしたアイテムも登場した。シグネチャーのプラットフォームシューズ“キスブーツ”の新作は、「インターネットで“キスブーツ”のパロディーバージョンを見たので、それをデザイナーのレオ・プロスマン(LEO PROTHMAN)に作ってもらった」という皮肉を効かせた。終盤には、プロテクターのようなアートピースをまとうコンセプチュアルなスタイルを披露し、ショーは静かに幕を閉じた。
ファンへの思いは不変
視覚的な情報を削ぎ落とした空間では、これらのアイテムはより一層強さを放ち、ゲストは引き込まれ、アート作品を見るように没入してく。素材感のニュアンスや構築的なディテールを見れば見るほど、鬼才リック・オウエンスのむき出しのクリエイションを体感できるショーだった。しかしオウエンス=デザイナーは、熱心なファンたちのことも決して忘れてはいない。「今回は、私のショーでつながりや慰めを求めて集まっていたコミュニティーをはね除けてしまったかもしれない。だから、今後の表現方法については考え直すつもりだ」。