「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」は、2024-25年秋冬コレクションをパリで現地時間1月19日に発表した。ショー会場として選んだ廃墟で披露した40ルックは“スピリチュアル・ワールド”をテーマに、ニュートラルカラーとテーラリングが中心の構成だ。冒頭を飾った白は、デザイナーの川久保玲にとって「祈りの象徴」だという。
モデルが身に着けた純白のウィッグに対し、コレクションに登場する白はさまざまなトーンで表現した。序盤はアイボリーに近い、象牙のような黄みを帯びた白。毛羽立ったフェルト状の柔らかな質感の生地で、同ブランドの核であるテーラリングを構築していく。
スーパータイトなシルエット
特徴的なのはシルエットで、ジャストフィットなショルダーに対し、ウエストはコルセットのように極端に細い。ウエスト部分をつまんだり、ボタンの両脇にファスナーを付けて締めたりし、どのジャケットもウエスト周りの生地はピンと張りつめている。カットアウト処理の縮絨ウールのジャケットから、ピンストライプやチェック柄に至るまで、ボタン位置をずらしたり、サイドの生地を折り畳んだりと、自らを拘束するようにスーパータイトなシェイプだ。一方で、ワイドレッグのショーツやニッカポッカ風の変形ボトムスは、たっぷりのボリューム。上下でシルエットに緩急をつけ、新時代のスーツを提案した。
ウエアに付く無数のボタンは、本来の留め具という機能性を排除し、装飾としてジャケットのヘムラインやショルダーラインに鈍い輝きを与えた。一つ一つは単なる点ではあるものの、連なることで線となり、線が重なって面になることで左右非対称のモチーフへと変化する。まるで、人々の結束をうながすようでもあった。
純白のシャツに躍動的なプリーツスカート、肌の上で幾何学模様を浮かび上がらせるニットウエアを差し込んで体を拘束から解放すると、終盤はインサイドアウトのジャケットを二着に重ねたウエストシェイプのシルエット。青みの強い白のジャケットの裏地は、生地をたっぷりと使うことで立体的なドレープが生まれ、優雅な風格を漂わせた。
シューズは、「ナイキ(NIKE)」との“エアマックス TL2.5(AIR MAX TL2.5)”と、前シーズンに続いてシューズブランド「キッズ ラブ ゲイト(KIDS LOVE GAITE)」ともコラボレーション。ミッドソールのパネルが大きく飛び出した個性的な形状のレザーシューズを制作した。
ファッションを通じた“祈り”
前シーズンのボタニカルモチーフを多用した色彩豊かなコレクションとは打って変わり、今シーズンはまるで世界から色が消えてしまったかのようなカラーパレットだ。異なるトーンの白で表現した“祈り”とは、原始宗教から仏教、キリスト教、イスラム教、神道を問わず存在する、人間の本質をなす営みともいえる。個人の望みを叶えたいという欲が“願い”であるならば、“祈り”は利他の精神を基にした不特定多数の他者を包括する望み。神、宇宙、創造主など、信仰によってさまざまな言葉が使われるが、“祈り”を捧げる対象は常に目視できない無形の存在、つまり精神的な世界(スピリチュアル・ワールド)の中でのみ可能となる行為だ。
黒のジャケットを裏返せば純白の裏地が優雅に現れるように、現実も精神世界も表裏一体。深刻化する戦争に混迷する国際情勢、災害に起因する環境破壊ーー混沌とした現実を前に、人間は何ができるのか。「コム デ ギャルソン・オム プリュス」のスーツは、ファッションを通じて”祈り”を捧げているようだった。