ファッション
連載 エディターズレター:FROM OUR INDUSTRY 第89回

安易には使えない「ヴィーガン」や「フリー」

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先日、「日本経済新聞」に日本皮革産業連合会が全面広告を打ちました。タイトルは、「ヴィーガンレザーに、レザーフリー。いつから天然皮革は悪者になったのだろう?」。「ヴィーガン」や「フリー」という表現に一抹の悲しさを覚えると続けます。

この連合会を率いる方からお話を伺ったことがありますが、私は「ヴィーガン」や「フリー」という言葉ではなく、「ヴィーガン」と「レザー」、「レザー」と「フリー」がセットになると問題が生まれるのだと思っています。

例えば「ヴィーガンレザー」という言葉には、「人々は、レザーのような質感の素材が欲しいと思っている。でも、レザーは『悪者』。だからレザーのような質感の素材をヴィーガン素材で作りました。どうでしょう?」という考えが滲んでいるようにも解釈できます。そんな文脈で用いる人もいるでしょう。きっと「レザー」という言葉を全然使わない名前だったら、例えば「ヴィーガンブラック」なんて名前だったら、「ヴィーガンブラック」はレザーの代替品として使われないはず。となると、レザーは「代替しなければならないモノ」という解釈にも一定の歯止めがかかるのではないでしょうか?

「レザーフリー」は、もっと直接的ですね。「フリー」にしなければならない「悪者」という解釈や発想の温床になっている表現にも思えます。

先日もお伝えしましたが、レザーの代替品として使われている非動物由来の素材については、キノコ類の菌糸体(マイセリウム)を培養して作る“マイロ”があります。“マイロ”を生み出したダン・ウィドマイヤー=ボルトスレッズ共同創業者兼最高経営責任者は、レザーの代替品としての可能性を見出してくれたステラ・マッカートニーやアディダスに感謝しつつも、一方で“マッシュルームレザー”という名前が広がったことでレザーの代替品としか捉えられなくなってしまった現実に後ろ髪を引かれている印象もありました。同社は今、“マイロ”を化粧品に使う可能性を検討しています。

言葉は、解釈を導きます。以前、このメルマガで書いた通り、従前なら「スタンス」や「マインド」と表現していたものを「アティチュード」と称した「サカイ」の阿部さんや「RMK」のYUKIさんのように、新たな世界を見せてくれる場合もあれば、“マッシュルームレザー”のように時には解釈を狭めてしまうこともあるのでしょう。

言葉を生業にして生きる者として、ちゃんと向き合い、考えたいと思います。

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