「サカイ(SACAI)」はパリ・メンズ・ファッション・ウイーク最終日の1月21日、2024-25年秋冬メンズとウィメンズの24年プレ・フォール・コレクションを発表した。今季、阿部千登勢デザイナーが掲げたテーマは、「United as One / One Love(一つに団結すること / 一つの愛:人種や信条、肌の色を問わずあらゆる人に対して表現する普遍的な愛や尊敬の意)」。ユニホームの再解釈でシルエットに光を当てながら、「一つになって進んでいく」という価値観を示した。
続く新たなシルエットの探求
ショーが始まると、会場を横から照らす暖かなオレンジのパネルライトが白へと変わり、モデルは強い光を浴びながら歩いてくる。ファーストルックは、フライトジャケットの下にロングコートをハイブリッドしたようなアウターに極太のバギーパンツを合わせたメンズルック。胸元や袖には、同色のワッペンが縫い付けられている。これは、ニューヨーク在住のスケーターでありアーティストのマーク・ゴンザレス(Mark Gonzales)と共に制作したもの。「One Love」とあしらわれた人差し指を立てたグラフィックをはじめ、「Sacai & Gonz」や「The Good Vibes Tribe」といったタイポグラフィが、ゴンザレスが愛用する「スピワック(SPIEWAK)」のG-8などのフライトジャケットや、デニムジャケット、コーデュロイ地のパファージャケットを飾る。同様のグラフィックは、Tシャツにも用いられた。
アウターは、その後もショート丈の裾からより長い丈が覗くスタイルが多出。メンズは、そこに同じトーンのバギーパンツを合わせることで縦のラインを強調しつつ、ダイナミックで新しいシルエットを描く。また、ギャバジンのトレンチコートとウールコートを縦で切り替えたハイブリッドアイテムや、中央からずらした位置にダッフルコートのトグルボタンをあしらったピーコート、ニットとシャツやフライトジャケットをドッキングしたトップスなど「サカイ」らしい提案が光る。
ここ数シーズン、特にウィメンズのメイン・コレクションで実験的なシルエットの探求を続けてきた阿部デザイナーは、そこで培ったアイデアも今季のクリエイションに盛り込んだ。象徴的なのは、24年春夏に見られたスタイルを応用したような丸みのあるラインを描く袖。スパンコール刺しゅうでノルディック柄を表現したショートブルゾンや金ボタンのダブルブレストコートからスポーティーなニットやパジャマシャツまでが、大胆なシルエットで生まれ変わった。一方、23−24年秋冬に見られた短冊状にスラッシュした生地をずらして重ね合わせるデザインは、2つの異なるアイテムの生地を交互につなぐことで新たなハイブリッドの形に進化。「本来あるべき場所とは異なるものにも美しさがある」という思いを反映したようなねじれを生かしたドレスもあり、ウィメンズのプレ・コレクションはこれまでよりも力強さを感じる。
ユニホームは「皆で団結して進んでいくこと」
再び会場がオレンジの光に包まれ、スマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)の希望を感じるロックナンバー「トゥナイト、トゥナイト(Tonight, Tonight)」が流れる中にモデルが登場したフィナーレの後、バックステージに駆け込んだ。そこで阿部デザイナーが今季のクリエイションについて語ったのは、「私たちの大好きなユニホームをデザインした。ユニホームには『United(団結した)』につながる『uni』と『形』を表す『form』という2つの意味があって、皆で団結して進んでいくということを表現している」ということ。そして「最近、身近で自分にとって衝撃的なことがあった。だからこそ、こうやって毎日の生活を送れていることへの感謝も含め、私たちは洋服を作ることを通して皆にハッピーになってもらいたいし、あらためて『One Love』というメッセージを伝えたかった」と続けた。
戦争や分断、天災、突発的な事故、残虐な事件などが次々と起こる世の中で、当たり前と思っていたことが当たり前じゃなくなることは誰の身にも起こり得る。そんなことをヒシヒシと感じる今だからこそ、平穏な日常は尊く、誰もがそれを享受できることを願ってやまない。「平和」という言葉を使わずとも、服を通して訴える阿部デザイナーのシンプルなメッセージは、強く心に響いた。