PROFILE: 保元道宣/オンワードホールディングス社長
デジタルによって会社の姿を大きく変えているのが、老舗アパレルのオンワードホールディングスだ。グループ国内売上高に占めるEC化率は約3割。特筆すべきは、その約9割が自社ECであること。自前のデジタル基盤を生かしたOMO(オンラインとオフラインの融合)に保元道宣社長は自信を深める。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)
経営効率をアップさせ
お客さまの満足度も高める仕組みを作る
WWDJAPAN(以下、WWD):24年2月期の連結営業利益の見通しが110億円。2008年のリーマンショック以降、最高益になる。
保元道宣社長(以下、保元):コロナ前から着手したグローバル事業構造改革によって、粗利益率が大きく改善して筋肉質になった。23年以降は売上高も上向いており、3〜11月期は主力の「23区」が前年同期に比べて17%増、21年にデビューした「アンフィーロ」が1.9倍、ペット用品の「ペットパラダイス(PET PARADISE)」が18%増だった。とはいえ、ようやく成長戦略のスタートに立ったにすぎない。大事なのはこれからだ。利益水準にまだ満足していないし、もっと上を目指さなくてはいけない。3年前に発表した2030年度に向けた中長期経営ビジョンの改訂版を春に出すので、具体的にはそこに盛り込む。グループ全従業員7315名が一丸となって前に進みたい。
WWD:売上構成のEC化率が国内で29%になった。
保元:自社EC「オンワード・クローゼット(ONWARD CROSSET)」を始めたのが09年。コロナ前は15%前後だったが、コロナ禍で一気に拡大した。コロナ前から構想していたOMO施策が、コロナ禍で実装に至った。当社の場合、お客さまがECで気に入った服を最寄りの店舗に取り寄せて試着できるサービス「クリック&トライ(C&T)」に成果が出ている。現時点でオンワード樫山の56%の店舗に導入されており、3〜11月の予約件数は約9万6000件にもなる。C&Tを利用するお客さまは取り寄せた服だけでなく、店頭でそれとコーディネートする服を買い求めるケースも珍しくない。シナジーが大きい。C&Tが機能するには、総在庫に占める自社EC向け在庫の比率が3割ほど必要だと、以前から考えてきた。それくらいの規模になれば在庫を自由に動かすことができる。当社はEC売上高における自社ECの割合が9割。ECを始めた当初から自社ECにこだわってきたのは、OMOを見据えた戦略だった。
WWD:なぜC&Tがこれほど早く浸透したのか。
保元:大都市の集客力のある店舗は、商品が手厚く配分される一方、人口が少ないエリアの店舗はどうしても品ぞろえが手薄になりがちだった。品番、サイズ、色の欠品が目立ち、お客さまをがっかりさせてしまう。でもC&Tで取り寄せれば、その不満を解消できる。販売員が薦めた服を取り寄せるケースも多く、来店機会の増加につながっている。あるいは「23区」の販売員が「ICB」の新作をお客さまに薦めることもある。エリアに「ICB」の店舗がないため、接点がなかったお客さまにもブランドを届けられる。当社では販売員をファッションスタイリストと呼んでいるが、まさにスタイリストとしてブランドの枠に縛られず接客できる。
WWD:OMO型複合店舗「オンワード・クローゼットセレクト(OCS)」もC&Tの拠点として機能している。
保元:百貨店やショッピングセンターで現在101店舗を運営する。ブランドの垣根なく、接客して販売する。自社ECをそのままリアル店舗にした感覚だ。地方都市の百貨店では、ブランド単独で出店していた店舗をOCSにまとめる場合もある。単独だと採算が取れなかったエリアがOCSにすると集客力がぐんと上がる。事業構造改革で撤退した地方百貨店にOCSで再出店するケースもある。エリア単位で店舗数は減っても、売り上げを伸ばせる体制ができた。当社の経営効率も高まり、お客さまの満足度も高まる。
WWD:「アンフィーロ」は今期に売上高50億円規模を達成する見通しだ。
保元:機能美をコンセプトに掲げ、“最愛ジョグパン”などのヒットを連発している。始まりはEC専用ブランドだったが、C&TやOCSを通じて実物に触れ、機能性とファッション性を気に入って購入されるお客さまが多い。ブランドの屋号を冠した店舗がないにもかかわらず、21年デビューからの短期間でこれだけの支持を得た。オンワードのOMO戦略を象徴するブランドだ。だいぶ認知も高まってきたので、この先にはブランドの世界観を表現する直営店が必要になるかもしれない。
WWD:OMOを社内に浸透させる秘訣は?
保元:全ての従業員に腹落ちしてもらうこと。OMOは長年のファッション業界の常識を変えるものだからだ。この2年間、私は全国の店舗の7割に出向き、OMOの重要性を説いてきた。商品企画、技能職、生産の各担当者にも直接説明し、たくさんの議論を重ねてきた。職種の壁を越えるのがDXの真髄かもしれない。お客さまの満足のために社内のベクトルを一つに合わせる。中国・大連の最新鋭のグループ工場と連携するオーダーメイドブランド「カシヤマ(KASHIYAMA)」もDXの賜物だ。デジタルの活用によってお客さまの体形にフィットした一着を短時間かつお手頃な価格で提供する。「ICB」や「五大陸」でも、ここのシステムを活用する。既製服が主力だった「五大陸」はスーツの8割がパターンメイドになった。当社は戦後に既製服への進出で現在の姿に発展したわけだが、再びカスタマイズが成長しているのも面白い。
会社概要
オンワードホールディングス
ONWARD HOLDINGS
1927年に樫山純三氏が大阪で樫山商店を創業し、戦後に日本を代表するアパレル企業に発展。中核会社のオンワード樫山は「23区」「ICB」「自由区」「J.プレス(J.PRESS)」「アンフィーロ(UNFILO)」などを展開。グループ会社には法人ビジネスのオンワードコーポレートデザイン、バレエ用品のチャコット、ペット用品のクリエイティブヨーコなどがある。2023年2月期連結業績は売上高1760億円、純利益30億円
オンワードホールディングス
03-4512-1070