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特集 CEO2024 ファッション編

【ワールド 鈴木信輝社長】持続的成長のため、多様性とチャレンジの文化に磨きをかける

PROFILE: 鈴木信輝/社長

鈴木信輝/社長
PROFILE: (すずき・のぶてる)1974年8月23日生まれ。京都大学大学院法学研究科卒。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)やローランドベルガー、ボストンコンサルティンググループなどを経て2012年ワールドに入社。15年から常務執行役員。18年から専務執行役員。20年6月から現職 PHOTO:KAZUO YOSHIDA

ブランド事業だけでなく、デジタル事業、プラットフォーム事業へと業容を広げるワールドの鈴木信輝社長が目指す姿は「ファッションに関することなら何でもやる会社」だ。2024年はしばらく抑制してきた新ブランド・新業態の開発にも積極的に乗り出す。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)

選択と集中で筋肉質に
次を見据えた新ブランド開発に本腰

WWDJAPAN(以下、WWD):2023年4〜9月期(上期)はコア営業利益が期初計画を5%上回った。

鈴木信輝社長(以下、鈴木):上期を勝負所と捉えて、ブランド事業ではトップライン(売上高)を取りにいこうと号令をかけてきた。コロナの5類移行で、ようやく通常モードで商売できたことが大きい。売り場のスタッフの士気が高まった。従業員にとっては厳しい3年間だったが、もう一度、前を向いて、お客さまの期待に応えようと皆が頑張った結果だ。

WWD:デジタル事業やプラットフォーム事業はどうか。

鈴木:デジタル事業はさまざまな方向で可能性を探ってきた。結果、ユーズドセレクトショップ「ラグタグ(RAGTAG)」や高級バッグのシェアリングサービスの「ラクサス」、オフプライスストアの「アンドブリッジ」を中心としたサーキューラー分野が想定以上の成長と収益拡大を果たした。一方でマスカスタムズ分野には見切りをつけた。「選択と集中」によってリソースを絞り込み、サーキュラー分野の成長を加速させていく。

長年培ってきた製造・販売・デジタルなどの仕組みを他社に提供するプラットフォーム事業は、人ありきのビジネスであり、先行投資と時間がかかる。それでもマネジメント基盤の整備や人材の強化によって上期は黒字化した。プラットフォーム事業は、クライアントの課題を解決する仕事。単純でありきたりのサービスでは付加価値を高められない。ワールドだから提供できる付加価値を追求していく。

WWD:24年度は何に取り組むか。

鈴木:26年2月期を最終年度にした中期経営計画「プランW」に基づき、25年2月期は「持続的成長と利益の証明」がテーマになる。昨年から攻めに転じ、結果も出せている。今年はさらにアクセルを踏み、コア営業利益で再上場(18年9月)後の最高益となる170億円以上を目指す。この数年、コロナ禍でたくさんのブランドを終息させざるを得なかった。従業員やディベロッパーの方々にも大きな傷みをお願いすることとなったが、本当に苦渋の決断だった。だが結果的に選択と集中が加速し、筋肉質な体質になった。継続しているブランドは明確な強みを持つものばかり。ワールド本来の多様性とチャレンジの文化を証明していく。

WWD:ブランド事業では新ブランド・新業態の開発に力を入れている。

鈴木:しばらく新ブランド開発が止まっていたが、昨年から再開した。婦人服では20〜30代向けの「ギャレスト」と「コードエー」を23年春に開始した。また12月にはOMO(オンラインとオフラインの融合)型の「アンタイトルギャラリー」の1号店を開き、「アンタイトル(UNTITLED)」だけでなく「インディヴィ(INDIVI)」「クード シャンス(COUP DE CHANCE)」「デッサン」などのECで扱う服を取り寄せて試着できるようにした。従来のように一気に出店するのではなく、ECとの連動で成長を見極めながらアクセルを踏む方法をとる。百貨店では既存ブランド以上に上質な婦人服を求めるお客さまの声が増えた。ここには「アンタイトル」から派生した「オブリオ」を24年春から本格化する。既存ブランドだが「シクラス」も感度の高いお客さまの支持が広がっている。ワールドとして手薄だった高価格帯も大きなポテンシャルがある。

WWD:既存ブランドの改革の成果は?

鈴木:「タケオキクチ(TAKEO KIKUCHI)」はコロナ前を上回る業績だ。今春からはアーカイブをアップデートした新レーベル「ザ・フラッグシップ」を販売する。世代を超えて長く愛されており、百貨店やファッションビル、ECだけでなく、台湾やタイでも人気がある。中期経営計画で掲げるマルチチャネル戦略のお手本といえる。近郊型SCに出店してきた「シューラルー」も広域型SCや駅ビルにも出店するようにした。従来のチャネル軸にこだわらず、お客さまとの接点を広げる。

WWD:MDの精度も磨かれてきたのか。

鈴木:ブランドごとにKPIは異なるが、それぞれ細かく設計している。仕入れ抑制はかなり浸透した。ただ、それだけではきちんと稼ぐことはできない。適時・適品・適量。地道なことの積み重ねだ。まずは定番商品を磨き上げる。マスターパターン一つとっても毎シーズン、ブラッシュアップする。新しい流行でヒットを作り出すことも大切だが、基本的な商品の競争力を高めないと持続的成長にはならない。

WWD:デジタル事業で注力するサーキュラー分野はどう強化するか。

鈴木:裾野が大きな領域だ。「ラグタグ」はブランド品のユーズドが支持されてきたが、低価格帯のカジュアルを売る「ユーズボウル」の出店を開始した。リユースに注目するブランドホルダーは多いが、仕組みを一から作るのは難しい。古着の回収、査定、単品管理、販売に至るオペレーションには独自のノウハウがあるからだ。そこでティンパンアレイの仕組みの外販を始める。「ラグタグ」はグループのサーキュラー分野の核になる。

リユースの成長には調達が欠かせない。現状21店舗の「ラグタグ」やオンラインを通じて買い取りを行っている。店舗を出店すると、オンラインの買い取りも増える。良い商品の確保は他社との競争である。買い取りに特化した拠点を出店することも検討中だ。

会社概要

ワールド
WORLD

1959年、神戸で婦人ニットの卸売業として設立。93年、小売業に進出。「アンタイトル」「インディヴィ」「タケオキクチ」「シューラルー」などのブランド事業を展開。ブランド事業のほか、デジタル事業、プラットフォーム事業と3つのセグメントを推進する。子会社としてブランド古着の買取・販売「ラグタグ」を運営するティンパンアレイ、子供服のナルミヤ・インターナショナルなどがある。2023年3月期連結業績(国際会計基準)は売上収益2142億円、純利益63億円

問い合わせ先
ワールド
078-302-3111(代表)