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特集 CEO2024 ファッション編

【TSI 下地毅社長】服が好きでたまらないファッション集団が活躍する会社に

PROFILE: 下地毅/社長

下地毅/社長
PROFILE: (しもじ・つよし)1964年12月28日、沖縄県生まれ。文化服装学院卒業後、97年上野商会に入社。2016年専務取締役執行役員商品本部長を経て18年に社長。TSIホールディングスでは19年6月に執行役員、20年5月に取締役営業本部長を経て21年3月から現職

多種多様な50以上ブランドを束ねるTSIホールディングスの下地毅社長は、大手アパレル企業では珍しいデザイナー出身の経営トップである。常々「ファッションの力を信じよう」と話し、現場を鼓舞してきた。今、改めて洋服屋としての原点に立ち返る。(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)

「好き」が生み出すエネルギーは
お客さまに必ず伝わる

WWDJAPAN(以下、WWD):14あった事業会社を段階的に統合し、22年秋に青山の本社オフィスに集約してから1年以上が過ぎた。

下地毅社長(以下、下地):人事、総務、システムといった部門も統合し、組織をスリム化できた。だが、それ以上の効果は人の交流だ。TSIが運営する50以上のブランドの担当者たちが密接に言葉を交わせるようになった。本社1階はショールームになっており、婦人服からアメカジ、ストリートウエアまでさまざまなブランドを並べている。そこには社内向けに運営する「アースカフェ」が出店しているので、日常的に従業員が集まる。自分が所属するブランドの軸だけで考えるのではなく、他のブランドから学ぼうとする気運が高まった。また人事の面でも社内公募制度を実施し、自発的な異動で挑戦の機会を提供した。TSIの多様性を人材活用の強みに転嫁する。

WWD:一丸となった上で2024年は何に取り組むのか。

下地:まずは低収益からの脱却だ。前期(23年2月期)の営業利益率は1.5%。これを当面は5.0%以上、その先には8%を目指す。販管費を抑制しつつ、しっかり稼ぐ。収益性が低いままだと、次の成長に向けた投資ができない。TSIにとって最優先課題だ。すでに業務の棚卸を始めている。それぞれの部署で収益性、業務内容、人員などを精査しているところだ。配置換えも積極的に行う。働き方も含めて大胆に変える。詳しくは4月に発表する新しい中期経営計画に盛り込む。

WWD:異なる事業会社が集結したTSIを束ねる旗印はあるのか。

下地:私たちは洋服屋というアイデンティティーを共有している。服が好きで好きでたまらないファッション集団であることがエネルギーだ。それはお客さまにも伝播する。スタッフには「縮こまらずに、どんどん面白いことをやってくれ」とよく話している。サンフランシスコの古着を着想源にした「セブンバイセブン(SEVEN BY SEVEN)」は、昨年9月の東京コレクションでランウエイショーを開いた。代々木上原に旗艦店を出店するタイミングで、多くの関係者に見ていただく機会を作った。デザイナー川上淳也さんのクリエイションへの熱が伝わるショーだった。外への発信だけでなく、スタッフのモチベーション向上にもつながる。他のブランドのスタッフも刺激を受け「次は私たちの番だ」と思っている。作り手が楽しんで、発信するエネルギーは推進力になる。

WWD:パーパスとして「ファッションエンターテインメント創造企業」を掲げている。

下地:ファッションは社会を変えていける、世の中をもっと楽しくできる。そんな思いが私たちの出発点だ。さまざまなテイストの婦人服からセレクトショップ、アメカジ、ストリートウエア、ゴルフウエア、アウトドアウエアまで事業領域は幅広い。持っていないのは子供服とテーラードスーツくらい。それぞれの領域の強い部分をより強くすれば、どこにも負けないファッション企業になれる。私自身が服が大好きなファッション野郎だし、ファションの力を信じている。

WWD:期待している領域はどこか。

下地:「アドーア(ADORE)」「ル フィル(LE PHIL)」「ヒューエルミュージアム(HUELE MUSEUM)」といったアッパーゾーンの婦人服がとても元気だ。コロナ収束後、思い切りおしゃれがしたいという女性の期待に応えている。デザイン性に優れた時代性のある服を、厳選した素材と計算されたパターンで提供する。知名度はまだまだだけど、きらりと光るものをお客さまも感じてくださっている。大量生産・大量消費の服とは明らかに異なる立ち位置で、高価格帯にもかかわらず売れている。「ヒューエルミュージアム」ではアート作品との協業など、新しい挑戦も続けている。

WWD:一方でけん引役だったゴルフブランドが失速している。

下地:確かに大黒柱の「パーリーゲイツ(PEARLY GATES)」は上期に減収になったが、コロナ禍の急成長の反動であって巡航速度に戻ったと見ている。ロイヤルティーが高いお客さまに支えられているブランドなので心配していない。「ジャックバニー」「ニューバランスゴルフ」「ピンアパレル」は順調に成長している。

WWD:サステナビリティへの取り組みは?

下地:アパレル企業といえども原料までさかのぼることが欠かせなくなる。農業ベンチャー企業のシンコムアグリテック社と資本業務提携し、インドのタミルナドゥ州で試験栽培していた綿花から初めて紡績糸が完成した。当社のブランドの中で製品化を進めている最中だ。今後は作付面積も増やして、オーガニックコットンの採用を広げる。また素材ベンチャー企業のフードリボンと組み、パイナップルの葉から抽出した繊維を使った服を開発している。フードリボンは沖縄やインドネシア、フィリピンなどのパイナップル農家に繊維を抽出する機械を貸し出し、量産態勢に向けて動き出している。これまで大量に廃棄されていたパイナップルの葉を服の素材に活用する。原料までさかのぼった取り組みは、ファッションの未来を考えるととても夢がある。

会社概要

TSIホールディングス
TSI HOLDINGS

旧東京スタイルと旧サンエー・インターナショナルの経営統合によって2011年6月に設立。主なブランドは「パーリーゲイツ」「ナノ・ユニバース」「マーガレット・ハウエル」「ナチュラルビューティーベーシック」「ハフ」「アヴィレックス」など。2023年2月期連結業績は売上高1544億円、純利益30億円。従業員数は4206人

問い合わせ先
TSIホールディングス
03-5785-0412